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落ちこぼれの冒険者だけど、地上最強の生き物と共に最強を目指すことになりました。

矢代大介

第8話 目指すは「最強」


「……さて、そうと決まればまずは当面の目的を決めないと、だけど」

 一人と一匹が奇妙な縁からコンビを組むことになってから、まもなくして。
 しばらく固い握手を交わしていたトーヤが手を話すと、不意に少女に向けてそう切り出した。

「?」
「仲間になったからには、キミのこともちゃんと名前で呼びたいな。良ければ、教えてくれないか?」

 首をかしげる少女に向けて、トーヤはそう告げる。そこで初めて、少女は自分がトーヤに向けて名乗っていないことを思い出したらしい。あぁ、と手を打ちそうな表情をしたかと思うと、一つ小さく頷くようなそぶりを見せてから、改めて口を開いた。

「……私は「アスセナ」。トーヤの好きに呼んでほしい」
「アスセナ、か。……そうだな。じゃあ、セナって呼ばせてもらおうかな?」
「ん、大丈夫。宜しく、トーヤ」
「こちらこそ」

 お互いの名前を知り、トーヤと少女、ことアスセナは改めて小さく頭を下げる。顔を上げたトーヤはさっそく、一呼吸おいてから本題を切り出した。

「……で、だ。俺たちの目的は平たく言えば「強くなる」ことだけど、具体的な方法は決まってないんだよな。だから今のうちに、これからの身の振り方を考えておこうと思うんだ」
「ん、賛成。……でも、私、人間の世界のことは、全然知らない」
「まぁ、俺もちょっと経験が長いだけで似たようなものだけどな。けど、冒険者として上を目指す人間なら、誰でも知ってる言葉があるんだ」

 言葉? と首をかしげるアスセナを見て、少しばかり自慢げな表情のまま、トーヤは言葉を続ける。

「「冒険者たるもの、「聖なるほこら」を巡りて、腕を磨くべし」。……聖なるほこらっていうのは、この世界の各地に点在するダンジョンの通称で、そこを突破した人間には「証」が与えられるらしい。……んで、その証を全て集めることができれば、その冒険者は晴れて「最強の冒険者」の称号を拝命できる、ってわけだ」

 親からの受け売りだけどな、という一言は、すんでのところでトーヤの口から出ることは無かった。

「聖なる……神聖な場所?」
「さぁな。あくまで俺たち人間がそう呼んでるだけで、本当はそうでもないのかもしれないけど……ま、人間にとっては強くなるのにうってつけの場所だってことは間違いないかな」

 トーヤの説明を受けて、アスセナは納得の表情で頷く。
 もっとも、トーヤ自身もその仔細を知っているわけではない。旅の中で生まれた子だったトーヤは、各地に散らばるほこらの噂を聞くことはあれ弩、実際に寄ることは無かった。なので、ほこらに関する知識も両親から教え込まれたものと、そこを目指すために自らかき集めたものを合わせた、中途半端なものしか持ち得ていないのである。

「元々、俺はそのほこらに挑んでみようと考えてたんだ。で、そのための資金をかき集めたり、一緒に挑むことができる仲間を探して、冒険者のパーティに入ってたんだ。……ま、結果は御覧のありさまだけどな」
「ん、納得。……なら、目的はそこになる?」
「だな。問題は、そのほこらの所在地がよくわかってないところなんだけど……」

 自嘲気味に苦笑をもらすが、トーヤにも当てがないわけではない。冒険者組合の資料室に保管されている蔵書を調べてみれば、大まかな所在程度はわかるだろうと踏んでいるのだ。

「ま、その辺はどうとでもなる。……ともかく、俺が考える限り、強くなるにはこの方法――聖なるほこらを巡るのが一番だ。特に他の意見がないなら、まずはそれを目標にしようと思ってるんだけど……どうだ?」

