黒龍の傷痕 【時代を越え魂を越え彼らは物語を紡ぐ】

陽下城三太

黒の騎士



 
 
 ギルドに残ったアンナとカイト、二人はある程度鍛練を終えると、外にでている三人のために夕食をつくることにした。
 ここで意外な面、カイトが料理を作られることが発覚した。
 しかも味見をしてみるとアンナの舌は鼓を打った。
「…………」
 現在は煮込みの段階である。
 他のことは全て済ませてしまったため、特にやることがないアンナはカイトをじっと見つめていた。
「えっと、何かな…?」
 流石に一◯分以上見つめられるというのは辛い、とカイトが口火を切った。
「別に、なんでもないわ」
 未だ何か顔についているのかと疑ってしまうほどにこちらから目を逸らさない。
 今更目線を外すなどできないカイトは困惑しつつもアンナと見つめあった。
「時間ね」
 どれだけ続ければいいのかと悩んでいたところで、アンナが突然立ち上がりそう言った。
 煮込んでいたものの時間がきたのだろう。
「私、あなたの顔どっかで見たことあるのよね」
 カイトの顔色は一つも変わらない。ただ変わったことといえば頬を一筋だけ汗が伝ったことであろう。
「まあ別にそんなことどうでもいいのよ、貴方が今の貴方でいてくれるなら」
「どういう、こと…?」
「そのままよ、私は貴方を気に入っているわ」
「……………」
「話は終わりよ。来なさい、上手く出来ているわ」
 アンナの言葉は曖昧で意味を取れるはずもない、しかしカイトには無視できないものだった。
 呼ばれたにも関わらず立ち上がることさえできない。
「早くしなさい、まだ煮込むんだからずっと蓋を開けてるわけにはいかないのよ」
 急かされ、ようやく固まっていた身体が動き出す。
「……うん、美味しい」
 自分も手を加えておいてだが、確かに美味と言えるもので満足の仕上がりだった。
「貴方の手伝いもあったおかげね」
 先程の鋭いものとは違って、暖かく優しい雰囲気だ。
 それに安堵し、そしてとても居心地がいいと感じる。
 ここでカイトは思い出した。このギルドに加入するときに彼女が言っていた言葉だ。
 『力と愛情、この二つを持ってないのなら去りなさい。私のギルドにこれが欠けてる奴なんて必要ないわ』。
 改めて考えると、これはかなりの暴論だ。
 力を持たない者もいる。愛を持たない者もいる。
 前者は確かに、努力をすればある程度は手に入るだろう。しかしそこまでだ、彼女の言う『強さ』とは程遠い。
 また、後者を持たないことで区別するのはお門違いだ。
 人は愛情を受けなければそれを持たない。失うこともある。それを否定するのは、傲慢だ。
「さっさと運びなさい」
 すれ違い様に掛けられた言葉でカイトの思考は途切れた。
「ごめんごめん」
 こんなことを考えても無駄だ。
 痛いところを突かれたからって相手の揚げ足を取ろうなんて浅はかだ。
 やめよう。
「アンナ、そろそろみんな帰ってくると思うよ」
「噂をすれば、よ」
 どうやら、アンナはみんなの魔力を感じ取ったようだ。
「たっだいまー!」
 三人が帰って来たのを確認すると二人はせかせかと料理を食卓に並べていった。
 
