炎呪転生~理不尽なシスコン吸血鬼~

黄崎うい

10節 消滅

「管理者なんですよね、あなた方は」

「そうだ。さっきも説明した通り、アルゴライムと私たちは全く違う存在なんだ」

 アルゴライムを取り囲む空気が明らかに変わった。何か思い付いたのだ。

「そうなんですね。説明の途中で悪いのですが、一つ、良いですか? 」

「ああ、構わないよ。また後で説明するから」

 アルゴライムは立ち上がった。そして、アノニムの真横まで移動して言った。

「世界を破壊したらそこに生きていた生命体達はどうなるんですか? 消滅……するのでしょうか? 」

「よくわかるね。消滅するよ」

 また空気が変わった。隠しているつもりなのだろうけど隠れてなどいない。人外の放つオーラにも似た空気は極めて濃度が濃く、物理的な破壊をすることもあるということをアルゴライムは知らないのだ。

「じゃあ私も消えますか」

「残念ながら。そんなの何億年も昔に試してるよ。あんた達を回収するのが大変だったよ」

「……じゃあ、最後です。リースは何かエラーを持っているのですか? 」

 アノニムはこの質問に答えたらアルゴライムが何をするか理解している。恐らく、アルゴライムはリリスを殺しに行くだろう。それが理解できたのだ。

「ないよ」

 それでも答えないわけにはいかなかった。質問に答える。それが管理者としての使命だからだ。

 アルゴライムは窓ガラスを全て溶かした。いつの間にか炎を使わずに熱を発する術を学んでいたのだ。アルゴライムは溶かした窓から外に出た。窓枠はアルゴライムが翼を広げていたためか、全て灰になり、部屋の中で舞っていた。

「そろそろかな」

 冷静になれば良いのに。アノニムは思った。雨も降っていて今外に出ることはアルゴライムにとって得ではない。それに、そろそろだからだ。

「三、二、一」

 ガチャ 

 部屋の扉が開いた。もちろん、窓から飛び出していったアルゴライムが帰ってきた訳ではない。

「おかえり、リリス」

「ただいま、アノニム。すごい雨ね。ところで……ライムは? 」

「リリスを探しに行ったよ。窓から」

 窓は既にアノニムが修復していた。あんな状態じゃあリリスが疑問を持ってしまう。アルゴライムがリリスを殺すつもりだということがバレる可能性がある。アノニムにはアルゴライムの行動をリリスに伝える権利がない。管理者は生命体の生活に支障をきたすようなことをしてはならない。そういうように神から命じられているからだ。

 しかし、例外もある。役目を持たせて下界に放った生命体を誘導することは許可されている。だからこのように、アノニムは下界に降り、アルゴライムやリリスにこの世界の歴史やシステムを教えているのだ。

「ライムは……雨が降ってるのに……。心配性よね」

 親でもないのに親バカだよ、あいつは。

 アノニムは思った。魂が消滅しないように殺すなんて、他人ならしないはずだからだ。

「リリス、一つだけ頼み事しても良い? 」

「どうしたのよ。アノニムが珍しいじゃない」

「飲み物、いれてくれないか? 」

 アノニムは座ったまま、ティーカップをリリスに向けて言った。

「私、飲まないから味なんてわからないわよ」

リリスは少し困ったように言いながらもティーカップを受け取り、部屋を出ていった。

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