炎呪転生~理不尽なシスコン吸血鬼~

黄崎うい

47節 アノニムの無意識

「遅くなったな、これでも急いだんだが、限界の速度だ」

「いえ、急ぎの到着、感謝しますよ。アノニム」

 アノニムの気配がこの地下から消えて三分ほど経ったのだろうか、アノニムは戻ってきた。多少は帰ってこない最悪の想像もしていたけれど、帰ってきたので助かった。

「あと、あんたの今の状況について少し考えていたんだが、きくかい? 聞かないっていう選択肢はないようだが」

 アルゴライムの体は、全く動かない状況だ。確かに、話を聞くしかないようだ、アルゴライムはそう確信した。

「聞きますよ、何を考えたのだかわからないのですがね」

「あんたを運びながら話すとするよ」

 アノニムは、アルゴライムの身体に近づき、手を伸ばした。

「あの、動けない私が言うのもなんですが、この持ち上げ方はちょっと……」

 今のアルゴライムとアノニムの体勢は、いわゆる『お姫様だっこ』だ。そういうものに疎い人生をおくってきたアルゴライムにとっても、誰も見ていないとわかっていてもかなり恥ずかしかった。それに、ただのお姫様だっこならばまだいい。今のアルゴライムの身体は、身動きがとれないのだ。つまり、アノニムが少し大きめの人形をお姫様だっこして運んでいるように見えて仕方がないのだ。

「何か悪いことでもしたか? 急ぎなんだ、この体勢が一番楽にあんたを運べる」

 アノニムがアルゴライムの話を聞くような様子はなかった。今回ばかりは仕方ないでは済まないと、アルゴライムが打開策をなんとか練ったが、全て却下されてしまった。

「リリスに早く帰ると言っているんだ。もう文句はないよな? 」

「……あぁあぁ、もういいですよこれで! どうせ誰も見ないんですし! 」

 アルゴライムは、半分以上自棄になりながらも、どうにか恥ずかしいことを我慢するということを決心した。これからもこの世界で生きていくのだったらありえない決断ではあったが、もう死ぬのだからそれでいいと、逆に思い直すこともできた。

 アルゴライムが返事をすると、アノニムは急いで館の方へと飛んだ。アルゴライムは、感覚がないはずの肌に、何故か風邪を感じた気がした。

 自分が焼き払った森を目にしてアルゴライムは、美しい自然を、一部とは言え破壊してしまったことにとてつもない後悔と罪悪感を覚え、黒い森を見つめていた。

「何を悲しんでいる、この世界はすぐに破壊されるんだ。少し死ぬのが早かっただけだし、あそこであんたが殺した魂は運良く助かるんだ。私は喜ぶべきだと思うがな」

 表情にも表していない、表せないアルゴライムの気持ちをどう感じ取ったのか、アノニムはそう言った。野球場ならば少し大きくてもすっぽりと入ってしまう程の破壊域、生命体がいないと考える方が不自然だ。

「アノニムは被害がどのくらいかわかりますか? 少しでも気になることは聞いておきたいです」

「全焼範囲およそ76,000㎡、絶命全生命体数約百億、その内人形生物八十三名だ。命を落とした生命体のうち九割九部九厘以上が微生物などのものだ。そう気に病むな」

 全焼範囲を聞き、アルゴライムはただ事ではすまないことをしたことを改めて理解してしまった。館が段々と見えてきたが、見事に周辺を含め館ごと燃えていた。

「それに、あんたは過去に大量虐殺をしている。そっちの方が、世界に住んでいる生命体数も多いのだが、およそ三十倍の犠牲を出しているんだ。記憶にはないだろうがな」

「アノニム、それ、フォローのつもりで言ってますか? 申し訳ないとしか感じないのですが……」

 アルゴライムは、傷つきながらも、記憶のない自分の行いを恥じ、反省した。

「もちろん、事実を伝えたまでだ。それ以外にこんなことを言う必要があるのか? 」

 やっぱり生命体の気持ちは完全に理解することは不可能だ。アノニムは、何度も思ってきたこの思いを、改めて思い直した。

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