炎呪転生~理不尽なシスコン吸血鬼~

黄崎うい

9節 侵入者

『もしもし~、アノニムですか? ズィミアです』

 いきなりアノニムの頭の中に声が響いた。二人で世界の管理に来るといつものとこなので、もうなれていた。

「何だ? 早く終わらせて壊したい」

『e3が失踪しました。探してください』

 あまりにあっさりとしたズィミアの言葉にアノニムははじめ、何も言えなかった。呆れすぎているのか、いつものことだと何も言えなかったのかはわからない。ただ、言うことはあった。

「そこから北東に三キロメートル進んだところで破壊の限りを尽くしてるよ。隔離しとくから早く捕獲してくれ。あと八時間以内にそいつをこっちに渡せ」

『了解でーす。じゃあ、気がすむまで壊させてから回収するとしますね』

「ああ、それでいい」

 ズィミアは、いきなり話しかけたと思ったらいきなり切って走り出したんだろう。アノニムはそんなズィミアを見て呆れてはいるが、開き直りの早さに尊敬できるものもあった。

 八時間以内の話もした、居場所も教えた、もう聞かれることはないだろう。もしも、魔術式を展開している最中に話しかけてこられたら失敗してしまい、リリスを殺してしまうかもしれない。最悪の場合、魂を消滅させてしまう可能性もある。だから、慎重に考えた。

「よし、流石にないな。隔離の場所はわかるはずだし、捕獲するまでは何も言ってこないだろう」

 リリスの身体に負担がかからないように、多くの準備が必要だ。魔方陣を書いたり、外の魔力に邪魔されないように結界を張ったり、結界の中からでも生命体操作ができるように別の結界と魔方陣を書いたりと……。リリスにかかる負担を無視していいならすぐに詠唱をはじめて三十秒もあれば完了するのにと、アノニムは面倒くさがっていた。

「まあ、殺してアルゴライムを怒らせたらヤバイもんな。私たちが壊す前にこの世界が再起不能にされてしまう」

 ただ、アノニムは気が進まなかった。魔方陣なんて何億年か昔にかいただけで、なれていないから時間がかかることが目に見えていたからだ。

「あー、もう。まずは魔術継続の魔方陣からか」

 アノニムが始めようと振り切った時だった。

ガシャンッ

 ほとんど使われていないはずの三階から、謎の破壊音が聞こえてきた。そして、何者かが屋敷に侵入したことが確認できたが、殺気を全く感じなかった。アルゴライムかと考えたが、既に隔離済みでこの屋敷に破壊の手は届かないはずだ。トキューバかとも考えたが、操作したままで魔術を解除などしていない。

「……キューバルか…………? 」

 でも、そんなことあり得なかった。キューバルは回収対象であり、この屋敷の周辺にいれば、アノニムが気づかないはずがなかったのだ。

 アノニムの頭の中に一つの可能性が浮かんだ。早すぎてはいるが、十分に考えられ、殺気のない侵入者の説明もつく、一つの選択肢だった。

 神がこの世界の破壊を他の管理者に命じ、少しずつだが破壊をはじめていた。

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