炎呪転生~理不尽なシスコン吸血鬼~

黄崎うい

19節 遥か昔の記憶part4

 キューバルが幼いルータスを隣の椅子に座らせた。人間で言えば五、六才の見た目だ。ここから見た目の成長が遅くなる。

 ヨルカは、キューバルとその隣のルータスを少し離れた席から見て、ジェラシーを感じていた。

「それで……異常って何なのかしら? 」

「そのことなのですが……」

 学者はかなり躊躇っていた。キューバルはそれを見て命じた。

「私、ルータス、学者、そして、ヨルカ以外の者は、この部屋から速やかに出ていきなさい。これからの話は、私たち姉妹の話よ」

 ヨルカは、姉妹と呼ばれて少しだけ嬉しかった。でも、それだけだ。

「ご配慮、感謝します」

「ええ。早く話してちょうだい。ヨルカもいるんだから」

「その……ルータス様の羽なのですが……」

 人数を減らしてもなお、学者は躊躇うことをやめなかった。

「早く」

 キューバルは学者たちに圧をかけた。恐らく、言うことはわかっているのだ。しかし、学者たちの口から聞くまでは信じたくなかったのだ。

「……ないのです」

「お姉さま、発言よろしいですか? 」

 学者が重い口を開くと、ヨルカが突然言った。

「何? ヨルカ。私たちは今、大切な話をしているのよ。お子様ではないのだから口は慎みなさい」

「……すみませんでした。結構です」

 昔からずっとこうだ。ヨルカがキューバルに話しかけると、冷たく対応されるだけで、まともに返事をする方が珍しい。

「大したことがないことなら、はじめからそうしてちょうだい」

「……」

 キューバルとヨルカが会話をしているときには、その空間が凍りつく。他の者は口を開かず、キューバルの冷たさが目立ってしまうのだ。

「その、ない、というのは羽がないってことよね? 違うかしら」

「いえ……その通りです」

 キューバルは少しだけ考えた。そして、学者たちに小声で命じた。

「この館に住んでいる全吸血鬼をこの部屋に集めなさい。静かにね」

「は、はい。かしこまりました」

 学者たちが出て行くと、キューバルは隣のルータスの頭を撫でた。それを見ていたヨルカの心は、痛んでいた。

「お姉さま、ヨルカ……私も、吸血鬼を集めてきます」

 ヨルカはこの場から外に出たかった。大好きなキューバルに優しくされているルータスを見ていたくなかった。

「ええ、お願いね。ヨルカ」

 キューバルの了承を得ると、ヨルカは逃げるようにして広間から出ていった。

 数分後、屋敷の全ての吸血鬼が広間に集まった。

「急な呼び掛けだったのにもかかわらず、よく集まってくれたわね。感謝するわ」

 キューバルは集まった吸血鬼たちに向け、言った。

「いえ、キューバル様のご命令ですので」

 一人の使用人が、皆を代表して言った。

「今日、集まってもらったのは、頼みごとがあるからなのよ」

「キューバル様、ご命令とは、何でしょうか? 」

 さっきと同じ使用人が再び言った。キューバルは、困った顔でルータスの頭を撫でると、言った。

「皆、悪いのだけど全員の羽はしまっていてほしいの」

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