炎呪転生~理不尽なシスコン吸血鬼~

黄崎うい

34節 ヨルカとして

「気が済みましたか? 若菜さん」

「……その名前で呼ばないでください、ズィミア。不愉快です」

 アルゴライムが気がつくと、燃やし尽くされ、黒い更地になってしまった森で目を覚ました。頭のすぐ上にはズィミア座っていた。

「すみません。アルゴライムさん。ショックで記憶が消えていたりしませんか? 」

「全て覚えていますよ。暴れていたところがどうしてこうなったまでは覚えてませんが、昔のことはよく覚えてます。……ところで、あんなに暴れていたというのに何をしたんですか? 」

「管理者しか使えない強制機能停止魔術を少し離れたところから貴女にかけただけです。はじめからそうしていればもっと楽だったんですけどね」

 アルゴライムが起き上がりながらズィミアに問うと、ズィミアは少し呆れたように言った。それをぼーっとしながらアルゴライムは聞いていたが、思い出したかのようにズィミアにきいた。

「そういえば、私がヨルカとして死んだときに側にいたのはアノニム……ですよね? そのときに何か言っていたようなのですが、ズィミアはわかりますか? 」

 何か言っていたということは、アルゴライムにもわかっていたが、脳の機能が停止していて、言っていることはわからなかった。

「ああ、その事ですか。詳しくは言いたくないので言いませんが、貴女は私たちの計画に必要な生命体だということですよ。貴女に都 若菜の記憶がないと困るのです」

 ズィミアは、微笑みながら言った。その笑みと言葉には少しの恐怖も含まれていた。

「そうなんですね。それでは私は用があるので」

「おや? 何かありましたっけ? 」

「ヨルカとして、メイリスに会ってきます。少しだけ、言いたかったことを思い出したので」

 アルゴライムは、ズィミアに背を向けてそう言うと、街のさらに先、墓地に向けて飛んでいった。

 メイリスならば、トキューバの屋敷をあの小屋のあった墓地に、たくさんの吸血鬼だったものが埋められているあの墓地に構えるということが、アルゴライムには理解できたのだ。

「……」

 小屋のあった場所を見たアルゴライムは、言葉を発することができなかった。墓地は整備され、小屋はなくなり、中央に大きな屋敷が建てられていたのだ。

「誰だ! 」

 一匹の狼が空にいたアルゴライムを見つけると、人間の姿に化けて叫んだ。明らかに殺気を隠しもしないでアルゴライムのことを睨んでいた。

「……メイリスに言ってください。『ヨルカが来た』と」

 アルゴライムは、上空から狼を見下ろしたままの状態でそう言った。狼は一瞬、行動を躊躇っていたが、すぐに屋敷のなかに戻って行った。

「……反抗すると思っていたのですがね。狼なんて所詮はそんなものだったんですか。まあ、いいです。あの狼が反抗しなかったのですから皆さんも反抗しないでこれから起こることを見ていてくださいね? お願いしますよ」

 アルゴライムは、地面に降りながら、他に周りにいた狼を睨み付けて言った。声のトーンも落とし、鋭い眼光と共に浴びせられた狼たちは、何も言うことができなかった。

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