炎呪転生~理不尽なシスコン吸血鬼~

黄崎うい

12節 リリス

 無言の空間。周りを歩いて回る管理者たちも口を利くことはない。つまり、完全なる無音の空間。時々響く足音と紙をめくる音がなければ、そこは音という概念が存在しないかと思うほどに静かな空間だった。

「……ぁ……ぁ……ぃ……ぇ」

「何事ですか? 」

 どこか遠くからどう考えても感情を持っているだろう者の声が聞こえてきた。まだその声は遠すぎてよく聞き取れなかったが、アルゴライムにはどこかで聞いたような覚えがあった。

「はーなーしーて! 」

 だんだんに声が鮮明になっていき、はっきりと何を言っているか判断できるようになると、その声の主が誰なのか、アルゴライムははっきりと理解した。そして、その瞬間声のする方に顔を向けて叫んだ。

「リース! 」

「ライム! …………」

 アルゴライムに呼ばれたリリスは、アルゴライムだとわかると助けを求めようとしたが、言葉につまり、それをやめた。アルゴライムには原因がよくわかっている。リリスを殺したのはアルゴライムだからだ。

「アノニム! リースを離してください。リースを引きずって何がしたいんですか! 」

 リリスはアルゴライムをどこか怯えたような目で見つめ、会話ができそうな状態ではなかった。なので、リリスを掴んで引きずっている張本人であるアノニムに呼び掛けた。すると、アノニムらしくない明るい笑顔を浮かべて答えてきた。

「アルゴライム、私はヒトミ……神の指示通りにリリスを連れてきただけだ。だから心配はない。それどころか感謝してほしい。謝罪をして、説明をする機会を与えてあげたんだからな」

 アノニムはそう言って、手足を縛られて身動きのとれなくなったリリスをアルゴライムの座っているソファの目の前に投げた。

「痛たたた……」

 エラーではないリリスは、アルゴライムたちと違い、この環境でも痛みを感じるらしい。腕を強く地面に打ち付けたらしく、痛がっていた。

「アノニム! 」

「ありがとうね。あとはやることわかってるわよね? わかってるなら私は仕事に戻るわ。アルゴライム、この本もらっていくわね」

 アルゴライムは、痛がっているリリスを見てアノニムに対する僅かな怒りを感じた。しかし、ヒトミに口を挟まれたことで、その怒りをアノニムにぶつけ損ねた。

「構いませんよ、私も作れますし」

 アルゴライムがヒトミの問いに答えると、ヒトミは笑顔でその場を去っていった。

「さてと、私の事はとりあえず後回しにしてさ、アルゴライム。リリスに何か言うべき事があるんじゃないのか? 」

 しばらくして、アルゴライムの怒りが再びアノニムに向かいそうになると、アノニムがそう言った。

 また怒りをぶつけ損ねた。少しモヤモヤとしながらも、アルゴライムはリリスに頭を下げた。

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