黒龍の傷痕 【時代を越え魂を越え彼らは物語を紡ぐ】
第一章 蒼の双星 チャプター1:始点 加入
第一章 蒼の双星
チャプター:1
あらすじ
たった二人のみのギルド《蒼の双星》に現れた三人の子供達。その内の一人、アディン・ネルヴァの才能に団長であるアンナ・ハリスは驚愕を隠し得ない。そんな彼らと子供達は覚束ない足取りながらも関係を紡いでいく。
───────────────────────
    
    ビアルデン。
そこは周りが海に囲まれた大陸。
同じ海に繋がれた同様の大陸は複数存在するが、大海の荒れはその大陸間の交易を許さない。
故に実質島と同じだ。
そしてここビアルデン大陸には、様々な種族がその生活を築き、日々を暮らしている。
さらに、一際存在感を放つ都市がある。
国王に権力の集結した王都。
僧聖により整備された聖都。
皇帝にて統治される帝都。
将軍が支配する軍都。
議長の運営する副都。
学区を主とした提携都市シャーリア。
炭鉱と鍛冶の最先端を行く鉱都。
南西の海岸線を取り仕切る海都。
また、ここビアルデン大陸は海に浮かぶ島だというのに北と東にかけてタチキリ山と呼ばれる何人も越えることのできない山脈がある。
だがそんなタチキリ山にも抜け道はあり、軍都と小人の里へ行くための洞窟があり、ここを抜けるとそこへ辿り着くことができる。
そしてここは帝都の西部に位置するギルド。
ギルドというのは、同じ目的を持った者もしくは賛同者計五名以上によって建立する集団だ。
因みに、脱退などにより人数が五人を下回っても、その五人満了結成期間が半年を過ぎていれば解散されることなく継続して存在できる。
このギルドには門は無く、小さな扉があるだけの簡素な造りだ。
他のギルドでは外観で舐められるわけにはいかないと盛大な造りをしているところも多い。
このギルドの外見がそこまできらびやかではないのは別に貧乏な訳ではない。
見た目より性能重視を実践した結果だ。
また、このギルドの外観、内装全ては青色を基調としている。
つらつらと語ったが、私の名前はアンナ・ハリス、二十歳、この《蒼の双星》ギルドの団長である。髪と目は青色でナイスバディよ。
今日は二ヶ月に一度のギルド招待日。
様々な者達が集い、我がギルドに加入できるほどの実力が備わっているのかを判断し、その合否を決定する日である。
だが、今まではいくらポスターに「老若男女誰でも募集!」って書いてるからといって、流石に多すぎたと思う。
勿論、面倒さのあまり流してしまったことは自分の責任だ。また、それを直すことも敬遠して今に至ったのは私の怠慢。
故に言えるのは愚痴だけである。
それに、今は新しい団員を受け付けていない。だからポスターも案内所に取り外してもらっている。
新しい団員を受け付けないのは私が今の二人だけのギルドがいいと感じているからだ。
また他にも理由はあるがそれは言えない。
因みに、もう一人の団員は私と同い年のレオナルド・ラギアンという男で、かれこれ一二年という長い付き合い。
そんな彼が待つ戦闘場へと、私は向かっていた。
募集していないはずの加入希望者が三人も現れたためだ。
このギルドの方針、それは『力』と『愛情』。
私は強者の集うギルドでありたいという想いがあり、また家族のように暖かい関係を築くという狙いも込めてこの二つを方針にしている。
靴音を響かせ、光の洩れる戦闘場へと足を踏み入れた。
そして私は目を疑った。
そこにいたのは何と三人全員子供だったのだ。
「どういうこと、全員子供?」
驚きを隠せず眉をしかめてそう言った。
「まあいいじゃんか。いい経験だと思ったらさ。話ぐらい聞こうぜ」
レオの言葉に渋々頷く。
記念ということもあるかもしれない。
しかし、子供を記念と言ってギルドに行かせるのは些か無責任ではないか。もし、合格を得た場合、どういう責任をとるのだろうか。
