炎呪転生~理不尽なシスコン吸血鬼~

黄崎うい

42節 姉妹の戦い③

「いいえ、死ぬって久しぶりすぎてね……あのとき以来でしょう、私と四日君が電車に轢かれて死んだあのとき」

 キューバルは目をつぶって記憶をたどった。そして、その言葉を聞いたとき、アルゴライムは嫌なことを思い出した。姉が殺され、自分自身も倒れ、そしてこの世界に来た記憶、ヨルカとして愛されることのないまま一生を終えた記憶を思い出したときのことだ。

「そうですね……貴女のお陰で嫌なことを思い出すことができました、感謝しませんね」

「それに、あの良い思い出と同じ痛みで殺してくれるなんて、四日君のこと思い出しちゃうじゃない」

 キューバルは、話を聞いていなかった。四日と死んだ思い出を"良い思い出"と語り、その思い出に浸っていた。そして、キューバルの顔に浮かんだその狂気染みた笑みを睨みながらアルゴライムは、新たな種を撒いた。苦しんでいる顔をじっくり観察しながら殺してあげようかと思っていたが、この笑みを見てその気が失せた。

「悪いんですけど、吐き気がします。その顔のやめてください。それと、痛みの種を撒いた方法ですが、今やって見せた通りです。普通に炎を撒くようなものですよ。炎の熱に視覚情報は不要です」

 アルゴライムは、見ていたくないほどに笑っているキューバルの質問に答え、殺す準備を終えた。

 いつでも殺せる。簡単だ、一言「弾けよ」と唱えるだけで種は弾ける。痛みをキューバルに与え、動きを封じられる。しかし、何故だ……。何故か口が言葉を唱えることを拒否している。姉である自覚があるからか、悪意をもって殺すからか、体が目の前にいるキューバルという名の吸血鬼を殺すことを拒否している。

 唱えてしまえばあとは簡単だ。どうせアルゴライムの小刀フェイクなんて無意識のうちに避けられてしまう。だから飛ばした小刀本命がある。


 仕方ない、理性が拒むのですから、怒りに任せてしまうしかないですね。あぁ、自分の無力が悲しい。


 アルゴライムは、目を閉じ、深呼吸を繰り返すと、羽を広げた。

「さあ、キューバル。答えてくださいね、貴方のせいで私は苦しみながらここに来たのです。死んでなどいないのに。
謝る気は、ありますか? 」

 アルゴライムは理不尽なことが大嫌いだ。本当に、殺したいほどに。

 無意識の中での理不尽は、性格だから仕方ないとアルゴライムは思っていたが、意識して発言した理不尽に、望み通りの発言で返されるとアルゴライムは、自分のその理不尽さに怒り狂うのだ。そして、"謝る気は、ありますか? "とキューバルにキューバルが何もしていないことに対して問いている。これは、理不尽だ。

 この質問に"yes"とキューバルが答えれば、理不尽さに怒り狂ったアルゴライムが、「弾けよ」と唱える。"no"と答えれば、今までの辛さや記憶の悲しさで、羽により力が暴発、結果殺せる。どちらに転んでもよかった。

 あとは、キューバルの答え次第だ。

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