競奏のリアニメイト~異世界の果てに何を得るのか~
第8話 威厳ある烈火
明日に死を迎えるとしても、今日から幸福になって遅くないのです。
天風会の創設者 中村天風
─────────────────────
おじいさんの家に隣接する小さな倉庫。そこには日常生活で使う道具の他のに無数の剣が壁に行儀よく掛けられていた。剣術をやっていただけあって心が踊らずにはいられない。まさかこの世界の真剣をこんなにも目の当たりにできるなんて。
「すごい!!」
「ハハハ、これ全部失敗作だけどね」
俺も完璧な剣の選別眼があるとは思ってないが、それでもほとんどの剣は良質な鉱石を用いて作ってるため、ほとんどの剣が業物に近いだろう。謙遜だ。
「全部よく切れそうじゃないですか!」
「いくら切れ味や耐久性が良かったとしても意味は無いんだ。所詮、その剣達には魂が無いからね。」
「剣に魂?」
「まぁ、そんな事より一本護身用に持っているといい。」
誤魔化すように話を変えられてしまった。どうやらこれ以上聞くのはやめておいた方が良さそうだ。
それよりも……。
「え?いいんですか?」
「ここら辺は猛獣はいないが、降りてこない可能性もない訳では無いし、いざと言う時は自分で身を守れた方がいいだろう。好きなのを選ぶといい」
「は、はい……ありがとうございます」
猛獣ってことは虎やゴリラ出来た時に剣で戦えってこと?
無茶でしょ……。
これで魔法が発展する理由もよく分かった。
元の世界でも戦争では遠距離での一撃必殺がよく好まれていた。
古代なら弓矢、中世期や近現代では銃。そして現代ではミサイルや戦術核だ。
時代を追うごとに武器というものはそのように進化した。
やはりそれが簡潔で強力だ。
安全な位置から敵を攻撃出来る点においてもこれ以上のものは無いだろう。
更にそれが自分の意思で扱える魔法なら尚更だ。
でも、真剣を貰えると聞いて楽しみなのも確かだ。
扱えるかどうかは分からないが使ってみよう。
という訳で早速壁に掛けてある一番小さな剣を手に取ってみた。
これは剣というより短剣ダガーに近いだろうか。
その剣の刀身は闇色でその刀身を見ているとその中に溶け込まれそうだった。
「それは黒雲母くろうんもの短剣だね。強度が低かったから魔法のコーティングを施してある。それによって普通の剣とは違って砕け散ったりはしないから一撃で折られるということは無いよ。多少無理のある受け流しも出来る」
黒雲母は元の世界にもある鉱物だが強度が低いので剣にできるような物質ではない。だがこの世界の黒雲母は少々性質が異なるようだ。おまけに魔法でのコーティングなどによって強度もあげることが出来るらしい。
そう考えると黒雲母は流しが必要となる短剣にはピッタリな素材だろう。
だが、残念ながら俺は脇差での剣術は習ってないし、知識もない。今から覚えるのはリスキーだろう。
俺が得意なのは……。
「すみません。もっと長くて鞘から抜きやすい形をした剣ってありますか?」
「えーと、確かここら辺にあったと思ったんだけどね」
そう言うとおじいさんは奥の剣を手当り次第物色し始めた。
そして数分かけて鞘に入った一本の長剣を持ち出してきた。
だが、重いのだろうか?両手で持ちながら息を切らしながら持ってくる。
「探したのはいいが、お嬢さんには、悪い、けど……こいつは…無理だ…重すぎる…。」
そう言うとおじいさんは俺の足元に剣を落とすような勢いで置く。
おじいさんはその場でうずくまり、荒い息をととえている。
(どれどれ?)
俺は軽い気持ちで剣を持ち上げてみたが、びくともしない。
この体は確かに華奢な少女のものである程度は仕方ないと思うが、それにしたってこの剣が重すぎる。
一般的な日本刀が一・五キロぐらい。それでも梃子の原理が働くのでその数字以上に重く感じる。しかし、この剣は重量だけで軽く三キロを超えているだろう。
何を使えばこんな重い剣が出来上がるのだろうか?
否、もしかしたらアレを使えばこんな重い剣が出来るだろうが……まさかそんな事が……。
「いやはや、この世で発見された一番強度が高い金属を使って剣を作ってみたんだが、研ぐのにも苦労したが一番の難題はこれだったんだ。とにかく重い。」
強度が高い金属……?