「わかったわ…まぁどうせ無理でしょうけど。一応ね。はいそこの三人、こっちにきて」
ぶっきらぼうに告げた私は、子供らに自己紹介を促した。
「ぼくからですね。ぼくはカイト・バレイム。一一才です」
意外にも、しっかりとした受け答えが返って来た。そして、マセた餓鬼という第一印象を私は持った。
黒髪黒目の少年は、知性が少し高いようだ。
所作、言葉遣い、表情、どれを取っても遺憾無く社会で発揮できるだろう。
「わたしはジャスミン・ユグド!。九才!、よろしく!」
褐色の肌で、深緑のうねったショートボブ、そして耳がとんがっている。この特徴はエルフだ。しかし、褐色の肌というのはエルフには珍しい。私が見たのはこれが初めてだ。
というか、本当に一桁だった。あと快活な娘のようだ。
「アディン・ネルヴァ、一○歳。よろしく!、こいつはクロ、僕の家族だよ」
黒猫を連れた男の子がいった。青紫の瞳に紺の髪だ。腰に黒い刀を挿している。
その『モンスター』から感じられた魔力に一瞬目を細めた。あってはならないものを感じたのだ。だが、今は言及はしないでおこう。
「うん。わかってると思うけど、このギルドに覚悟のない半端な人は要らない、それでも入りたいって言うなら今日からの三日間、ちゃんと頑張れてたら加入するの認めてあげるわ、わかったかしら?」
すこし皮肉めいた言葉で子供たちにそう告げたが。
「わかりました」
「はーい!」
「うん!」
と反応は意外にしっかりしていた。今の返事だけでもちょっと性格でてるわね。
………、今の反応は二回目だったかしら?
「キッツいなー、お前」
「別にいいじゃないの」
「へーい」
憎たらしい表情をこちらに向けてくる彼に少し苛立ち、睨み返してやると彼はすぐに止めた。
「ねえ早速だけどあなたたちって魔法使える?」
「おい、流石に使えねーだろ」
決めつけるレオだが、使える者は使えるのだ。
私のお兄ちゃんがそうだった。
隠していたみたいで口には出さなかったけれど、多分五歳のときにはもう魔法は使えていただろう。恐らく魔力というものも理解していたはずだ。
「んー、使えるか試したこともありません」
「わたしわからなーい」
「使えないよ」
示し合わせたように順に答えていく三人。初対面だろう、なのに意外と息が合っている。
「今から確かめてあげる」
「「「え!?」」」
期待していた反応で、少し喜色を滲ませると隣がニヤニヤとこちらを覗いてきた。取り敢えず足の甲に踵を押し付けておく。
「どうやって確かめるんですか?」
「はぁー、まぁ言うとおりにしたら分かるさ」
溜息混じりにレオが言う。私の傍若無人さに呆れてでもいるのだろうか。
「まず目を閉じて、それから手を出して。そして手のひらを下にかざすの」
「こう?」
「そうそう、それで手に力を入れて。そのまま手の中にボールがあるように手を作って、そのボールの中心に手に集めた力を集めて。それを五秒したら集めた力を押しだす感じで地面に向けて放ってみて」
私自身口に出した通り動いて見せ、ね?、と催促をした。
「こうして、やっっ」
そんな私を真似、教えた通りに行動したジャスミン。突き出したその手の平に緑の魔法円が開き、ぴょこっ、小さな植物の苗が床から出てきた。
あら可愛い。ジャスミンのそんな様子を見て、私はそう思ってしまった。
「うん、あなたは緑属性の植物系の魔力ね」
魔法円が緑色、発動された魔法は植物のものだったため、簡単に判断することができた。
魔法円とは、魔法を発動する際に展開する起動装置のようなものだ。本当は詠唱というものを口にして魔力を操る必要があるが、今回のような簡易のものならば無詠唱でも魔法初心者が使えることに問題はない。
「じゃあ次はあなた、やってみて」
今度は黒髪の男の子の方を見て言った。
「わかりました。んんん、はっ」
もう一度説明しなければいけないのか、そう懸念していた私だったけれど、黒髪の男の子は要領がよかったらしい。
