4節　昔話

「そうね……。私が生命体だった頃の話からにしようか」

　ヒトミは、拒んでいた昔話をようやくする気になったようだ。この開いた口は、この後話が終わるまでは、閉じることを知らないようだった。

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　私は、もう何年前かも忘れるほど昔に神になったのよ。でも、その事実を知っているのは名無とアノニムとズィミアだけ。他の者は誰も気づいてないの。だから、神になった経緯、私が生命体をやめた頃だから、生命体だった最後の方から話をするわね。

　今はもう無い世界で私は魔術師として産まれて、高度な魔術も使いこなす天才魔術師だった。だけどね、そんな私よりも強い魔術師を名乗る者が現れたの。察しはつくでしょう、偵察に来た管理者の一人よ。私は悔しかったわ。だから、帰る場所を調べて強さの秘訣を調べて奪ってやろうとしたの。だけど、そこで見たものは衝撃的だった。

　彼は、森の中に入ってそこには綺麗な滝があったのだけれど、そこの音に紛れて何かを詠唱していたの。何て言ったのかは聞こえなかったわ。だけどね、その瞬間に彼は消えてしまったの。いきなり、塵も残さずにね。だから、私は次の日、私の前に現れた彼に問い詰めたの。そうしたらね、彼は一時的に前の上から貰った感情で笑ってこう言ったのよ。

「知りたければ、今すぐ死んでごらんよ。できるなら僕は、君の死後の世界ですべてを教えてあげるよ」

　もちろん信じたわけではなかったわ。ただね、私はその世界に飽きていたのよ。彼以外に私を上回る魔術師はいない上、私と模擬戦をするだけで死ぬような者しかいなかったわ。そんな世界、普通につまらないじゃない。だから、考えもせずに私は街の真ん中で死んだわ。もちろん、問題になった。でも、私には関係なかったのよ。

　気がついたときにはね、今の貴女と同じ。この空間にいた。そして、隣には彼が立っていたわ。まだ感情が残っていたのか、驚いた顔をして。それはそうよね。普通死んだら転生ルームにいるはずだもの、それなのにここにいる。それがエラーの証拠だったのよ。

　私のエラーは名前がないわ。私以外は誰もこのエラーを持っていないから、名付ける必要がないの。で、すぐに前の神が私の目の前に来て私を消そうとしたから、代わりに別の世界に落としてあげた。どうやったかはわからないけれど、なんかその世界に落ちていったいたの。

　彼は、私がすぐに消したわ。神を消したとき、いろんな情報が頭に流れ込んできたの。多分、次の神が私だって伝えるためにね。そこでは、私が入れ替わったことを勘づかせないようにすることや、彼を殺すことなどの指示が出てきていた。私は、何をしたら良いかなんて知らなかったから、指示通りに殺して、演じた。そして、私はその時気づいていなかったのよ。彼を消しきれていないことにね。

　察した？ 彼は昔のズィミアなのよ。消しきれていなかったから私が神ではないことを知っていた。けれど、記憶を収容する場所にエラーが生じてしまい、長い年月をかけて彼はエラーになったの。はじめは気づかなかった。でもね、元神の指示でズィミアを消さなければならなかったのに、彼は私の名前を呼んだの。「ヒトミ」ってね。神になってから一度も名乗っていなかったから驚いたわ。だからね、色々と記憶を消したりして、ズィミアを生かすことにしたのよ。

　どう？ 別のことを聞いていたとしたら、私がアノニムに話していた嘘だから、こっちが真実よ。本人が話しているんだもの。当たり前じゃない。

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