黒龍の傷痕 【時代を越え魂を越え彼らは物語を紡ぐ】

陽下城三太

稽古2


 
 
 昼食を終え、腹を満たした一同は軽く準備運動をこなし午後の鍛練へと至った。
「次は魔術よ」
 アンナの宣言通り、武器による稽古のあとは、魔法の特訓だった。
「魔法の出し方は教えたわよね。今日は簡単な詠唱の作り方、そして魔法を放つことを教えるわ」
 腕を組んで仁王立ちをするアンナの前には、座る四人の姿。なぜかその中にレオが加わっているのはさておき。
「あなた達は既に魔法は使えるようになってるわ、これは持論よ、定型の詠唱の魔法しか使えないようでは魔導師の風上にもおけないわ。よって、これから独自の詠唱で魔法を使う技術を身につけてもらうことになるわ」
 いきなり高度なことを言い出す彼女にレオを除いて三人はハテナを頭上に浮かべる。
「魔法ってのは一回詠唱してものにすれば無詠唱なんてすぐにできるようになるわ。だから最初から無詠唱なんて考えないことね」
 釘を刺すアンナだがジャスミン以外無詠唱で魔法を放てる者はこの場にはいない。
「まずは自分が使いたい魔法を想像するわ、それに合うように詠唱を考えなさい。私が言えるのはそれだけよ。まあ後で座学はしてもらうつもりだけど」
「座学?」
 首を傾げるジャスミンに答えるのはレオだ。
「詠唱文は適当じゃ作れねぇ、規則に従ったもんを作るための土台を知るんだよ」
「そうよ、長ったらしい詠唱にも意味はあるの、ただ言葉を並べればいいってわけでじゃないわ」
「じゃあどうすればいいんだ?」
 あまりにも焦らしたような言い方に待ちきれないカイトが少し苛立ち気に尋ねた。
「まあ今は適当でいいわ、詠唱が成功しない感覚を知られれば上等よ」
 なんとも曖昧な答えにエルフの少女を除いた子供二人は首を傾げた。
「んーー、『ボール』みたいにやればいいんだよね?、……光よ光れ──ビーム、…………ダメみたいだよ?」
「まあそんな感じね、あとジャスミンは植物系の魔力よ、光は使えないわ」
 試しに詠唱らしきものをしてみたジャスミン、案の定魔法は発動せず彼女もまた疑問を持つままに終わった。
「俺はもう召喚でなれてるんだけどね、【火よ来たれ火炎の猛獣───『フレイムキャット』】」
 赤の魔法円が手を翳した先に開き、人一人ほどの炎を纏った大型の猫が形作られた。
「もう帰っていいよー」
 間延びした声に反応し『大火猫フレイムキャット』はその身をマナの粒子へと変化させ魔法円へと戻っていった。
「アディンは大丈夫そうね、カイトは?」
「魔力的に意味はなさそうだけど?」
「詠唱ができれば魔法の効果はぐんと上がるわよ」
 アンナの言葉に渋々といった様子でカイトは腕を地面と水平に上げた。
「そうだね………、【眩く走る銀、出でよ光剣】、うんできたよ」
 光を放つ片手剣がその手の中に現れた。魔法名はなかったため標準的な片手剣だ。
「えー、私だけできないのー?」
 むすっと愚痴るジャスミンをカイトは宥めアディンはアンナへ問うた。
「何が違うの?」
「まあ才能ね」
「アンナはこう言うが一応剣と同じように型はある、あとでそれはこいつが教えるだろうから今は我慢してくれ。あとお前偉そうだ」
 埒が明かないとレオが半眼でアンナを見やりつつ三人に答えた。
「知らないわ、教えを請うのだから私に従えばいいのよ」
「はいはい、………じゃあお前ら、休憩したあとリビングにこい、そこでこいつが詠唱について教えてやる」
「ちょっと、なんでレオが決めるのよ」
「やれ、決めただろ」
「…………わかったわよ」
 彼女の面倒くさがりは既に知っている彼は、強引に話を進めることでアンナの抗弁を封じた。
 それを意図していたことをわかってしまっている彼女もそれ以上不満を口には出さなかった。
「………はぁ、三◯分後に再開するわ…」
 満足そうに頷くレオを怨めしそうな眼差しで見据えつつ、アンナはそう言ったのだった。
 
 
 

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