もしかしてタングステンでも使ったのか?
それは重たいわー。
鉄の比重を七としたらタングステンの比重は十九ぐらい。
そんな重たい金属で作られても振れるわけがない。
「普通に鉄の剣でいいです」
やはり普通が一番なんだなと思った今日このごろであった。
うん、悪くは無いんですけどね。
色々と克服しなければなら無いことが多すぎてもう疲れた。
「これでいいのかな?」
三度目の正直でやっと普通の剣が出てきた。
形状は片刃で少々反りがあり、刀身の幅はそれほどまでに広くない。言うなれば日本刀に近い形状だろう。
形状的に俺の得意スタイルと合うだろう。
おじいさんから手渡しでその剣を受け取る。やはりこの体には少々重たいが振れないレベルではない。
「ちょっとすみません、離れてもらえますか?」
「あぁ、分かったよ」
「ありがとうございます」
精神統一をして剣を鞘に収める。
そしてゆっくりと鞘ごと腰だめに構える。
鞘は抜きやすい形で留めておく。
深呼吸をして息を止める。
そして、鞘から剣を凄まじい勢いで抜く。
風を切る音と鞘から抜く音が交差する。
そして、一呼吸で鞘の中に再び戻す。
その時間わずか一秒。
「これは……驚いた……。君…今のは…抜刀の型かい?私も初めて見たよ!!」
「なんか、体が覚えてるみたいで…」
「それが本当なら君はもしかしたらどこかの剣士の知り合いかもしれないね。剣士の中でも抜刀の型を使う人はかなり少ないから手がかりになるかもしれない」
すみません。本当は全て前の世界の先生から習いました……。
というか、話がややこしいなるから今の居合いは見せるべきでは無かったかもしれない。真剣を触れたからつい興奮してしまった。
しかし、やってしまったものは仕方ない。
ここは話を合わせるべきだろう。
「はい、これを手がかりに探してみます!」
「さてと、剣も決まったことだし。昼食の支度でも始めようか?」
「分かりました」
「それじゃあ、火を起こすから鍋を持ってきてくれるかい?」
そう言うとおじいさんは外へ出て木と木を擦り合わせ摩耗法で火を起こすために手頃な木を探し始めた。
この世界での生活レベルは基本的に中世代レベル。魔法があるが人によって得意種類が違うため、人々はこうして作業をする。
科学がないため、道具もあまり発展してないみたいだ。
別に俺はこの世界の科学を発展させたいとは思ってはないから元の世界の知識を披露する気持ちはないが、利便性の毒とは何とも恐ろしいかな。凄く不自由に感じる。
仕方ない。
俺はそう判断すると、小屋に無造作に置かれていた金属板を持ち出し、外で手頃な石を探し、そして割り、先端を尖らせる。
出来れば白い粒が含まれた石が好ましい。
目的のものを手に入れ小屋に戻ると、俺は暖炉の近くに置いてあった薪を一つ拝借して、さっき貰った剣で薪を削り、おが屑を暖炉の中にまんべんなく落とす。
適当に撒き終わったら、おが屑の近くで鉄板と石の先端をぶつけ合う。
カチンっと高い音を出した瞬間、火花が飛び散る。
それを何回か続けると火花がおが屑に引火し、おが屑が燃え始める。後は薪をくべれば火が起きる。
火打石の方法だ。もっと便利なやり方もあるが身近に材料が無かったため、この方法が一番効率的だった。
「これでよし」
俺は起こした火を見ながら小さく呟いた。
利便性の毒と言いつつ俺は何でこんな事をしているのだろう?
