炎呪転生~理不尽なシスコン吸血鬼~

黄崎うい

44節 突如襲った悪夢

「え……」

バタンッ

 アルゴライムは突然膝から崩れるようにして倒れた。魔力量の低下が原因ではない。既に回復が始まり、顔色もよくなり、真っ直ぐに立ち続けることも可能だったからだ。

 何者かに攻撃を受けた。それ以外考えることができなかった。しかし、アルゴライムは痛みも、それに似た違和感も感じてなどいなかった。

「何事ですか? ……意識ははっきりとしている……いったい、何がおきているというのですか? 」 

 首から上の自由はきいた。目で周囲を見回しても、誰もこの空間にはいない。本当にいきなり倒れて、動けなくなった理由はわからない。

「あーあ、流石に使い回しは良くなかったか……」

 どこかで聞いたことのある声が、アルゴライムの側で呟いた。人影がないのに声が聞こえる。こんなことができるのは、アルゴライムが知っているなかで二人だけだった。

「……アノニムですね? 何が言いたいんですか? 」

「別に、キューバルの魂の回収が確認できたから見に来ただけさ。上手くいったみたいだけど、ガタが来たみたいだ」

 誰の気配もなければ、声以外の何の音も聞こえてこない。ただ、アノニムの声はアルゴライムに近づいてきて、アルゴライムは、顔をじっと見られている気がした。

「ガタって何ですか。普通に動けないの不便なので、あなたがやっているなら今すぐにやめてください」

 この動けない状況は、アルゴライムにとってはっきり言って、大迷惑だった。リリスを殺さなければならないから。リリスを守るために殺さなければならないから、すぐにクローバーの館に戻らなければならないのだ。

 しかし、アノニムから帰ってきた答えは、最悪な状態を意味することだった。

「えーと、まあ、伝えなきゃいけない事があったから伝えるか。まずは、地球にいたあんたの本体は、残念なことに死んだ。流石に魂を抜いちゃうと弱るらしい。だから、地球には帰れない」

「……そうですか。六日さんに会えないのは悲しいことですが、お姉ちゃんと四日先輩のいない地球にはそもそも興味がありませんでしたからね、構いませんよ」

 アノニムの発言に、アルゴライムは少し驚きを見せたが、殆ど興味も示さずに受け流した。そして、少しだけ苛つきを見せていた。

「あと、もう一つだが、その身体はもう使い物にならない。簡単に言えば死んだよ」

「……! ! 」

「あんたがこの世界から消えてない理由は一つだ」

 驚いて何も言うことが出来なかったアルゴライムを前に、アノニムは淡々と説明を始めた。

「…………その理由とはいったい何ですか? 」

「その身体が死んだあとにもう一回あんたの魂を無理やりその中に入れたからだ。その証拠に一度死んだだろ? 」

 確かに、アルゴライムの身体は一度ヨルカとして死んでいる。しかし、死んだままの身体に自分がいるなど、アルゴライムは全く考えてなどいなかった。

「簡単に説明すると、今までかろうじて動いていたが、魔力の過剰使用と身体的疲労で元々始まっていた腐敗が身体の機能を停止させた。こんなことがいつか起こるとは思っていたが、今とはね……。このまま殺してあげることもできるが、どうしたい? 」

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