「さあ食べるわよ」
 全てならび終え、全員が食卓についたのと同時にアンナがそう言った。
「ん~~、美味しー!」
「いつもより上手いな、何したんだ?」
「昨日より美味しい!」
「はぁ…悪かったわね、下手で。カイトに手伝って貰ったのよ」
「へ、マジでか?」
 意外そうに目を丸くするレオ。それにアンナが頷くとその視線はカイトへと向けられた。
「まあね」
「意外だね」
「ああ」
「うん」
 アディンに同意を示すレオとジャスミン。
 カイトに料理ができるなんて露とも思っていなかったようだ。そのことにカイトは苦笑い。
 齢一一歳のくせに料理ができること自体異質である。
「ああそれと、食べ終わったら一回模擬戦をしようと思うの」
 食事を始めてから幾ほどか経った頃、アンナはそう切り出した。
「前に二人がやってたやつ?」
「ええそうよ」
 ジャスミンの問いにアンナが答えた。三人の加入が決まったその日にレオとアンナが戦ったあれが模擬戦である。
「今回は貴方達と私達が戦うわ。ジャスミンとレオ、私とアディンとカイト」
「ん?、お前二人を相手にするのか?」
「ジャスミンが一番剣上手いじゃない。それに遠距離の二人には魔導師の私が適任でしょ?」
「お前魔導師のくせにいつも突っ込んでるじゃねぇか…」
「後ろでふんぞり返るのは性に合わないのよ」
「知ってるが、知ってるんだが…」
 固まる眉間を解しつつレオはため息混じりに言った。
「とにかくするから、準備はしておくのよー」
『はーい』
 強引に事は進められたが、悪い方向にはいかないだろうと考えるとことにしたのだった。
 
 
 夕食を食べ終え、一同は戦闘場へと赴いていた。
「まずはジャスミンとレオね。レオは魔法なし、ジャスミンは使っていいわよ」
 模擬戦を行うに当たってのルール説明、そして勝利条件の提示がされた。
「じゃあやるか、いくぞジャスミン」
「う、うん!」
 ジャスミンの反応はおかしくない。
 レオが戦っているのを見たのはあのアンナとの模擬戦だけ。つまりはこれからあの凄絶な剣士を相手にするということ。緊張もするだろう。
「始めっ!」
 強い掛け声を耳にすると同時に、ジャスミンは走り出した。
 速度を重視した低姿勢で接近する。
 たった九歳とは思えない加速、森で培った肉体の機能が十全に発揮されていた。
「【ボール】」
 たとえ小魔法とはいえ走りながらの魔法行使は驚くべき技術だった。
 待っていたレオは虚を突かれ懐への侵入を許してしまった。
「だが間に合うんだよなぁ!」
 捻られた肉体、次に繰り出されたのは逆袈裟の斬撃だった。
「───残念」
 振り抜かれた大剣を足場に跳躍したジャスミン。
 木々の間を縫って生活していた彼女にとって安定しない場所での活動など朝飯前のようだ。
「──残念だったな」
 お返しとばかりの言葉がポツリと呟かれた。
「──っ!?」
 驚愕に染まるジャスミンの相貌。
 大剣の柄から離されたレオの手が、剣を振り下ろそうとした自分の拳を掴んでいたのだから当たり前だろう。
「ほらよっ!」
 そのまま投げ捨てられ彼女はごろごろと地面を転がる。
 すぐに距離が詰められまたもや斬撃をくらった。
 寸でのところだった。剣を構えるのがもう少し遅ければ斬り伏せられているところだった。
「まだまだぁ!」
 が休めたのは束の間、襲いかかる大剣の側面を打ち落とす。そして即座に離脱し構える。
「【ボール】」
 翡翠の魔法弾が放たれ、それはレオの一歩手前で破裂した。
「【グレイスライス】」
「まあ同じとこに立ってたらバレるわな」
「──え」
 一瞬で懐まで踏み込まれたジャスミン、放った【草刀グレイスライス】は既に斬り伏せられていた。
「終わりだ」
 またもや逆袈裟を描く大剣、それの何がいいのかはわからないが、ジャスミンは咄嗟に上半身を逸らすことで避けることができた。
「下が動いてねえぞ」
 くるっと柄を中心に回転、峰が下に向き体勢を崩し尻餅をついた彼女の眼前で寸止めされた。
「そこまでっ!」
 アンナの声が響き渡り、二人の止まった時間が動き出す。
 時間にして三◯秒にも満たない模擬戦だったが、そこに秘められた攻防は濃かった。
 戦い終わった二人は観戦していた三人の元へと戻ってきた。
「ジャスミン、あなた何て身軽なのよ…」
 アンナの渇いた声には全員が首を縦に振った。
「えへへ、森でたっくさん動いたんだもん。これくらい簡単だよ」
「………まあいいわ、じゃあ次は私たちの番ね」
 呆れ顔を隠さないアンナはため息混じりに用意を促した。
 
