炎呪転生~理不尽なシスコン吸血鬼~

黄崎うい

9節 天使と悪魔の仕事見学

 少女が住んでいる屋敷はそれほど離れていなかった。徒歩で貴族が遠出するわけもないので当然のことではあったが、こんなに短い距離はいつも飛ぶより歩く派のシアラにはそれだけでかなり新鮮だった。

「この子用心深いな。窓も扉も全部鍵がかかってる。忠告したからか? 」

 少女の寝室の周辺をグルグルとしていたイロクがシアラにそう話しかけた。シアラはうろうろしているだけのイロクを見て何をしているのか検討もつかなかったが、その言葉を聞いて納得した。

「それは違う。彼女は寝顔を従者に見られたくないから扉のドアを締め切って窓から何かが入ってくるのが怖いから窓も閉めてカーテンも開けないのよ」

「へぇー、詳しいな。理由が乙女らしかったり子供らしかったりだけど」

 シアラはメモ帳を取り出してそこに書かれていたことを読んだだけだ。民を生かすことにも殺すことにも活用できる情報は天使の中では有名だ。それを誰もイロクに教えなかったんだろう。そうでなければ驚くほど珍しいものではない。

 強すぎるがあまり他の天使とあまり接点がないのは可哀想だ。シアラは少し哀れな気持ちになった。

「そんなことより、どうすんのこれ」

「シアラ、お前はこの程度で私たち悪魔は対象の寝室に遊びに行けないと思うのか? 天使と違って民と話す仕事じゃないんだから勝手に入ればいいんだよ」

 シアラがイロクに呆れたように尋ねると、イロクはニッと笑って窓を指差した。逆光で暗いイロクの顔だったが、その瞳が光輝いていた。

「あーーーーーー。俺たち不法侵入し放題だもんね」

「確かにそうだけどさ……。言い方考えてほしいよな。今日のお前の方が不法侵入っぽいしさ」

 民の作ったものに干渉するもしないも天使と悪魔は自由だ。つまり、壁なんて容易にすり抜けることが出来る。

「ほら、シアラも来いよ」

「……言われなくても」

 半分ほど壁にめり込んだ状態のイロクがシアラを呼んだ。うわぁ、変な格好だなぁ。と思いながらも壁に顔から入っていった。

「……見えてなくてよかったわね」

「……この時間にこんな子供が起きてるのは私も想定外だよ。寝る子は育つって知らないのかな」

「でも仕事するんでしょ? 俺は明日用事があるから早く帰って寝たい」

 自分でも眠たくて仕方がない時間なのに対象の少女が起きていたことにシアラは驚いた。少女は二人に気づくことなくベッドに座り、手紙を読んでいた。

「……あの子なら……まあ、見てなって」

 イロクは仕事のときは真剣だと聞いていたが、本当にそうかは不安だった。けれど、今の顔を見てシアラは確信した。真面目だ。

「やあ、お嬢様」

 イロクは悪魔の姿のままで少女に話しかけた。

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