 自分なりの結論を出して、トーヤが問いかける。アスセナは少し考えるそぶりをみせた後、小さく頷いて見せた。

「ん、賛成。強くなれるなら、何処にだって行きたい」
「よし、決まりだな」

 少女の同意を経て、二人の行き先は確定する。意見が一致したことを内心で喜ぶトーヤだったが、直後にはすぐに眉根を寄せ、小さくため息をついた。

「……あとは、どうやってこの森を抜けだすかだなぁ」

 目下の問題として、トーヤは遭難中なのである。今のこの場所はまだ気配も感じないが、いつまたパニッシュ・レオーネのような強大な敵に遭遇するかもわからない以上、うかつに動けないということもあり、手詰まりなのが現状だった。

「……私、飛べる。竜に戻って、トーヤを背中に乗せればいい」

 どうしたものかと頭を抱えたその直後、思わぬところから光明がもたらされる。そう、目の前の少女はただの人間ではなく、真っ白な体躯を持つ巨大な竜なのだ。

「そうか! ……でもセナ、大丈夫なのか?」
「平気。ただ、人を乗せるなんてやったことないから、トーヤの安全は保障できない」
「大丈夫だよ。どの道それ以外にこの森を抜ける手はないんだ、死んでも食らいついてやるさ」

 危険かもしれないが、今のトーヤにとっては唯一の脱出手段。多少危険だろうと、頼れるならば、トーヤはそれに賭けたかった。

「……死んだら、強くなれない」
「……セナ、比喩表現って知らないのか」
「なに、それ? とにかく、死んじゃダメ」
「あぁ……うん、わかったよ」

 ともかく、今のトーヤに課された命題は、目の前であらぬ勘違いをする竜の少女の誤解を解くことだった。


***



「――よし。じゃあセナ、頼んでもいいか?」

 空に浮かぶ月が遠景の奥へと沈み、まばゆい朝日が顔を出した頃。
 アスセナの傷がある程度まで癒えるのを待つため、静かな森の中で一夜を明かしたトーヤ達は、木々の合間を縫って差し込む、暖かな陽光につられるように目を覚ました。
 食べる物も飲む物もない状況であるため、完調には程遠いのが実状だが、必要なものを確保するにはまず森を抜けなければならない。そのため、少々心苦しいながらも、アスセナには朝から頑張ってもらう必要があった。

「ん、任せて」

 トーヤから借り受けていた外套を脱ぎ捨て、再び裸身になった状態で頷いたアスセナの身体が、昨夜とは違う淡い光に包まれる。目視でも身体の輪郭がうすらと透ける光景を、微妙に目をそらしながら見つめるトーヤの前で、光を纏った少女のシルエットは徐々に大きくなり、竜のそれへと変化していった。

「――サァ、乗ッテ」

 光が弾け、再び白い巨竜がトーヤの前に姿を現す。思念を通じ、トーヤと会話を交わす白竜の風貌は、一見すれば昨夜の邂逅時と変わらないように見えたが、全身に受けていた傷はあらかた癒え、大きな傷もほぼ塞がっていた。

「……すごいな。もうほとんど傷が治ってる」
「トーヤノ、オ陰。竜ノ生命力ハ高イケド、限界モアルカラ」
「そっか、役に立てて良かったよ。……んじゃ、失礼して、っと」

 自分の半端な魔法が役に立ったことを喜びながら、トーヤはアスセナの身体に手をかけ、その背によじ登る。先ほどの少女とこの白竜が同じ人物であることを思うと、どうにも落ち着かない気分になったが、騎乗自体は何事もなくこなすことができた。

「よっと……この辺で大丈夫か?」
「大丈夫。……ナルベクユックリ飛ブケド、危ナイカラ、ドコカニ掴マッテイテ」
「あぁ」

 促されるまま、トーヤはアスセナの背を覆う甲殻の一部――棘のように伸びた部分を、しっかりと握りしめる。まるで掴むために在るような場所だな、と思ったその矢先、アスセナがぐっと身体をたわめて、飛翔の体勢に入って。