先の一度を見ただけで成功してみせた。
だが何故か魔法円が開かなかった。そしてその次の瞬間、壊れた人形の首のような音と共に、レオが持ってきていた大剣が震えた。
「うおぉ!?、なんだこれ!?、なんでこれ震えてんだ?」
「たぶんそれがカイトの魔力だわ。見たところ。武器だけが干渉を受けてるから武器に関するものね。聞いたことないけどもしかしたら無属性の魔力かも」
「なるほど、ありがとうございました」
私の論評を聞いたこの少年の反応はまたもマセている。ちょっと気に食わないわね。
「次はアディン、あなたで最後。やってみせてちょうだい」
「わかった」
アディンが手を出し私の言った通りにする、が何も起こる気配はない。
「あれ?、もう一回やってみて」
訝しんだ私は再度行うよう促す。
だがしかし、何も起こらない。
胸の内に宿る疑念。
彼の隣の黒猫が関係しているのか、はたまた魔力がないという希少な人種なのか、その判断はつかない。もし魔力が無い状態が常だというのなら、アディンには冒険者は向いていない。
ステイタスという冒険者の強さ、それを発現させるにはごく微量だとしても必ず魔力は必要になる。
「ごめん、もう一回やって」
もう再度やらせて見るが、やっぱり何も起こらない。
これは本格的に悩むべき案件だ。
別にこの男の子が魔力がなくて冒険者になれなくてもどうってことない。
ただ、これからの生活において相当な苦労をすることになるだろう。この世界は魔力とは絶対に縁を切れないようにできている。
……と、目の前のことが衝撃すぎて自分の能力、と言っても技能ってことなんだけど、忘れていた。
…………魔力は、ある?
魔導師である私にとって他人の魔力を図ることなど朝飯前。ていうかそれができないと魔導師を名乗れない。
「ねぇ、ぼく魔法使えないけど、これならできるよ」
はて、それなら何故?、と頭上にハテナを浮かべていたアンナだったが、アディンの言葉がこの耳に届いたと同時に目を疑うことになった。
「【来たれ火の遣いよ】」
「「「「!?」」」」
私達から少し離れた後に瞑目、詠唱、そして赤色の魔法円が出現する。
複雑ではない、しかしこれまでの人生で一度も目にしたことのない形だった。
「来て、【『レッドカーバンクル』】」
彼がそう唱えると、魔法円の中心から光が回転し、魔力を集め何物かを形成していく。
漏れでる光輝、加速する回転。
本当に生命の誕生でも垣間見ているかのような錯覚に陥っていた私は、光の収束と停滞を経て完成したソレに目を剥いた。
淡い赤の毛、深紅の瞳、ルビーと遜色ない額の宝石。
それは何処から見ても『モンスター』。
見たことはないが名を『レッドカーバンクル』と言うらしい。
「ねぇ……、あなた、どこでそれを覚えたの!?」
「アンナ、お前は落ち着け」
アンナは咄嗟に詰め寄りアディンの肩を自身の両の手で掴み上げる。レオに咎められた通り驚愕に少しの制御を失ってしまったようだ。
召喚、それは『モンスター』を呼び出す魔法。
そして私の兄にも使えなかった魔法。
「えっ?、いや、もとからできたよ」
結構な形相で肉薄されおろおろと後退るアディン。しかしそれは肩を掴むアンナの手が許さない。
「うわ、天才あらわるだな。アンナが出来ねぇことやっちまうんだな」
レオがニヤニヤとアンナの顔を覗きこむ。
「召喚なんて……嘘でしょ………」
狼狽する様子を、アンナは隠せなかった。
────────────────────
記念すべき第一話(あ、物語の始まりってこと)ですね。
現在のアディン君は子どもということで視点としての力は薄いです。よってギルド《蒼の双星》団長アンナさんにその役目を渡しました。
そろそろ主人公としてアディンが成長するのを待ちたいところです。
僭越ながらの初投稿、面白い!また読みたい!続きが気になる!と感じて頂けたら幸いです。
