炎呪転生~理不尽なシスコン吸血鬼~

黄崎うい

11節 天使と悪魔と争い

「……貴族が皆こんな感じだったらよかったのにね」

 イロクが少女の心臓を止め、死んだことを確認してからしばらくしてシアラが少女の部屋で言った。二人で少女の死が他の民に確認されるまではこの場に残ろうと決めたのだ。だが、二人は確信していた。日が昇り、本来の起床時間が過ぎたとしてもしばらくは彼女の死が明らかになることはない。

 少女の部屋には生活感が残っていた。ときどきこの部屋に引き籠っていたのだろう。数日帰れないのはまずい。どうにか二人は話し合って朝になっても誰も気が付かなかったら倉庫に戻ることにした。

「あ、そうだ。ねえ、イロク」

「なんだ? 」

 二人は部屋に薄い光が入り始めるまでずっと口を閉ざしていたが、何かを思い出したシアラがイロクに話しかけた。

「今日争いが起きるから」

「……了解した。今回も早めに終わらせるからな」

「それなんだけどさ。この子見てたら少しやりたいことができたんだよね。だからさ、今回はしばらく帰ってこないでくれない? 」

 シアラは、少女を見て相談しようと思っていた内容を変えた。何をしたいかではなくただやりたいことがあるとだけ伝えて勝手にやることにした。そのためにはイロクをしばらく遠ざける必要がある。

 生まれ持った能力とその弱い自分には強すぎる力だけでどうにかしなければならない。それがイロクに迷惑を最低限しかかけない方法だった。成功は、しないかもしれない。

「もちろんだ。お前の頼みなら何か考えがあるんだろう。出来るだけ長引かせてやる」

「何カッコつけてるんだか。そう簡単に出来ることなの? 出来てもらわないと困るんだけどね」

 民が一人死んだだけの空間。天使と悪魔が悲しんだりするには足りない。多くの命を操る死神が一人の死で泣くわけがない。そういうものだ。

 既に二人は倉庫に帰る途中だ。少女のことを忘れることはないだろう。それでも今まで通りに民を生かし、殺し、争いに備える。

 そして、シアラは作戦を始めることにした。

「あーーーーー! やっとイロク先輩帰ってきた! 」

「……後輩? 」

「そうだ。争いが始まったみたいだな。行ってくるよ」

 シアラの倉庫に着くと、入り口の前に一人の悪魔がいた。悪魔の女の子でシアラも何度か集会で見たことがある子だった。

「今回の原因は? 」

「大天使様が大悪魔様の楽しみにしていた果物を勝手に食べたそうです」

 争いが起きる三大原因の一つ。『楽しみにしてたの食べられた! 』が今回の原因らしい。こんなふざけたことで争うなとはよく言われているが、収まることはない。

「ははは。後輩、安心しろ。今度のは長引くと予言されたからな」

「目が死んでますよ、先輩……」

 今回の争いは大悪魔の怒りが落ち着けば収まってしまう。シアラは大悪魔相手に煽れと言ったのだ。イロクの顔から笑顔と血の気が引いた。

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