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落ちこぼれの冒険者だけど、地上最強の生き物と共に最強を目指すことになりました。

矢代大介

第7話 少年と白竜




「――とまぁ。そう言うわけで、俺はこうして君と出会うことになったわけだ」

 目の前に座る白髪の少女と出会った経緯を話し終えて、トーヤは一息つく。長々と動かしたせいで水分を欲する口に、持ち合わせた水筒の水を少しだけ流し込んでから、トーヤは少女の方を見やった。

「……その人たち、酷い」

 当の少女は、無表情を崩さないまま、声音だけで憤っている。怒りの矛先は、どうやらトーヤの話の中に出てきたゼルトらに向いているらしい。

「まぁ……正直なところ、本当に役立たずだった俺にも問題があったんだけどな」
「それでも、酷い。自分たちが助かるためだけに、仲間の命を犠牲にするなんて」

 口ではゼルトたちを擁護しつつも、トーヤの内心は少女の言葉を強く首肯している。自分のために誰かを犠牲にするなど、トーヤにとっては考え難い行動だった。

「……ねぇ、トーヤはその人たちが憎い?」

 少女の疑問の言葉に、しかしトーヤはすぐに肯定せず、眉根を寄せて頭を掻く。

「そりゃまあ、許せないとは思うよ。……でも、憎いとはちょっと違うかな」

 確かに、自分を見殺しにするどころか魔物のエサに仕立て上げようとしたことは許しがたい。しかし、彼らが採った行動は紛れもなく生きるためであり、その点においては理解できずとも、共感することはできるのだ。
 それに、期間は短くとも彼らは共に戦った仲間でもある。それゆえに、裏切られた事実こそあれど、トーヤとしてはどうにも、彼らに対して憤りこそ感じれど、憎悪の感情を抱くまではいかないのが、本当のところだった。

「……ま。どっちにしろ、あの人たちと組むようなことはもうないだろうし。今となっては、どうでもいいかな」
「そう。なら、いい」

 トーヤの出した結論に、少女も納得したらしい。それきりその話題に対する興味は失せたのか、小さな膝を抱えなおして、ぱちぱちと爆ぜるたき火を見つめていた。

「……ところでさ。君はどうして、こんなところで倒れてたんだ?」

 しばらくその小さな姿を見つめていたトーヤだったが、不意に疑問が口をついて出る。問われた少女は、まさか自分に対する質問が飛んでくるとは思わなかったのか、無表情なりに金色の瞳を丸くしていた。

「……私?」
「あぁ。ドラゴンがこんな森に来るなんて、普通じゃないからさ。こんなところで知り合った仲なんだ。君が差し支えなければ、教えてほしいな」

 彼女が負っていた傷や、倒れ込んでいた時のうわごとから察するに、向こうにも並々ならぬ事情があるのだろう。そう考えて、努めて明るく切り出すが、少女の面持ちは見る間に暗い物に変わっていった。

「……あー。聞いといてあれだけど、話したくないなら――」
「ううん、大丈夫。……むしろ、もしかしたらトーヤなら、わかってくれるかもしれない」

 慌てて弁明するトーヤの言葉を遮り、少女は小さく首を横に振る。その顔には、その可憐な容貌に似つかわしくない、重い影が落ちていた。

「――私は、群れから追い出された。この身体が、原因で」

 そうして語られたのは、ある意味ではトーヤ以上に理不尽な、過去だった。


***


 彼女はもともと、この世界の片隅に存在する、ドラゴンたちの住まう里で生まれた。
 竜にはいくつかの種族が存在し、種族ごとに体表の色が違うのが特徴らしい。だが、通常ならば赤や青、黒などの色に染まるはずの彼女の体表は、何色にも染まらない「白」のままだったのだ。
 いわゆる特異個体として生まれた彼女を、竜の一族はひとまず受け入れた。もしかすると、自分たちにも何か変革の時が訪れたのではないかと、そう考えたのである。
 しかし、白竜が生まれ落ちてから数年のうちに、里は過去に類を見ないほどの災禍に見舞われた。森を枯らす風に吹かれ、竜さえも死に至る疫病が里を覆い――そうして、数多くの災いを経た竜の一族は、彼女に「忌み児」の烙印を押した。

「今はまだ、自分たちの里に被害が生まれるにとどまっている。しかしこのまま彼女を外に出せば、この世界そのものに何かしらの厄災をもたらすのではないか」

 そう考えて、竜たちはこの存在を表に出さぬよう、知ある者の手がつかない辺境に軟禁されたのである。

 幼いころから狭い世界しか知らなかった彼女は、その窮屈な世界でも特に不満を感じなかった。不便でこそあったが、元より竜は永き時を生きる存在。それ故、長い長い時間を、彼女は幽閉されたまま過ごしていた。

 しかし、幽閉されてから永い時を経たある時――トーヤとの出会いから数日ほど前の、ある日。
 突然姿を現した竜の仲間たちから告げられたのは、彼女という存在を葬るという、無慈悲な宣告だった。

「今はまだひとときの平穏を享受できているが、このまま放り置けば、いつまた災禍が竜に牙を向くか分からない。――ゆえに私たちは、災いの大元を絶つことを決めた」

 仲間としてのぬくもりをかけらも感じない、刺すように冷たい瞳で告げられた、そんな竜たちの総意を聞いたのを最後に、白竜は竜たちに、激しい攻撃を受ける。しかし、必死の抵抗の甲斐あってどうにか活路を見出した彼女は、死に物狂いで仲間だった者たちを振り切り、がむしゃらに逃げてきたのだ。
 そして、脱出前に受けてきた致命に近い傷が原因で墜落し、息絶えるのを待つのみとなったところで――彼女は、トーヤに出会ったのである。