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チャプター:1
あらすじ
たった二人のみのギルド《蒼の双星》に現れた三人の子供達。その内の一人、アディン・ネルヴァの才能に団長であるアンナ・ハリスは驚愕を隠し得ない。そんな彼らと子供達は覚束ない足取りながらも関係を紡いでいく。
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    ビアルデン。
そこは周りが海に囲まれた大陸。
同じ海に繋がれた同様の大陸は複数存在するが、大海の荒れはその大陸間の交易を許さない。
故に実質島と同じだ。
そしてここビアルデン大陸には、様々な種族がその生活を築き、日々を暮らしている。
さらに、一際存在感を放つ都市がある。
国王に権力の集結した王都。
僧聖により整備された聖都。
皇帝にて統治される帝都。
将軍が支配する軍都。
議長の運営する副都。
学区を主とした提携都市シャーリア。
炭鉱と鍛冶の最先端を行く鉱都。
南西の海岸線を取り仕切る海都。
また、ここビアルデン大陸は海に浮かぶ島だというのに北と東にかけてタチキリ山と呼ばれる何人も越えることのできない山脈がある。
だがそんなタチキリ山にも抜け道はあり、軍都と小人の里へ行くための洞窟があり、ここを抜けるとそこへ辿り着くことができる。
そしてここは帝都の西部に位置するギルド。
ギルドというのは、同じ目的を持った者もしくは賛同者計五名以上によって建立する集団だ。
因みに、脱退などにより人数が五人を下回っても、その五人満了結成期間が半年を過ぎていれば解散されることなく継続して存在できる。
このギルドには門は無く、小さな扉があるだけの簡素な造りだ。
他のギルドでは外観で舐められるわけにはいかないと盛大な造りをしているところも多い。
このギルドの外見がそこまできらびやかではないのは別に貧乏な訳ではない。
見た目より性能重視を実践した結果だ。
また、このギルドの外観、内装全ては青色を基調としている。
つらつらと語ったが、私の名前はアンナ・ハリス、二十歳、この《蒼の双星》ギルドの団長である。髪と目は青色でナイスバディよ。
今日は二ヶ月に一度のギルド招待日。
様々な者達が集い、我がギルドに加入できるほどの実力が備わっているのかを判断し、その合否を決定する日である。
だが、今まではいくらポスターに「老若男女誰でも募集!」って書いてるからといって、流石に多すぎたと思う。
勿論、面倒さのあまり流してしまったことは自分の責任だ。また、それを直すことも敬遠して今に至ったのは私の怠慢。
故に言えるのは愚痴だけである。
それに、今は新しい団員を受け付けていない。だからポスターも案内所に取り外してもらっている。
新しい団員を受け付けないのは私が今の二人だけのギルドがいいと感じているからだ。
また他にも理由はあるがそれは言えない。
因みに、もう一人の団員は私と同い年のレオナルド・ラギアンという男で、かれこれ一二年という長い付き合い。
そんな彼が待つ戦闘場へと、私は向かっていた。
募集していないはずの加入希望者が三人も現れたためだ。
このギルドの方針、それは『力』と『愛情』。
私は強者の集うギルドでありたいという想いがあり、また家族のように暖かい関係を築くという狙いも込めてこの二つを方針にしている。
靴音を響かせ、光の洩れる戦闘場へと足を踏み入れた。
そして私は目を疑った。
そこにいたのは何と三人全員子供だったのだ。
「どういうこと、全員子供?」
驚きを隠せず眉をしかめてそう言った。
「まあいいじゃんか。いい経験だと思ったらさ。話ぐらい聞こうぜ」
レオの言葉に渋々頷く。
記念ということもあるかもしれない。
しかし、子供を記念と言ってギルドに行かせるのは些か無責任ではないか。もし、合格を得た場合、どういう責任をとるのだろうか。
