炎呪転生~理不尽なシスコン吸血鬼~

黄崎うい

21節 大天使と悪魔の制服

 イロクは天使二人の先を飛び、白い霧が広がっているこの空では見えなくなるほど遠くを飛んでいる。服と髪が黒くなければ見失ってしまうだろう。

 やがて、空は黒くなる。黒い雲の中を飛び始めるイロクの姿は一見見失いそうだが、翼が白いのでよく目立つ。隠れるのには向いていない配色だ。

「……制服のズボンくらいは黒を履けば良いと思いますよ、私は……」

「私もそう思います。私の服と違って着替えも楽なはずなのに……」

 後ろでこそこそと話している声を聞いて振り返らずに反論した。

「いつだかの天使のせいで私は黒のスカートしか持ってないし。ヒサと同じ服も持ってるぞ、いつでも大悪魔になれるように……な」

 制服が新しく変わるというときにイロクはまだただの天使だった頃の大天使に仕事で忙しかったシアラの分も含めて取りに行かせた。前の制服では動きやすいからという理由で二人ともズボンを履いていたことが間違いだった。

 当時の大天使が二人のために持ってきたのは白いズボンと黒いスカートだった。

「色は自由なんですから良いじゃないですか。スカートかズボンかも性別を問いませんし、そんなに気になるならスカートを履いてください……」

 一般の天使と悪魔の制服はシャツ、スボンまたはスカート、ジャケット、ポンチョ、手袋から成っている。ジャケットは種族や性別で切るものが決まっているが、ズボンかスカートかは自由で、それと手袋は色も自由だ。白と黒しかないが。

「ちゃんと長さを見ていれば間違えなかっただろって言ってんだ」

 男女のもので外見が明らかに違うものはジャケットだけだ。女の天使や悪魔が身に付けているのは臍くらいの高さで前が真ん中から別れているが、男の天使や悪魔が身に付けているのは、膝より高いくらいの場所で別れている。よっぽど節穴でなければ簡単に見分けがつく。

「長さではなく、話し方や雰囲気で見ていたのです。紛らわしい話し方をするあなた方が悪いのです……」

「ほーう。私たちが悪いと言うのか。今日こそはヒサを始末した方が良いかもな」

 自分達の話し方のせいで間違えたと言われたイロクは怒りを顔に露に出して大天使たちの方を振り返った。本気で言い争っている二人を横目に、またはじまりましたか、何て思いながらカオルは少し距離をとった。

「やりますか? 良いですよ? 大天使になった私の本気をお忘れではないですよね……」

「その本気のヒサを私が本気で殺せば良いんだろ? 簡単だ」

 大悪魔の部屋に近づいているのは良いものの、宮殿で二番目くらいに争わせてはならない二人として名高い組み合わせが喧嘩するのは空気が悪い。

「……動けないくせに……」

 このままではまずいと思ったカオルは、こっそりとその場を離れ、一人で大悪魔の部屋に向かった。

 しかし、イロクがいないので裏口は使えない。大広間から行くしかないと結論を出したカオルは、大きなため息を一つついた。

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