炎呪転生~理不尽なシスコン吸血鬼~

黄崎うい

14節 天使と悪魔の影

 イロクの使う術。それは、天使は誰も使うことができず、悪魔でもイロクしか扱えない。特別な能力と言った方が正しい。

 他者の影を飼い慣らし、その影にまだ生きている者の影を狙う。影を取られればその者は再起不能になり、数秒で死に至る。

 イロクは何百、何千もの影を飼っている。その中には天使のものも悪魔のものも存在する。自然に死んでいった者にも数日は影が残るので、その影を吸収しているのだ。

 影にも本来、多少は自我が存在している。本体についているときにはそれが現れることはほとんどないが、剥がれ、影単体となれば内に隠していた自我は露になる。

 影は基本孤独が嫌いだ。孤独になりたくないから本体から剥がれることはない。剥がれた後も新しい影の友達を探し続ける。新しい主人がいればその者に懐く。

 イロクは自らの影も剥がし、他者の影を吸収し、その本能を利用して戦力にしているのだ。

「私の影たちは優秀だ。主人の言うことをよく聞いてくれるし、逆らうなんてしない。今はこの子たち殺る気だし、近づいたら死んじゃうよ? それでも、まだやるのか? 」

 自分の左右に転がる二つの死体を見ないようにしてイロクは天使に言った。初めは笑顔でだんだんと悲しい顔で。

 そんなイロクのことも知らず、イロクの影からはボコボコとお湯が沸いたように飛び出していた。

「……何故通りたいのか聞いてなかった。イロク、あなたはどうして大天使様のところに行きたいの? 」

「大天使を殺しに行くって言ったら……どうする? 」

 イロクが言い終える前に数十の天使がイロクの方へと向かっていた。飛んで上から襲ってくる者も走って襲ってくる者もいた。

 もちろん影は飛んでいく。誰一人漏らすことなくすべてに影一つずつ飛んでいく。

「どうする? って聞いただけじゃないか。私の影は大天使の能力には効かないよ。私じゃ殺せるわけない。今動かなかった天使は優秀だな」

 いつもの笑顔が消えた無表情でイロクは言った。声は笑っているが、顔は少し寂しそうにも見える。

「……本当の目的は? 」

「今回の喧嘩がどうして起こったのか本人に聞いてみようと思ってな。私も一応は聞いてるが、本人に聞かないと正しいことはわからないだろ? 」

 ということにしておいた。特に理由はないし、ただの時間稼ぎのためにすぎなかった。もっと簡単に解決しようと思えばできるけれど、唯一この能力に頼らなかった友人の頼みだから絶対にやらない。

「……私の口から説明しましょうか? その場に居合わせましたので……」

「これはこれは。No.2ではないですか。お久しぶりだな、腕は鈍ってないか? 」

 大天使の次に力を持つ天使がイロクに少し近づいた。明らかに顔色が悪い。

「……無駄話はしている暇はないです。それに……あなたといると気分がよくないので……」

「固いことを言うな。私たちの仲じゃないか、私にはお前を殺せないし、一つどうだ? 」

 普段通りなら無視して大天使のところに向かうが、久しぶりに会ったし強さも試したいということにして戦ってみることにした。

 普段ならあり得ない。No.2を含めてすべての天使がざわめいた。

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