小さなため息をこぼしつつその火を見つめていたかった。
しかし、そういう訳にもいかない。おじいさんが今一生懸命に火を起こす準備をしている。
その作業を無駄にさせるわけにはいかない。
俺は外へ駆け出した。
_____________
あるところに一人の少女あり
少女の名、天に輝かん太陽の意味を持つ
その少女へ名匠、神託の聖剣を渡す
皆を照らし、希望へ導くために
嗚呼、今度こそ。次こそはと体無き龍の魂は誓う
古に守護できなかった主人の代わり
不殺の刃、少女に仇なす魔法を切り裂く
神託の聖剣歌~第一章二項抜粋~
作者 ロベルト・J・ブレーク
天風会の創設者 中村天風
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おじいさんの家に隣接する小さな倉庫。そこには日常生活で使う道具の他のに無数の剣が壁に行儀よく掛けられていた。剣術をやっていただけあって心が踊らずにはいられない。まさかこの世界の真剣をこんなにも目の当たりにできるなんて。
「すごい!!」
「ハハハ、これ全部失敗作だけどね」
俺も完璧な剣の選別眼があるとは思ってないが、それでもほとんどの剣は良質な鉱石を用いて作ってるため、ほとんどの剣が業物に近いだろう。謙遜だ。
「全部よく切れそうじゃないですか!」
「いくら切れ味や耐久性が良かったとしても意味は無いんだ。所詮、その剣達には魂が無いからね。」
「剣に魂?」
「まぁ、そんな事より一本護身用に持っているといい。」
誤魔化すように話を変えられてしまった。どうやらこれ以上聞くのはやめておいた方が良さそうだ。
それよりも……。
「え?いいんですか?」
「ここら辺は猛獣はいないが、降りてこない可能性もない訳では無いし、いざと言う時は自分で身を守れた方がいいだろう。好きなのを選ぶといい」
「は、はい……ありがとうございます」
猛獣ってことは虎やゴリラ出来た時に剣で戦えってこと?
無茶でしょ……。
これで魔法が発展する理由もよく分かった。
元の世界でも戦争では遠距離での一撃必殺がよく好まれていた。
古代なら弓矢、中世期や近現代では銃。そして現代ではミサイルや戦術核だ。
時代を追うごとに武器というものはそのように進化した。
やはりそれが簡潔で強力だ。
安全な位置から敵を攻撃出来る点においてもこれ以上のものは無いだろう。
更にそれが自分の意思で扱える魔法なら尚更だ。
でも、真剣を貰えると聞いて楽しみなのも確かだ。
扱えるかどうかは分からないが使ってみよう。
という訳で早速壁に掛けてある一番小さな剣を手に取ってみた。
これは剣というより短剣ダガーに近いだろうか。
その剣の刀身は闇色でその刀身を見ているとその中に溶け込まれそうだった。
「それは黒雲母くろうんもの短剣だね。強度が低かったから魔法のコーティングを施してある。それによって普通の剣とは違って砕け散ったりはしないから一撃で折られるということは無いよ。多少無理のある受け流しも出来る」
黒雲母は元の世界にもある鉱物だが強度が低いので剣にできるような物質ではない。だがこの世界の黒雲母は少々性質が異なるようだ。おまけに魔法でのコーティングなどによって強度もあげることが出来るらしい。
そう考えると黒雲母は流しが必要となる短剣にはピッタリな素材だろう。
だが、残念ながら俺は脇差での剣術は習ってないし、知識もない。今から覚えるのはリスキーだろう。
俺が得意なのは……。
「すみません。もっと長くて鞘から抜きやすい形をした剣ってありますか?」
「えーと、確かここら辺にあったと思ったんだけどね」
そう言うとおじいさんは奥の剣を手当り次第物色し始めた。
そして数分かけて鞘に入った一本の長剣を持ち出してきた。
だが、重いのだろうか?両手で持ちながら息を切らしながら持ってくる。
「探したのはいいが、お嬢さんには、悪い、けど……こいつは…無理だ…重すぎる…。」
そう言うとおじいさんは俺の足元に剣を落とすような勢いで置く。
おじいさんはその場でうずくまり、荒い息をととえている。
(どれどれ?)
俺は軽い気持ちで剣を持ち上げてみたが、びくともしない。
この体は確かに華奢な少女のものである程度は仕方ないと思うが、それにしたってこの剣が重すぎる。
一般的な日本刀が一・五キロぐらい。それでも梃子の原理が働くのでその数字以上に重く感じる。しかし、この剣は重量だけで軽く三キロを超えているだろう。
何を使えばこんな重い剣が出来上がるのだろうか?
否、もしかしたらアレを使えばこんな重い剣が出来るだろうが……まさかそんな事が……。
「いやはや、この世で発見された一番強度が高い金属を使って剣を作ってみたんだが、研ぐのにも苦労したが一番の難題はこれだったんだ。とにかく重い。」
強度が高い金属……?
