炎呪転生~理不尽なシスコン吸血鬼~

黄崎うい

10節 "小さい"

「良くないですよ。それより、不知火さんとわたしって面識あるんですか? 」

 ヒトミはアルゴライムに向かって全員と面識があると言った。しかし、不知火あゆみとの面識には覚えがなかったのだ。

「あら? 覚えてないの? せっかく好きな本の作者に会ったのに」

「ええ、私の記憶にはありませんよ。だいたい、不知火さんは顔も公開していませんし、年齢、本名一切不明だったんですから」

 不知火あゆみは、彼女自身がゆーちゃんのような存在であることにこだわり、自分の情報を一切公開していなかった。性別がなんとなく女だということになっていたことは、SNSでの発言からそんな感じがしたというあやふやな言葉だけだ。

「会ってるのよ、貴女。まあ、不知火あゆみは偽名を名乗っていたんだけどね」

「わかると思いますか? 偽名名乗られてわかったらすごいと思いますけど」

「まあ、そうね」

 アルゴライムは、偽名を名乗っていたということを聞いてもう一度自分の記憶を辿っていた。しかし、それらしい記憶は全くと言って良いほどなく、やはり会っているとは思えなかった。

「もう少し自分で考えてみる? 」

「はい。……何かしらのヒントをいただければわかるかもしれません」

 アルゴライムは考えても答えのでない問いに少しだけ嫌気を指していたが、ここで答えをヒトミから聞くのもなんだか嫌だった。だからか、ヒントを要求した。これでわかるかもしれない。その僅かな可能性にかけたのだ。

「そうね……。あ、かなり小さいわよ……。おっと……」

 禁句。一言で表せばそうできる。アルゴライムの目の前で絶対に言ってはいけない言葉の一つ。"小さい"ということ言葉には多くの意味を含んでいる。その多数存在する意味の中でアルゴライムに向けて言ってはいけない言葉は(身長が)小さい という意味だ。

「…………誰が小さいっておっしゃいましたか? 」

 アルゴライムはヒトミに言われてから数秒間、全く動きを見せなかったが、ゆっくりと口を開くと穏やかに言った。殺す勢いで言われると思っていたヒトミは、少しだけ安心したが、それも一時の安堵で終わった。

「誰が小さいって言ったのか聞いてるんですよ。わかりませんか? 」

「貴女のことじゃないわよ」

「私のことなんですか? そうなんですね? 」

 アルゴライムはこうなってしまってはヒトミガなんと言おうと話なんて聞いてくれない。身長が低いというコンプレックスを抱えているアルゴライムにとって、それを他の者から言われることが、喧嘩を売られているとしか思えないのだ。

 このままアルゴライムが落ち着くのには少しの説教と愚痴を言わなければならない。地球で高校生に進学したとき、何度中学の入学式に向かっていると思われたか、遊園地や水族館の入園料を何度半額にされそうになったか。それがバカにされているようで、アルゴライムには屈辱的であり、悲しいことだったのだ。

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