 対峙する三人。
 公平を帰すためにアンナが使えるのは小魔法までとなった。
 勿論二人は制限無しだ。
 まだギルドに入って数日、目に見えた成果などありもしない。だが、確かな期待がアンナとレオの胸の内にはあった。
 だから画策したこの模擬戦。
 案の定、ジャスミンは森で培った身軽さを見せた。
 なら、二人も何か仕出かしてくれることだろう。
「じゃあ自由にやれ、始め!」
「カイト、詠唱の時間を稼いで!」
「わかった!」
 合図と同時に示されたアディンの要望に答えるため、カイトは二振りの剣を呼び出しアンナと対峙した。
「【来たれ翡翠の土兵、自然の力を宿し顕現せよ】【来たれ竜鱗を纏いし騎士よ】【融合召喚──『ドラグゴーレム』】」
 何故か詠唱が完成するまで動かないアンナを疑問に思いつつも、アディンは召喚を行う。
 召喚されたのは『土人形ゴーレム』と『竜騎士ドラゴンナイト』。
 さらに続き、魔力光が二体のモンスターを包み込み展開されていた二つの魔法円の中央、そこに新たな円が広がった。そして魔力光はその魔法円に収束し、再度光を放った。
 光が晴れ、視界が回復したと同時に飛び込んでくる光景は驚愕。二体であったはずのモンスターは数を減らし、『土人形』と『竜騎士』を遥かに上回る巨体をもつソレ。
 ゴツい土によって作られ竜騎士を模した造形を持つそのモンスター。
 名を『竜土兵ドラグゴーレム』。
 一線を画すモンスターはここに召喚された。
「カイト!」
「わかってるよ!」
 アンナが目を剥く間に即座にゴーレムの背に隠れる二人。
 そしてカイトはゴーレムを盾に二振りの剣をアンナへ向かわせた。
 勿論、対応し辛いように時間差をつけて斬りかかった。
 しかし──
「遅いわね」
 剣が弾き飛ばされる甲高い音が聞こえたのはまだいいとして、それと同時に一◯歩も離れていた彼我の距離を一瞬で詰めて来たのはどういうことか。
「──っ!?、『ゴーレム』っこれを使え!」
 瞬間、驚異的な反応で動いたのはアディン。
 かざした両手の平に開いた魔法円、それに連動して展開するのは『竜土兵』の足下だ。その体躯に相応しい大剣と大盾が召喚された。
 主の命に即座に従った『竜土兵』はその二つを装備し、襲い来る大剣を盾にて防ぐ。
 そこに通過する剣。
 避けたアンナの着地の先にはアディンが剣を構えている。
「いいわね」
 油断なく繰り広げられる攻撃にアンナは目を細める。
 そして、宙だというのに身体を反転させるアディンと剣を交えた。上をとった彼女は勢いそのまま大剣をさらに押し込み、アディンを押し退け前方へと押し進んだ。
 流れるように背中を斬りつけられる。
「でも、甘いわ」 
 感心した、だが詰めが甘い。対処など用意にできた。
「ただ構えるんじゃなくって魔法でも使っとけばよかったのよ。カイトも私をやるのは一本だけにして、残りをアディンの援護に回せばよかったわ」
「生憎時間差はまだできなくてね」
「それもよ、戦いの最中に弱点を明かすなんて馬鹿がやることよ」
 あからさまな挑発、それがわかっていたカイトも馬鹿という言葉には反応しなかった。
「あと、そんな『ゴーレム』一瞬で片付けられるのよ」
 何気なく吐かれた言葉。
 次の瞬間『竜土兵』は膝を落としていた。
 倒れた『竜土兵』を見下ろすのは青髪の女。
「そん、なっ……」
「図体がデカイだけ、ろくな技もない。斬れる得物とリーチさえあればこんなのどれだけ強化されようと雑魚と同じよ」
 視線が上がりカイトを射し貫く。
「──っ!?」
「ほら、見られただけで萎縮してるじゃない」
「……………」
「だから───」
 押し黙るカイトに呆れたのかため息一つ、次には沈みこみ地を蹴っていた。
 突進が向かう先はカイト。
 矯められた右拳が放たれ頬を打ち抜いた。
 跳ねるように飛んだカイトは頬に受けた衝撃に意識を明滅させ、地面を少し削ったところで事態をやっとのこと把握したのだった。
 