もしかしてタングステンでも使ったのか?
それは重たいわー。
鉄の比重を七としたらタングステンの比重は十九ぐらい。
そんな重たい金属で作られても振れるわけがない。
「普通に鉄の剣でいいです」
やはり普通が一番なんだなと思った今日このごろであった。
うん、悪くは無いんですけどね。
色々と克服しなければなら無いことが多すぎてもう疲れた。
「これでいいのかな?」
三度目の正直でやっと普通の剣が出てきた。
形状は片刃で少々反りがあり、刀身の幅はそれほどまでに広くない。言うなれば日本刀に近い形状だろう。
形状的に俺の得意スタイルと合うだろう。
おじいさんから手渡しでその剣を受け取る。やはりこの体には少々重たいが振れないレベルではない。
「ちょっとすみません、離れてもらえますか?」
「あぁ、分かったよ」
「ありがとうございます」
精神統一をして剣を鞘に収める。
そしてゆっくりと鞘ごと腰だめに構える。
鞘は抜きやすい形で留めておく。
深呼吸をして息を止める。
そして、鞘から剣を凄まじい勢いで抜く。
風を切る音と鞘から抜く音が交差する。
そして、一呼吸で鞘の中に再び戻す。
その時間わずか一秒。
「これは……驚いた……。君…今のは…抜刀の型かい?私も初めて見たよ!!」
「なんか、体が覚えてるみたいで…」
「それが本当なら君はもしかしたらどこかの剣士の知り合いかもしれないね。剣士の中でも抜刀の型を使う人はかなり少ないから手がかりになるかもしれない」
すみません。本当は全て前の世界の先生から習いました……。
というか、話がややこしいなるから今の居合いは見せるべきでは無かったかもしれない。真剣を触れたからつい興奮してしまった。
しかし、やってしまったものは仕方ない。
ここは話を合わせるべきだろう。
「はい、これを手がかりに探してみます!」
「さてと、剣も決まったことだし。昼食の支度でも始めようか?」
「分かりました」
「それじゃあ、火を起こすから鍋を持ってきてくれるかい?」
そう言うとおじいさんは外へ出て木と木を擦り合わせ摩耗法で火を起こすために手頃な木を探し始めた。
この世界での生活レベルは基本的に中世代レベル。魔法があるが人によって得意種類が違うため、人々はこうして作業をする。
科学がないため、道具もあまり発展してないみたいだ。
別に俺はこの世界の科学を発展させたいとは思ってはないから元の世界の知識を披露する気持ちはないが、利便性の毒とは何とも恐ろしいかな。凄く不自由に感じる。
仕方ない。
俺はそう判断すると、小屋に無造作に置かれていた金属板を持ち出し、外で手頃な石を探し、そして割り、先端を尖らせる。
出来れば白い粒が含まれた石が好ましい。
目的のものを手に入れ小屋に戻ると、俺は暖炉の近くに置いてあった薪を一つ拝借して、さっき貰った剣で薪を削り、おが屑を暖炉の中にまんべんなく落とす。
適当に撒き終わったら、おが屑の近くで鉄板と石の先端をぶつけ合う。
カチンっと高い音を出した瞬間、火花が飛び散る。
それを何回か続けると火花がおが屑に引火し、おが屑が燃え始める。後は薪をくべれば火が起きる。
火打石の方法だ。もっと便利なやり方もあるが身近に材料が無かったため、この方法が一番効率的だった。
「これでよし」
俺は起こした火を見ながら小さく呟いた。
利便性の毒と言いつつ俺は何でこんな事をしているのだろう?
小さなため息をこぼしつつその火を見つめていたかった。
しかし、そういう訳にもいかない。おじいさんが今一生懸命に火を起こす準備をしている。
その作業を無駄にさせるわけにはいかない。
俺は外へ駆け出した。
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あるところに一人の少女あり
少女の名、天に輝かん太陽の意味を持つ
その少女へ名匠、神託の聖剣を渡す
皆を照らし、希望へ導くために
嗚呼、今度こそ。次こそはと体無き龍の魂は誓う
古に守護できなかった主人の代わり
不殺の刃、少女に仇なす魔法を切り裂く
神託の聖剣歌~第一章二項抜粋~
作者 ロベルト・J・ブレーク
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