黒龍の傷痕 【時代を越え魂を越え彼らは物語を紡ぐ】

陽下城三太

青と赤

    


    青と赤。
 対峙する両者の頭髪が揺れる。
 建物内に作られた大空間。
 ここを彼らは戦闘場と呼ぶ。
 それは二人が知り合ったシャーリアの学区にある学園のある施設を思い描いたからだろう。
 青い女が持つ杖は美しく、金と青を全体的に印象付けられる。
 赤い男が持つ大剣は猛々しく、黒を基調として赤の装飾が散りばめられ、その大きく太い剣身を映えさせる。
 どちらも珍しい『器』であり、女のものは神器『セントディザスター』──神『アクアス』の力を宿し、男のものは封器『ヘリオス』──魔獣『ヘリオス』を宿している。
「───行くぞ」
「掛かってきなさい」
 男──レオの宣言、女──アンナの挑発。
 これを皮切りに両者共々軽い靴音を響かせて地を蹴った。
 ──衝突。
 いつの間にか大剣に変形していた杖と黒の大剣が甲高い金属音を巻き起こす。
「【エンチャント黒炎ヘルブレイズ】」
 虚空から生まれた黒い炎がその手に持つ大剣へとまとわりつき、遂には完全に纏った。
 その黒炎は肥大し、アンナまでも呑み込まんと勢いを増す。
「【フエンテ】」
 しかしアンナが放った【噴水フエンテ】によりレオは視界を遮られ、彼女自身噴水の勢いを利用して一先ず退いた。
「【エンチャント水氷アクアアイル】【ランス】【コリエンテ】【フリージング】」
 弓に変形させた『聖厄』の弦を引き絞り、アンナの魔力である〔水氷〕を付与、そして水と氷二つの属性を持った【魔槍ランス】その周りに【水流コリエンテ】そしてそれら全てを固める【凍結フリージング】を行使した。
「【イグニスブレイド】」
 水氷の矢槍に迎え撃つのは黒炎と火炎が入り交じり輝く【炎斬イグニスブレイド】。
 やがて解き放たれた矢。
 光の尾を引き爆進する魔法を前にレオは剣を構える。
 一呼吸。
 『─────』
 正しきタイミング、正しき間合い、正しき呼吸をもって振り抜かれた大剣はその一太刀の下にアンナの魔法を斬り捨てた。
「【──淀み、濁り、荒み】」
 詠唱を開始するアンナ。
 水の魔法を斬り伏せたせいで生じた蒸気に視界を奪われていたレオ、彼はその玲瓏たる声音を聞き届けたと同時にその方向へと疾走する。
「【汚泥を食らいし屈辱】」
 続く詠唱に位置を特定、直ぐ様斬りかかった。
 しかし。
「────【其の怒り其の憎しみをもって大衆に仇なさん】」
 既に片手剣へと変えていたアンナに受け止められていた。
 このままでは魔法を使われてしまう、だが焦りを抑え次々と冴え渡る剣技をぶつける。
 剣を跳ね上げ、詠唱を途切らせるために大剣を振り抜いた勢いそのままに回転、右脚で回し蹴りを放った。
 こめかみを打ち抜いた蹴りにアンナは吹き飛び、地面を数度転がる。
「【聖流までも蝕む餓鬼、貪食を示せ】」
「くそっ!」
 大剣に宿る炎が照らすその相貌は苦渋に歪み、まるで仇と対峙しているかのよう。
 アンナの掲げた片手剣は元の杖へと姿を変える。
 そして下ろした杖の柄先で地面を突き──
「【カワイア・イヌンダシオン】」
 ───膨大な濁流が解き放たれた。
 アンナを中心に地面に開いた暗い青の魔法円より打ち上がる土混じりの水。それは高く登りそして放射状に全てを呑み込んでいった。
 そして止めとばかりに。
「【レイニッド】」
 魔力を感知、その位置を見据え【貫通雨レイニッド】を放った。
「らぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
 レオは魔法が苦手だ。
 今では魔法として見られるものになってきているが、昔はごく簡単な小魔法でさえも手の平から小さな火種をだすのが精一杯だった。
 そして今は、火が保てないはずの泥水の中、炎を纏い全てを蒸発させている。
 アンナが放った【貫通雨】もその炎の勢いに負け濁流と同様蒸発してしまっていた。
「【立ち上る炎、火の精の力より燃え上がれ】──【アグニフレア】!」
 自分まるごと【火柱アグニフレア】で包み込んだレオ。
 これで【濁流カワイア・イヌンダシオン】は既に彼を脅かすものではなくなった。
 特大魔法のはずなのだが、本当にあのころに比べると成長したものだ、とアンナには感慨深く感じるものがあった。
「【アイルボンバード】」
 とんでもない速度でマナを消費する旧知の友に呆れた声音で【光輝水砲アイルボンバード】を撃つ。
「そろそろだ……」
 燃え上がる身体のまま水砲を躱し、その射手へ突貫。
 しかし水砲を放ったアンナも彼の狙いが何であるのかわかっていた。
 故にその時が来る前に決着を決めようと無詠唱で次々と魔法を撃ちまくる。
「──来た」
 そんなアンナの労力虚しく、レオは自身の魔力を多分に消費してしまった。
「アンナぁ、行くぜ」
 ここからは遠距離での戦いなど無意味だと、直ぐ様『聖厄』を片手剣に変え自身の肉体に魔力を付与。
 平行詠唱を駆使しつつこれから始まるレオの独壇場に対処しなければならない。
 だが。
「滾るわぁ!」
 両者沈み込みそして肉薄。
 奇しくも開戦と同様の仕切り直しとなった。
「──ハハっ!」
 目まぐるしく『聖厄』を変形させ斬撃、衝撃、刺突を途切れさすことなく見舞う。
