炎呪転生~理不尽なシスコン吸血鬼~

黄崎うい

30節 天使の小屋と悪魔

 そして、朝が来た。

「なんか懐かしい夢を見たよ」

「私もだ。まったく……寝てるだけでストレスがたまる」

 朝日も届かない暗い部屋で二人はほぼ同時に目を覚ました。すぐに行動できる大悪魔と数分は布団から出ようとしないイロクは逆に寝た方がよかったかもしれない。

「兄ちゃんどいて」

「兄ちゃんやめろ。私ももう起きるから待ってろ」

 イロクは目を擦りながらそう言って大きく欠伸をした。まったく布団から出る気配がしない。数分経ってようやくイロクが起き上がったことを確認してから大悪魔はベッドから降りて着替え始めた。

「ん? いつも思うんだけどさ、その服動きにくくないか? 私も持ってるが」

「え? あぁ、うん。すっごく」

 イロクの質問に黒地に白の装飾の付いた服に袖を通しながら大悪魔は答えた。無駄に派手。無駄に袖口が広い。無駄に丈が長い。無駄に重い。歩いて行動するにはまったく向かない。来たことある者は皆口を揃えて言う。

 サイテーな服だ。

「だよな。わたしは昨夜着替えるの忘れて寝ちまった。じゃあ、私はそろそろ行くから、ちゃんと仲直りするんだぞ、ラウカ」

「うん、兄ちゃんもシアラに迷惑かけないようにね」

「うっさい」

 余計なお世話だという顔をしながらイロクは大きな扉を閉めた。どうして弟にそこまで世話されなきゃならないんだと眉間にシワを寄せながら廊下を歩いていると、二人の下っ端悪魔に会った。

「イロク様! 」

 呼ばれた瞬間、うっわぁめんどくせぇ外飛んでいけば良かった、と思ったが、それをどうにか顔に出さないように答えた。

「どうしたんだ。大悪魔様と大天使の喧嘩なら今日終わるぞ」

「それはよかった……。って、そんなことじゃないです! 」

「あれでもギリッギリ大悪魔様なんだからそんなことって言うのはよくない」

 さっきの恨みが間だ残っているらしい。悪意しかない言葉選びと声で後輩に忠告した。建前上だけでも大悪魔を強く、偉い存在だと後輩にわからせることもイロクの仕事だ。

「ですがっ! 」

「あたしから話します。イロク様、今すぐシアラさんの小屋に行ってください。大変なことが起きてる気がするそうです」

 イロクを呼び止め、ずっと一人ではなそうとしていた悪魔の口を押さえたもう一人が冷静に説明した。

「そうか、お前が透し術のやつか。わかった、ありがとう。……あ、仕事しろよ! 」

 一人で勝手に納得すると、イロクは歩くのをやめて飛んでいくことにした。下に降りていけばあまり離れていないはず。そして、思い出したかのように印象稼ぎ(笑)のために教えてくれた二人に笑顔で指示した。

「なんだか嫌な予感がしてきた」

 そして、小屋についてシアラを探そうとすると、イロクは目を丸くして驚き、手が震えていた。

「……は? なんなんだよ……これ、シアラは……どこだ? 」

 そこは見慣れたはずのシアラの小屋なんかではなかった。見た目は変わらないが、嗅ぎなれない錆びた鉄の臭いが充満しているよくわからない場所だった。

「炎呪転生~理不尽なシスコン吸血鬼~」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く