炎呪転生~理不尽なシスコン吸血鬼~
26節 さわんな
「ええ。いいわよ。ここに、あいつらはいないのだから」
"あいつら"がいない。その言葉が決めてになったのか、もとからそのつもりだったのか、アルゴライムは立ち上がってヒトミに言った。
「あいつらが誰かは知らない、でも覚えてる。あの事件の被害者だってお姉ちゃんに聞いた」
アルゴライムには思い出せない記憶がある。小学校を卒業する少し前、その冬に起きた事件とその前後のことだ。その事件の直後から、アルゴライム(都 若菜)は変わった。
「都 若菜」
若菜が小学五年生だった時のことだ。良いことは一つもなく、訳も分からず男子に喧嘩を振られて少なくともいい気分ではない夏の通学路を一人で帰っていた若菜に、ランドセルのよく似合う少し背の高い少年が話しかけた。
「……」
無言。若菜が、この少年を不審そうに睨んでいると、値踏みするように若菜のことを見ていた少年は、若菜に近づいてもう一度話し掛けた。
「おい、無視するな。俺は六年の榊 五日、榊 六日の兄だ」
「ああ、そう。で、何か? 」
無愛想。面倒くさいと顔でそう語りながら少年を見上げ、さらに睨んだ。
「おい、気にならないのか? 」
「何が。私、おねーちゃんが帰ってくるまでにやることあるから帰る」
「お、おいっ! 」
若菜が抑揚のない言葉を並べてその場を去ろうとすると、五日は若菜の腕をつかんでそれを止めようとした。
「さわんな」
若菜のその言葉は、その日で一番ハッキリとした言葉と意思だった。
そして、その捕まれた腕を利用し、小学二年生くらいの身長しかない自分よりも中学生くらいの身長はある相手を低い体制に持っていき、鳩尾に膝をいれた。
「うっ……」
「反射的にやっただけだから自分を恨めよ、陸上が将来有望な榊 五日」
若菜は、そのまま五日のランドセルから筆箱を奪った。
「返してもらいたければこのまま私を帰すことだ。明日、六日さんを通して返す」
若菜は、黒い少しボロくなっている筆箱を持ったまま家に向かった。鳩尾にかなり深く膝が入ったのか、五日はそこを動くことが出来なくなった。
若菜が完全に見えなくなると、物陰から一人、ポニーテールがご機嫌に揺れている一人の少女が出てきた。
「だから言いましたよね、五日にぃ。彼女に喧嘩を売ってはいけないと」
「う、うるせぇら。六日、なんだよあいつ……」
小学五年生女子の平均的な身長の榊 六日は、目の前で踞っている五日を見下すように見てからそう言った。そして、五日からの問いを少し考えてから答えた。
「えぇと、一日ねぇがよく言ってる麗菜さんの妹、うちの小学校では時々ヤクザの子供と囁かれるほどの暴力魔、見た目で嘗めたら殺されるかもしれない都 若菜さんですね」
「面倒だから手を抜いたってことか、生きてた」
「ですね。因みに、一度でも身長のことをいじったやつは一週間くらい学校を休むそうです。ほとんど話してはいませんが」
そんな話をしながら、五日は六日の手を掴んで立ち上がった。その時も、六日はずっと若菜の家の方を見ていた。一度、一日に連れられて行ったことのある家の方向だ。そのときは、嫌な顔だけされてお茶とお菓子をもって逃げられた思いでしかなかった。
「まあ、一日ねぇに言ってみて、麗菜さんと要相談。それが一番です」
六日は、未練があるようにそこから動こうとしない五日の腕を引っ張りながら、正反対の方向にある榊家に帰っていった。
"あいつら"がいない。その言葉が決めてになったのか、もとからそのつもりだったのか、アルゴライムは立ち上がってヒトミに言った。
「あいつらが誰かは知らない、でも覚えてる。あの事件の被害者だってお姉ちゃんに聞いた」
アルゴライムには思い出せない記憶がある。小学校を卒業する少し前、その冬に起きた事件とその前後のことだ。その事件の直後から、アルゴライム(都 若菜)は変わった。
「都 若菜」
若菜が小学五年生だった時のことだ。良いことは一つもなく、訳も分からず男子に喧嘩を振られて少なくともいい気分ではない夏の通学路を一人で帰っていた若菜に、ランドセルのよく似合う少し背の高い少年が話しかけた。
「……」
無言。若菜が、この少年を不審そうに睨んでいると、値踏みするように若菜のことを見ていた少年は、若菜に近づいてもう一度話し掛けた。
「おい、無視するな。俺は六年の榊 五日、榊 六日の兄だ」
「ああ、そう。で、何か? 」
無愛想。面倒くさいと顔でそう語りながら少年を見上げ、さらに睨んだ。
「おい、気にならないのか? 」
「何が。私、おねーちゃんが帰ってくるまでにやることあるから帰る」
「お、おいっ! 」
若菜が抑揚のない言葉を並べてその場を去ろうとすると、五日は若菜の腕をつかんでそれを止めようとした。
「さわんな」
若菜のその言葉は、その日で一番ハッキリとした言葉と意思だった。
そして、その捕まれた腕を利用し、小学二年生くらいの身長しかない自分よりも中学生くらいの身長はある相手を低い体制に持っていき、鳩尾に膝をいれた。
「うっ……」
「反射的にやっただけだから自分を恨めよ、陸上が将来有望な榊 五日」
若菜は、そのまま五日のランドセルから筆箱を奪った。
「返してもらいたければこのまま私を帰すことだ。明日、六日さんを通して返す」
若菜は、黒い少しボロくなっている筆箱を持ったまま家に向かった。鳩尾にかなり深く膝が入ったのか、五日はそこを動くことが出来なくなった。
若菜が完全に見えなくなると、物陰から一人、ポニーテールがご機嫌に揺れている一人の少女が出てきた。
「だから言いましたよね、五日にぃ。彼女に喧嘩を売ってはいけないと」
「う、うるせぇら。六日、なんだよあいつ……」
小学五年生女子の平均的な身長の榊 六日は、目の前で踞っている五日を見下すように見てからそう言った。そして、五日からの問いを少し考えてから答えた。
「えぇと、一日ねぇがよく言ってる麗菜さんの妹、うちの小学校では時々ヤクザの子供と囁かれるほどの暴力魔、見た目で嘗めたら殺されるかもしれない都 若菜さんですね」
「面倒だから手を抜いたってことか、生きてた」
「ですね。因みに、一度でも身長のことをいじったやつは一週間くらい学校を休むそうです。ほとんど話してはいませんが」
そんな話をしながら、五日は六日の手を掴んで立ち上がった。その時も、六日はずっと若菜の家の方を見ていた。一度、一日に連れられて行ったことのある家の方向だ。そのときは、嫌な顔だけされてお茶とお菓子をもって逃げられた思いでしかなかった。
「まあ、一日ねぇに言ってみて、麗菜さんと要相談。それが一番です」
六日は、未練があるようにそこから動こうとしない五日の腕を引っ張りながら、正反対の方向にある榊家に帰っていった。
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