炎呪転生~理不尽なシスコン吸血鬼~

黄崎うい

21節 遥か昔の記憶part6

 そして、その時が来た。キューバルが会議に出席し、ルータスの世話をヨルカに任せたのだ。

「申し訳ございません、ヨルカ様。それでは、ルータス様をお願いいたしますね」

 いつもの世話係がヨルカに向けて、ルータスの部屋で言った。彼女は人間で、今日はどうしても家に帰らなければならなかったのだ。

「いいえ、気にしないでちょうだい。私もルータスと遊びたかったし」

「本当にありがとうございます」

 世話係はヨルカに感謝をすると、部屋を出ていき、屋敷から出ていった。

「ねえねえ、ヨルカお姉さま」

 ルータスは、ヨルカの服の袖を引っ張って呼んだ。

「どうしたの、ルータス」

「何で笑ってくれないの? 」

 ルータスはヨルカの顔を不思議そうにして見つめていた。ヨルカは、そんなルータスを、冷たい表情で見つめていた。

「別に、理由なんてないよ」

 ヨルカの知っている姉の像が、笑っていないのだ。いつもヨルカを一人にし、笑いかけてくれなかったキューバルがヨルカにとっての姉の像なのだ。

「じゃあ、キューバルお姉さまみたいに笑ってよ、ヨルカお姉さま」

「……ルータス、いいこと教えてあげるわ」

「何? ヨルカお姉さま」

 ルータスは、大好きなお姉さまに何かを教えてもらえるということに、ワクワクしていた。

「姉は、妹には笑わないものよ」

 ヨルカにとっての常識だった。ルータスは、少し驚いていた。キューバルがルータスに笑いかけているのは、何故なのか、ルータスにはわからなくなっていた。が、これは作戦でも何でもない。

「あと、もうひとつだけ、本当のことを教えてあげる」

 驚きのあまり、何も言えなかったルータスに、ヨルカは作戦を実行しようとした。

「な、何? ヨルカお姉さま」

 うまくいくかはわからない。それでも、かけてみる価値はあった。うまくいけば、確実にルータスを追い出すことができるのだ。

 ヨルカは、当然のように罪悪感を感じていた。しかし、それよりも前に出ていたのだ嫉妬だったのだ。

「これからのことは何があっても私が言ったって言っちゃダメだよ。いい? 」

「うん。ヨルカお姉さまがそう言うなら誰にも言わない」

 ヨルカは、約千年ぶりに羽を広げた。炎の能力が暴走しないようにだけ気をつけて、ルータスに羽を見せた。

「ヨルカお姉さまも羽を持ってるの? 」

 ルータスは、そこまで驚いていなく、その事にヨルカはとても驚いていた。ルータスは、姉のヨルカが弱いはずないと思っているので、強さの証である羽を持っていても、不思議ではないと思ったのだ。

「ええ。私だけじゃない。吸血鬼は皆持ってるわ。最弱の者もね」

 ルータスは、ヨルカのいっていることを理解することができなかったのだ。信じたこともなければ、考えたことすらないのだから当然だ。

「だから私、疑問に思うの。羽を持たない者は、吸血鬼ではない。かと言って、人間や狼でもない。じゃあ、人間でも狼でも吸血鬼でもない者が、この屋敷にいて良いのかしら? ってね。私の、四百年前からの悩みよ」

 ルータスは、いきなりヨルカから告げられたことに、何もすることができなかった。ルータスは、ただ呆然とヨルカを見つめていた。

「まあ、ルータスには羽があるでしょうけどね。……そろそろ会議も終わったみたいだし、部屋に戻るわ。絶対に誰にも言わないでね」

 ヨルカは言い終えると、逃げるようにして部屋を出ていった。全て言い終えると、嫉妬は消え、罪悪感だけが身体の中を循環していた。

 それでも、もう後戻りはできない。だから逃げるように部屋に戻り、置き手紙をおいて窓から町まで出掛けていったのだ。

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