「わかったわ…まぁどうせ無理でしょうけど。一応ね。はいそこの三人、こっちにきて」
ぶっきらぼうに告げた私は、子供らに自己紹介を促した。
「ぼくからですね。ぼくはカイト・バレイム。一一才です」
意外にも、しっかりとした受け答えが返って来た。そして、マセた餓鬼という第一印象を私は持った。
黒髪黒目の少年は、知性が少し高いようだ。
所作、言葉遣い、表情、どれを取っても遺憾無く社会で発揮できるだろう。
「わたしはジャスミン・ユグド!。九才!、よろしく!」
褐色の肌で、深緑のうねったショートボブ、そして耳がとんがっている。この特徴はエルフだ。しかし、褐色の肌というのはエルフには珍しい。私が見たのはこれが初めてだ。
というか、本当に一桁だった。あと快活な娘のようだ。
「アディン・ネルヴァ、一○歳。よろしく!、こいつはクロ、僕の家族だよ」
黒猫を連れた男の子がいった。青紫の瞳に紺の髪だ。腰に黒い刀を挿している。
その『モンスター』から感じられた魔力に一瞬目を細めた。あってはならないものを感じたのだ。だが、今は言及はしないでおこう。
「うん。わかってると思うけど、このギルドに覚悟のない半端な人は要らない、それでも入りたいって言うなら今日からの三日間、ちゃんと頑張れてたら加入するの認めてあげるわ、わかったかしら?」
すこし皮肉めいた言葉で子供たちにそう告げたが。
「わかりました」
「はーい!」
「うん!」
と反応は意外にしっかりしていた。今の返事だけでもちょっと性格でてるわね。
………、今の反応は二回目だったかしら?
「キッツいなー、お前」
「別にいいじゃないの」
「へーい」
憎たらしい表情をこちらに向けてくる彼に少し苛立ち、睨み返してやると彼はすぐに止めた。
「ねえ早速だけどあなたたちって魔法使える?」
「おい、流石に使えねーだろ」
決めつけるレオだが、使える者は使えるのだ。
私のお兄ちゃんがそうだった。
隠していたみたいで口には出さなかったけれど、多分五歳のときにはもう魔法は使えていただろう。恐らく魔力というものも理解していたはずだ。
「んー、使えるか試したこともありません」
「わたしわからなーい」
「使えないよ」
示し合わせたように順に答えていく三人。初対面だろう、なのに意外と息が合っている。
「今から確かめてあげる」
「「「え!?」」」
期待していた反応で、少し喜色を滲ませると隣がニヤニヤとこちらを覗いてきた。取り敢えず足の甲に踵を押し付けておく。
「どうやって確かめるんですか?」
「はぁー、まぁ言うとおりにしたら分かるさ」
溜息混じりにレオが言う。私の傍若無人さに呆れてでもいるのだろうか。
「まず目を閉じて、それから手を出して。そして手のひらを下にかざすの」
「こう?」
「そうそう、それで手に力を入れて。そのまま手の中にボールがあるように手を作って、そのボールの中心に手に集めた力を集めて。それを五秒したら集めた力を押しだす感じで地面に向けて放ってみて」
私自身口に出した通り動いて見せ、ね?、と催促をした。
「こうして、やっっ」
そんな私を真似、教えた通りに行動したジャスミン。突き出したその手の平に緑の魔法円が開き、ぴょこっ、小さな植物の苗が床から出てきた。
あら可愛い。ジャスミンのそんな様子を見て、私はそう思ってしまった。
「うん、あなたは緑属性の植物系の魔力ね」
魔法円が緑色、発動された魔法は植物のものだったため、簡単に判断することができた。
魔法円とは、魔法を発動する際に展開する起動装置のようなものだ。本当は詠唱というものを口にして魔力を操る必要があるが、今回のような簡易のものならば無詠唱でも魔法初心者が使えることに問題はない。
「じゃあ次はあなた、やってみて」
今度は黒髪の男の子の方を見て言った。
「わかりました。んんん、はっ」
もう一度説明しなければいけないのか、そう懸念していた私だったけれど、黒髪の男の子は要領がよかったらしい。