「――飛ブ!!」

 直後、白い巨竜は一条の流星となって、瞬きの間に森を突き抜けた。





「うっ……おぉ…………ッ!」

 意識を刈り取られそうなすさまじい重圧を、トーヤはアスセナの身体にしがみつきながら耐える。吹き付ける暴風に浮き上がりそうな身体を、甲殻の棘を握りしめる両の手と、あちらこちらのでっぱりにひっかけて耐える足で、ひたすらやり過ごす。

 そうしてしばらく、風圧の暴力に耐え続けていたトーヤだったが、不意にふわりと軽くなるような感覚を覚えた。
 上昇が終わったのだろう。それを察知して、半ばだきつくような格好だった身体を起こし、顔を上げたトーヤの視界には。


「お、おぉぉ…………!!」

 人の身で見ることは叶わないような、すさまじい光景が広がっていた。
 手を伸ばせば掴めそうな場所に、雲が浮かんでいる。地上から見るよりもはるかに青さを増した天蓋は、遠く広がる地と海のかなたを貫いて、何処までも広がっていた。
 見下ろせば、そこには色とりどりの景観をちりばめた、広大な大地。直下に広がるコルシャの森をはじめとして、数日前までトーヤが滞在していた町も、元々目指していたアゼットの町も、遥か向こうにそびえる白亜の王城も、天を突くようにそびえる巨塔も、その全てを一望することができた。
 紙に書いた地図を、本物の世界に置き換えたような、そんな一大パノラマ。それが、トーヤの目の前に広がっていた。

「……トーヤ?」

 少し心配そうなアスセナの念話にも反応できないまま、トーヤはただただ圧倒される。雄大な大自然が織りなす絶景は、この世のものとは思えない美しさを、トーヤの網膜に焼き付けていた。

「トーヤ!」
「っは!?」

 しばし、絶景に食い入っていたトーヤだったが、硬度を保つための羽ばたきの音と、ひと際強く届いた念話で、不意に我に返る。どうやら、昇りきってからしばらくの間、絶景に魅了されていたらしい。

「……大丈夫?」
「あ、あぁごめん。大丈夫だよセナ。……この光景が凄すぎて、ちょっと言葉を失ってた」

 先ほどまで晒していた魂の抜けたような己の姿を思い返して、トーヤは恥ずかしそうに頬を掻く。そんなトーヤの内心を知ってか知らずか、アスセナは竜の首を小さく縦に振った。

「ウン。空カラノ景色ハ、私モ大好キ。地上ノ自然ト空ハ、イツ見テモ、何ヨリモ綺麗」
「あぁ、本当に綺麗だ。……こんな光景が何度も見られるなんて、ドラゴンは羨ましいな」

 万感の思いを込めて、一人と一匹はしばしその場で世界を眺める。そのまましばらく白竜は滞空していたが、不意に首をたわめて背中に跨るトーヤを見た。

「トコロデ……ドッチニ行ケバイイノ?」
「あぁ、そうだった。ちょっと待ってくれよ……」

 問われ、トーヤは少し身を乗り出して眼下を見下ろす。
 コルシャの森にほど近い町はいくつかあり、そのうちの一つはトーヤ達が滞在していた町、もう一つはゼルトたちが行ったアゼットの町だ。

「ああ言った手前どうかと思うけど、正直ゼルトさんたちには会いたくないしなぁ。かといって、前までの町にノコノコ戻るのも気が引けるし……」

 しばし唸ったトーヤは、別方向に存在する町を指さす。先の二つの町よりも気持ち規模の大きなそこは、知己に合いたくない彼にとってはうってつけな場所だった。

「あっちだ。この下の森から少し行ったところに、ちょっと大きな町がある。近くにある大きな湖が目印になるはずだ」
「ワカッタ。動クカラ、掴マッテ」

 トーヤの示す方角を向いて、白竜はゆっくりと、しかし人の身や人の操る技術では比肩することすら難しいほどの速度で、風を切りながら空を飛び始める。
 眼下の景色が流れるように過ぎ去っていくのを見つめながら、トーヤは風と共に目指す先を見つめていた。

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