27節　遥か昔の記憶part１２

　三日後の朝、ヨルカは外の騒がしさで目を覚ました。普段は鳥の囀ずりすら聞こえないほどの場所だというのに、聞き覚えのある大きな声で目を覚ましたのだ。

「うるさいな……」

　ヨルカは様子を見ようとして手を止めた。窓は吸血鬼にとって毒である日光を無毒化する効果がある。つまり、日光のせいでもない。

　聞こえたのだ。随分と聞き慣れたヴェニアの声が。そして、その声は"ルイ"と、呼んでいた。

「ルイ、三日経ちました。一度帰ってくる約束ですし、約束通り松明を持ってきましたよ」

　本当に来たんだ。ヨルカはそう思った。そのまま、窓の外を覗いてみると、松明を持っているのはヴェニア達じゃなかった。

　ルータスがヴェニア達の中心に立ち、松明を掲げていた。

「あっ」

　ルータスは、ヨルカが見ていることに気づいたのか、ヨルカの方を見た。そして、松明を屋敷の方に投げ捨てて逃げた。

バンッ

　ヨルカは無意識に窓ごと壁を破壊していた。割りと簡単に破壊することができ、ヨルカは少し焦った。

「あっ」

　ほんの一瞬、ヨルカは破壊した壁を振り返った。しかし、屋敷が松明と接触し、引火した部分を手で触れた。

「消火完了」

　屋敷についた火で、ヴェニアたちは少し怯えていた。その火を炎に弱いはずの吸血鬼が消したのだ。驚かないはずがない。

「ヴェニア先輩、戻れなくて申し訳ございませんでした。部屋にいたのですが、扉と窓の鍵が壊れていて出ることができなかったので……すみません」

　ヨルカは振り向いて壊れた壁を見せると、急いで日陰に入った。無我夢中で出てきはしたが、危うく死んでしまうところだった。

「こうして部屋から出ることもできましたし、夜になったら工場に戻ります」

　怯えて、動くことができていなかったヴェニアたちにヨルカが優しく笑いかけると、扉から屋敷に戻っていった。

「ヨルカ様、大きな音がしましたが、大丈夫ですか？ 」

「ヨルカ様、日光は平気なのですか？ 」

　吸血鬼の使用人である二人が、扉から入ってきたヨルカに心配そうな表情で見ていた。

「別に、平気だよ。それより、他の人間の子に頼んで新しい部屋と、そこに棺桶を移動させてちょうだい」

「かしこまりました。ヨルカ様、キューバル様が心配しております。一度、キューバル様の寝室に行ってください」

　使用人は、ヨルカにほとんど言い逃げの形で行った。ヨルカは、見事に使用人たちの部屋がある三階まで走って逃げられた。

　ヨルカは、言い過ぎたという罪悪感もあり、キューバルの部屋に行くことにした。

「……はぁ」

　ヨルカは、またキューバルの部屋の前まで来て動けなくなってしまった。しかし、ヨルカの後ろを作業するために使用人たちが幾度となく通っていたため、少しは緊張も解かれていた。

「あれっ？ 開かない……」

　ヨルカが扉を開けようと手をかけると、鍵がしまっているわけでもないのに開かなかった。よく見ると、外から鍵が破壊されている痕跡があった。

「ヨ、ヨルカ？ 」

　部屋の中から、キューバルの心配しているであろう声が聞こえてきた。

「何故か鍵が壊れてしまってね、今開けられないの」

　ヨルカはわかっていた。三日前に勢い余って外から鍵を破壊したのは、ヨルカだった。何故その事を隠すのか、ヨルカには理解することができなかった。