「よっこら──しょっ!」
 最終に巨鎚を振り抜き、盾に見立てた大剣ごと赤髪の男を殴り弾いた。
「時間がないんでなぁ、さっさと決めさせてもらうぜ」
 油断なく言い放つレオ、身構えようと神器を双刀に変える──その時だ。
 一瞬で彼我の間合いを埋め、既に懐に踏み込まれていた。
 久し振りにレオと戦ったアンナは、スキル発動時の彼の身体能力を舐めていたようだ。
    彼のスキルの名は[終闘ラストファイト]。自身のマナ量が最大の一割を切った瞬間、あるいは待機状態から発動できる魔力と精神以外のステイタスを激上させるものだ。しかもこのスキルの発動時間が経過したとしても、マナが一割残ったレオに戻るだけというのが恐ろしい。
 逆袈裟の斬り上げを利用して辛うじて躱すことができたアンナだったが、続く回転斬りに為す術もなく右足がもっていかれた。
「【エリクプナホォ】」
「───無駄だ」
 超回復を引き起こす【聖泉雫エリクプナホォ】の魔法を展開するはずだった、しかしその雫さえも炎熱で吹き飛ばされてしまう。
「【コリエンテ】【肉体活性】【血液変換:回復】」
 焼き斬られていた負傷部を再度【水流】で傷つけ、自己治癒速度を上昇させ自身の身体に流れる血液の成分を回復ポーションと同様のものに変える。
 簡単に見えるかもしれないが、このような芸当を易々とこなせること自体がアンナを天才と云わしめる由縁だ。
 【肉体活性】は血液を媒介に細胞レベルで強化を施し、自己治癒力を促進させる。
 【血液変換】は流れ出る血液全てを回復効果のあるアイテムと同等の能力を持たせる。ただし回復魔法及び上位回復ポーションには到底敵わない。しかし即効性がある。
 この二つを無詠唱で瞬時に、確実に発動したアンナ。これが何を意味するか分からないはずもないだろう。
「術潰しなんて何回食らってきたと思ってるのかしら?、ふふっ」
 光悦とした表情を浮かべ、なお肉薄する男の剣をひらりと躱す。
「【リムピッドソード】【エンチャント水氷】」
 水製の剣を召喚、魔力を付与。
「【神器解放】」
 そして、神の武器を一段階昇化させた。
 宿していた淡い蒼光はその輝きを増し、眩いほどまでに。
「【セントドラゴニール】」
「──くそっ、【エンチャント黒炎】」
 無詠唱とはいえアンナの発動したそれは極大魔法【聖護水龍セントドラゴニール】は幾多の水龍を召喚し意のままに操る、小、中、大、特大、極大と並ぶ内の最上位の魔法。
 迫り来る水龍を次々と斬り伏せるレオ。
 しかしその内の一つがレオの肩に噛みつき、また他も絶え間なく食いつく。
「時間がねぇ───んだよっ!」 
 水風船でも割れたのかと錯覚させる音一つ、レオにまとわりついていた水龍は跡形もなく消し飛ばされた。
 そしてアンナはこれを好機と見る。
「泣きわめきなさい──【神化】」
 突如、空間が脈打った。
 その手に持つ美杖から伸びる水流は煌めき澄んでいて、足下に広がる魔法円から立ち上る魔力光は天を貫くほどだ。
 目も眩む神の光が止むと、その姿が明らかになる。
 透き通った羽衣を纏い、光の差した長い髪を揺らし、誰もが平伏を余儀なくされる威光をその瞳に宿していた。
「【ミラーヴェイパー】【ウォーターフィールド】【ソウルアクエリアス】」
 振り抜かれる杖。
 そして放たれる魔法。
 【水蒸鏡ミラーヴェイパー】は光の乱反射を発生させた水滴で起こし姿を眩ませ【地水面ウォーターフィールド】は指定した範囲を水浸しにし【水塊ソウルアクエリアス】は膨大な量の水を凝縮した塊を叩きつけ吹き飛ばす。
 特大、中、極大魔法が続け様に発動され、時間制限に悩む男の焦りは助長される。
「──ってな、阿保か?」
「っ~!?」
 肉薄。【水塊】を突き破り気づけばアンナの目の前にいた。アンナの胸の内に宿るのは不可解。
 どうやって居場所を突き止めたか、何故魔法を受けていないのか。
「【ブラ─】「【燃え上がれ】」
 爆ぜた。
 【砲撃ブラスト】を唱えようとした瞬間にレオが何事かを呟くと、その魔法はキャンセルされ、発動寸前だったそれは術者に牙を剥いた。
 レオのスキル[外法マジックディスターブ]。
 規定の詠唱文を口にすることで詠唱中魔法の強制失敗と発動後接触魔法の消去を行えるもの。
 魔法を嫌った彼が手にいれた魔法の外の力だ。
 彼の出身はラギアン家という魔法貴族、そして魔法に適さない身体を持って産まれた忌み子、それがレオ。
 彼が自分をレオと呼ばせるのほ『レオナルド』という名が長いだけではない理由だ。
「残念だったな」
「…………、参った、わ」
 煙が晴れ明らかになるその光景は、レオの持つ大剣の刃がアンナの首の皮スレスレに添えられているものだった。
 ここからの打開など到底できるはずもなく、アンナは敗北を受け入れる他なかった。
 そして、二人のこの戦いは観戦していた三人の子供達に大きな火種をくべた。
 ある者は決心し、ある者は笑い、ある者は羨望を抱いた。
 それそれに宿った想いはやがて強さに変わり、彼らの物語を紡ぐその道に大きな影響を及ぼすことになることを、彼らはまだ知らない。




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