 
「【我が身を喰らえ】」
 
 
「──っ!?」
 彼女がカイトをぶっ飛ばした瞬間、魔力が膨れ上がった。
 その発信源は───アディン。
 左腰に提げていた黒鞘から抜かれたであろう反りの無いその刀は、やはりその刀身も黒に塗られていた。
「使うつもりは、なかったんだけどな……」
 どこか口調までも変わっているアディン。
 右手に持つ禍々しい気配を放つ刀に自然と意識が吸い寄せられる。
「それ、どこで手に入れたのよ」
 そしてその刀から感じる悪しき魔力にアンナは目を細めつつ問うた。
「知らないよ、そんなこと」
 返ってきたのは素っ気ないもので、行動ではその刃先をこちらに向けられた。
「前言撤回、魔法使うわね」
「ご自由に」
 思考までも変わっているというのだろうか。
 アンナの目の前にいる少年がここ三日間で見てきた彼とは明らかに違うことが、彼女にそう思わせる原因だ。
 再度紡がれる詠唱。強さの輪郭がより強く感じられるようになった。
「【レーザー】」
 即座に放たれた【光線レーザー】はアディンの元まで到達するも、黒刀に阻まれその光を散らした。
 魔法を防がれたアンナはしかし止まらない。
 【魔球ボール】を放ち水蒸気を発生させ、それを目眩ましに接近、魔力を探知し居場所を特定、大きく大剣を薙いだ。
 唸る大気とともに打ち抜く確かな手応え。
 しかしその音は甲高く、その手応えも硬質なものであった。
「【我が身を喰らえ】」
 さらに発動する強化魔法。
 大剣と刀の鍔迫り合いは、刀の勝利に終わった。
 押しきられるという醜態を晒す訳にもいかず、離した右手で零距離射撃を【魔球ボール】により敢行する。
 飛び退きと爆風が互いの間合いを作りだした。
 諸能力が上昇しているとはいえ技術も対処も拙いアディンはやはり吹き飛ばされ、空中を切り揉みしたあと盛大に地面と衝突した。
 対してアンナは上手く体勢を立て直し両の足にて着地、間髪入れず地を蹴りアディンへと突貫を行う。
 大剣の切っ先が迫るなか、アディンがしたのは───
 
「【喚装召喚──『ブラックナイト』】」
 
 ───召喚だった。
「………そういうことね」
 アンナの大剣を受け止めているの大盾。
 全身に纏うのは黒き鎧。
 アディンの変化。
 それは呼び出した『黒騎士ブラックナイト』を身に纏ったことによって引き起こった。
 【喚装召喚】。
 それはモンスターを装備として召喚し、その能力を受け継ぐ召喚魔法。
 アディンが召喚したのは『黒騎士』、黒属性の騎士のモンスターである。既に持っていた刀には反映されなかったが、兜、鎧、籠手、盾、全てにおいて黒がアディンを満たしていた。
「【ブラスト】!」
 跳躍し【砲撃ブラスト】を放ったのはアンナ。
 しかしそれは盾によって軽々と受け止められてしまった。
 だがそんなことは百も承知と大剣を次々と繰り出す。
 縦横無尽に走る斬閃はしかし盾に妨げられアディンの身に一撃を入れることは叶わない。
「【フリージング】【ミラーヴェイパー】【レイニッド】【コリエンテ】」
 放たれる冷気がその身を凍らし、曇る水蒸気が身を隠し、降り注ぐ雨弾が確かな衝撃を与え、水流が強かに刀と盾を持つ腕を打った。
 行使された魔法はその数、四。
 同時に操られ為す術をアディンに残さない。
 そして最後。
 
「【レーザー】【ブラスト】【フエンテ】───【アイルボンバード】!」
 
 極太の水柱が、勝負を決めた。
 
 



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長く時間が空いてしまいましたね。

なんと!、お気に入りありがとうございますm(__)m
質問、誤字、不明瞭な点などお待ちしております。
 

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