先の一度を見ただけで成功してみせた。
だが何故か魔法円が開かなかった。そしてその次の瞬間、壊れた人形の首のような音と共に、レオが持ってきていた大剣が震えた。
「うおぉ!?、なんだこれ!?、なんでこれ震えてんだ?」
「たぶんそれがカイトの魔力だわ。見たところ。武器だけが干渉を受けてるから武器に関するものね。聞いたことないけどもしかしたら無属性の魔力かも」
「なるほど、ありがとうございました」
私の論評を聞いたこの少年の反応はまたもマセている。ちょっと気に食わないわね。
「次はアディン、あなたで最後。やってみせてちょうだい」
「わかった」
アディンが手を出し私の言った通りにする、が何も起こる気配はない。
「あれ?、もう一回やってみて」
訝しんだ私は再度行うよう促す。
だがしかし、何も起こらない。
胸の内に宿る疑念。
彼の隣の黒猫が関係しているのか、はたまた魔力がないという希少な人種なのか、その判断はつかない。もし魔力が無い状態が常だというのなら、アディンには冒険者は向いていない。
ステイタスという冒険者の強さ、それを発現させるにはごく微量だとしても必ず魔力は必要になる。
「ごめん、もう一回やって」
もう再度やらせて見るが、やっぱり何も起こらない。
これは本格的に悩むべき案件だ。
別にこの男の子が魔力がなくて冒険者になれなくてもどうってことない。
ただ、これからの生活において相当な苦労をすることになるだろう。この世界は魔力とは絶対に縁を切れないようにできている。
……と、目の前のことが衝撃すぎて自分の能力、と言っても技能ってことなんだけど、忘れていた。
…………魔力は、ある?
魔導師である私にとって他人の魔力を図ることなど朝飯前。ていうかそれができないと魔導師を名乗れない。
「ねぇ、ぼく魔法使えないけど、これならできるよ」
はて、それなら何故?、と頭上にハテナを浮かべていたアンナだったが、アディンの言葉がこの耳に届いたと同時に目を疑うことになった。
「【来たれ火の遣いよ】」
「「「「!?」」」」
私達から少し離れた後に瞑目、詠唱、そして赤色の魔法円が出現する。
複雑ではない、しかしこれまでの人生で一度も目にしたことのない形だった。
「来て、【『レッドカーバンクル』】」
彼がそう唱えると、魔法円の中心から光が回転し、魔力を集め何物かを形成していく。
漏れでる光輝、加速する回転。
本当に生命の誕生でも垣間見ているかのような錯覚に陥っていた私は、光の収束と停滞を経て完成したソレに目を剥いた。
淡い赤の毛、深紅の瞳、ルビーと遜色ない額の宝石。
それは何処から見ても『モンスター』。
見たことはないが名を『レッドカーバンクル』と言うらしい。
「ねぇ……、あなた、どこでそれを覚えたの!?」
「アンナ、お前は落ち着け」
アンナは咄嗟に詰め寄りアディンの肩を自身の両の手で掴み上げる。レオに咎められた通り驚愕に少しの制御を失ってしまったようだ。
召喚、それは『モンスター』を呼び出す魔法。
そして私の兄にも使えなかった魔法。
「えっ?、いや、もとからできたよ」
結構な形相で肉薄されおろおろと後退るアディン。しかしそれは肩を掴むアンナの手が許さない。
「うわ、天才あらわるだな。アンナが出来ねぇことやっちまうんだな」
レオがニヤニヤとアンナの顔を覗きこむ。
「召喚なんて……嘘でしょ………」
狼狽する様子を、アンナは隠せなかった。
────────────────────
記念すべき第一話(あ、物語の始まりってこと)ですね。
現在のアディン君は子どもということで視点としての力は薄いです。よってギルド《蒼の双星》団長アンナさんにその役目を渡しました。
そろそろ主人公としてアディンが成長するのを待ちたいところです。
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