黒龍の傷痕 【時代を越え魂を越え彼らは物語を紡ぐ】

陽下城三太

チャプター2:日々 稽古




チャプター2
あらすじ



ひと波乱あったその翌日から再開された鍛練。
日々を過ごす内に明らかになる子供達の素顔。
信頼を築いた彼らが目の当たりにするのは少年の不可思議だった。




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 アディンが迷子になり皆に迷惑を掛けた翌日、彼の要望により早速鍛錬が始められた。
 午前中は、武器の稽古だ。
 武器、と曖昧なのは理由がある。
 何も剣にこだわる必要がないからだ。
 自分の使いやすい武器を極めればいい。
 ということで、剣術はレオが。他の武器はアンナが教えることとなった。
 レオの剣の腕にアンナは及ばない。
 代わりに、槍、斧、弓、双剣、杖、大型剣を使うことができる。
 それはひとえにアンナの戦闘体勢によるものである。嫌でも覚えなくてはならなかったのだ。
 武器選択の内訳はこうだ。
 アディン、ジャスミンが剣。カイトが魔力の性質もあってかアンナに出来る限りの武器の扱いを教わることになった。
 レオが二人に木刀を渡す。
「まずは素振りだ。左、右、どっちも使え。片手剣をつかうとしても両方で使えるようになれ。理由は簡単だ。片腕が無くなったとき、その無くなった腕が剣を使える腕だとしたら、生き残るのは絶望的になるからだ。両方同じとまでは言わないが最低限防御は出来るようになれ。始め!」
 レオの号令で、二人は素振りを始めた。
「もっと速く!」
 帯剣をしているアディンと妙に身のこなしがいいジャスミンの素振りを指導することになったレオは鋭い眼差しで二人を見据えながら思考を巡らせる。
 なっちゃいないが強かに振るわれる両方の剣。
 二人とも体幹が出来上がっている。
 昨日聞いた話だが、ジャスミンは家族を亡くし森で孤独の生活をおくっていたらしい。種族はエルフ、そして褐色の肌という珍しい特徴がある。
 故に通常のエルフとは離れて暮らしていた。
 エルフは一般的に魔力系に優れているが、両親は戦いに疎くモンスターの襲撃で命を落とした。
 兄もいたようだ。
 息を殺し、耳を塞ぎ、モンスターが去るのを待った。
 家は倒壊、畑は荒れ、全てが失われた。
 失意のドン底に落ちたが、このままではいけないと自活を始めた。
 このような顛末で、ジャスミンは森での生活で様々な技能を手に入れた。
 一つ、殺気や敵意に敏感になった。
 二つ、不安定な足場でも容易に活動できる。
 三つ、木々の言葉が聴けるようになった。
 四つ、植物の魔力を得た。
 九歳である。
 よくもまあ生きていたものだ。
 妖精の森に住んでいたことは確かで、一人で帝都までやってきたというのか。
 行動力の権化だな。
「力み過ぎだ!」
 だが、目に余るものはある。
 力が入り過ぎて剣先を上手く走らせていない。
 だがまあ、初めて振るにしては上出来だろう。
 しかし、レオの頭を悩ませているのは深緑の髪の少女のことではない。
 アディンの方だ。
 真剣に打ち込む姿には感嘆を覚えるが、その表情は『無』。
 まるで実戦の最中であるかのように。
 アディンの様子を見ると意識しているわけではないらしく、身体が覚えているかのような動きだ。
 いつどこで、そんなものを覚えるというのだろうか。
 そうこう考えている内にある程度時間が経ち、素振りを止めて少しの休憩とした。
「アディン、言わなくてもいいが、今までのこと、教えてくれないか?」
 レオはどうしても知りたいと思い、そんなことを聞いていた。
「今までのこと?、ごめん、分からない」
 (分からない?、どういうことだ?)
 教えられないでも知らないでもない、わからないという答え。首を捻りかけるレオだったが続くアディンの言葉がそれを止めさせた。
「ボロボロなところでクロといっしょにおばちゃんにごはんをもらったりしてたんだ。名前しか覚えてないよ」
 レオが首を傾けたのを疑問だと受け取ったのか、アディンが説明をした。まぁ、疑問だが。
 しかし、ルーツは分からなかった。
「それじゃ、今度は打ち合いをしてもらう。まず攻めはジャスミンだ。好きにしろ。だが一つ条件がある。一本一本全てきっちり打て。これは勝負じゃない。ちゃんと打ち込んだものをちゃんと防げ。基本を型に縛られずに身に付けろ」
 打ち合いと言った瞬間その眼をギラつかせた二人がいたため、すかさず勝負ではないことを明言した。
 二人がともに間合の外で木刀を構える。
 ゆっくりとした歩みで近づいていき、ジャスミンが振り下ろした。
 そこから始まった打ち合いは、六度目の衝突のジャスミンの胴狙いの一撃をアディンが防いだところで、打ち止められた。
 力み過ぎだという指摘がまた入ったからだ。
「ジャスミン、何度も言うようだが、実戦と稽古は違う。稽古で完璧にした基本を、実戦で応用に使う。それか基本から外れた動きで相手を惑わす。最初から実戦を意識した型破りな剣術を使ったとしても、決して強くはなれないからな。その程度の強さで甘んじるってなら、俺は剣を教えない。アディン、お前もだ。ただの木刀にビビり過ぎだ。慎重なのはいいことだが、慎重と臆病は違う。次に繋がる受け方をしろ」
「「わかった…」」
 そして、小一時間ほど経ち、稽古は終了となった。
 
 
 

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