***


「……そう、だったのか」

 語り終えた少女から、彼女の重い経験から顔をそらしながら、トーヤは小さく呟く。その態度も当然だと言わんばかりに、相も変わらず無表情な少女は淡々と続けた。

「私は、ただ生きたいだけ。誰にも邪魔されず、迷惑をかけず、静かに暮らしながら生きていられれば、それでよかった。……そう望むのは、悪いこと?」

 しかし、うつむき加減で語る彼女の口ぶりは、表情なしでもはっきりとわかるほど重い。心の底からの本心であろう、願いを言葉にした疑問を聞いたトーヤは、即座に彼女の疑問を否定した。

「そんなわけない。キミがどんな種族で、どういう形で生まれてきたのだとしても、誰かがそれを邪魔していい権利なんてない。……だから、君が生きていたいって思うのは、絶対に悪いことなんかじゃないよ」

 力強い否定を以て、トーヤは少女の願いを全力で肯定する。きっとそれが、彼女の望んだ答えなのだろうという確信を持った言葉は果たして、少女の心にも届いたようだった。

「……ありがとう、トーヤ。そう言ってくれるヒトは、あなたが初めて」

 だからこそ、少女は微笑む。少し硬い表情筋で、それでも精一杯に作った笑顔で、少女は少年に感謝の言葉を告げた。

「……トーヤ」
「ん、何?」

 そして間をおかずに、少女がトーヤの名を呼ぶ。決意に満ちたその表情からは、先ほどまでかかっていた影が、すっかりと消えていた。

「私、強くなりたい。私が生きることを望まない存在から、自分を守るための、力が欲しい。……だけど、私は竜。普通に力を求めても、採れる手段はとても少ない」

 少女の言う通り、ドラゴンは生物の中でもトップクラスに強い存在であり、そもそも強くなる意味もない。それでもなお力を求めるとなると、できることは同じ竜を倒すくらいしかなくなってしまうのだ。
 しかし、少女の敵として想定されるのは、仲間だったドラゴンたち。竜を打ち払うために竜を倒すというのは、いささか本末転倒と言えるだろう。

「でも、人間として戦えば、採れる手段は沢山ある」
「と、いうと?」
「人の姿でいる間は、竜が備える力の大半が使えなくなる。人の技や戦術、知恵を身に着けることができれば、同じ竜を相手にしても、きっと打ち勝つことができる」

 ……要するに、人間が全身に重りをつけてトレーニングをするようなものなんだろう、と、トーヤは敵と2あたりを付けると、少女は我が意を得たりと言いたげな雰囲気のまま、続きを口にした。

「だけど、私は人の姿や戦いに慣れてないし、人の世界も知らない。――だから、トーヤ。私に、人としての戦い方を、教えてほしい」

 そう言って、少女は小さく頭を下げる。
 地上最強の生き物であるドラゴンからお願い事をされる……という、なんとも奇妙なシチュエーションが目の前で展開されていることに当惑しつつも、トーヤはしばらくの間を置いて、ふっと笑った。

「……なんていうか、奇遇だな」
「え?」
「実はな、俺も強くなりたいんだ。理由はまぁ、キミとは違うんだけど」

 そう言って、トーヤは自らの胸に抱える夢を少女に語って聞かせる。ひとしきりの理由を語り終えると、少女は静かに金色の瞳を輝かせた。

「最強の、冒険者。……良い!」
「だろ? ……でも、さっきも語った通り、俺は半端な落ちこぼれ。正直、最強の冒険者なんて夢のまた夢だったりするんだよ」

 自嘲気味に笑うトーヤだったが、直後に浮かべたのは会心の笑み。

「だけど、一人で無理なら二人で挑めばいいんだ。俺だけじゃ無理だとしても、キミと一緒ならなることができるかもしれないって、俺はそう思うんだ」

 何かを確信したような表情で、トーヤは少女に向けて手を伸ばす。
 ――実のところ、少女の実力は全くの未知数であることは否定できない。トーヤを軽くしのぐ天才である可能性もあれば、トーヤがマシに見えるレベルの落ちこぼれという可能性もあるのだ。
 本来ならば、トーヤの行動はひどく非合理的なのだろう。しかしそれでも、トーヤは自分の直感を信じて、目の前の少女に向けて、ひたすらに手を伸ばした。

「――似た者同士、ここで出会ったのも何かの縁だ。君さえ良ければ、一緒に目指してみないか?」

 その理由はただ一つ。トーヤと少女が、少しだけ近しくて、共感できる存在だからに、他ならなかった。
 かたや、仲間だと思っていた人々に追放されて死にかけた、はぐれ者の少年。
 かたや、同胞達から忌み児として追放されて殺されかけた、はぐれ者の少女。
 俯瞰してみればさほど近しいわけでもないが、「はぐれ者」というただ一点において共通点を持つ二人は、まるで運命に導かれたかのようにして、邂逅したのだ。
 もしもこれが、本当に運命だというのならば。トーヤが少女を誘うのは、そう言った期待もあるのだ。

「……うん、良い! トーヤは最強になりたい。私は強くなりたい。……目的は、同じ!」

 そんな彼の期待に答えて、可憐な白竜は不敵に笑んで、頷く。

「強く、なろう。ふたりで、一緒に」
「あぁ。俺とキミで、一緒に最強になるんだ!」

 そしてこの瞬間、交わることのないはずだった人とドラゴンの路が、奇妙な縁で交わることとなった。

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