炎呪転生~理不尽なシスコン吸血鬼~

黄崎うい

51節 アルゴライムの涙

「嫌われるもなにも、もうこの世界に用はないと言いました。早く殺してください。……そういえば、あなたさっき何も話しませんでしたよね? 話すと言っていたのに」

 そう言いつつも、アルゴライムの頬には涙が流れていた。恐らく自覚はないだろう。無意識のうちに殺した罪悪感と、大切な人がいなくなった悲しみが涙を流しているのだろう。

 アノニムは、アルゴライムの今の状態について話すと言っていた。しかし、何も話さずここまで来て、意外とあっさりリリスを殺すところまできてしまった。それについてアルゴライムは、疑問を持ったのだ。

「ああ、別に話をする必要はなかったからな。聞くかい? ……聞かないっていう選択肢はないようだが」

「私から聞くって言っているのに、聞かないという選択肢が存在すると思いますか? 」

「ないね。いいよ、説明する」

 アノニムは、そこに転がっているリリスの腕から、アルゴライムを掴んで取った。そして、リリスの重力魔術から逃れた椅子をひとつ取ると、そこにアルゴライムを自然に座らせた。

「……なんのつもりですか? 」

 動けないアルゴライムは、完全にされるがまま椅子に座ったが、アノニムのこの行動に疑問を持たずにはいられなかった。それはそうだ。そのまま話せば良いものを、わざわざ時間をかけてこういう風にしたのだ。気にならないはずがないのだ。

「私の趣味だ。楽しいかどうかはわからないが、人形遊びは生命体相手に話せる趣味だろ? 」

「……」

 アルゴライムは、何も言えなかった。各世界に降りるとき、どの様な姿をしているかはわからないし、その世界の価値観もわからないけれど、少なくとも地球で十二才くらいの見た目をしたアノニムが人形遊びが趣味だと言えば、少しは距離を置かれるものだ。それを理解したアルゴライムは、何も言ってあげることができなかったのだ。

「それでいろいろ試してみたら、結構ハマってしまってな。よく作って遊んでる」

 アノニムは、そんなアルゴライムの気持ちを全く理解していないのか、少し楽しそうに説明を続けた。アルゴライムは、それを何も言わずにただ聞いていた。

「えーと、あんたの身体の状態だったな。……とういうより、あんたの魂をその身体から剥がし、魂ごと葬る方法のことだが。」

「言い方を考えてください。まあ、わかりました。話してください」

 葬るなんて言葉、アルゴライムの記憶にあるかぎりでも数回聞いたかというほどの言葉だった。それを突然自分に向けて言われたのだ。驚かないはずがない。

 アノニムは、アルゴライムを座らせ終えると、こっそりと頬につたった涙を拭いた。

「何したんですか? 」

「ホコリがついてたんだ。悪いかい? 」

「いえ……」

 アノニムは、アルゴライムが答えたのを聞くと、足が疲れたのか自分の分も椅子を用意して座った。

「さて……、話すとするか」

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