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落ちこぼれの冒険者だけど、地上最強の生き物と共に最強を目指すことになりました。

矢代大介

第1話 始まり



「うおぉぉぉッ!!」

 頭上にいっぱいの蒼を抱え、眼下に無限とも思える緑を敷き詰めた、広い世界のその片隅。遠景に小さな町や森、山々を臨むことができる広い草原で、一人の少年――トーヤが、裂帛の雄叫びを上げた。
 彼の手に握られているのは、一振りの剣。無駄な装飾の一切を持たない、質実剛健という言葉が良く似合うシックな片手長剣が、トーヤの意思に追随し、幾重かの鋼色の軌跡を生み出した。

「ギィッ!!」

 生み出された斬撃は、トーヤと相対していた影――鳥と竜を掛け合わせたような体躯を持つ肉食生物「グラスラプトル」めがけて撃ちこまれる。二度、三度と振るわれたそれは、俊敏に動きまわるグラスラプトルの脚を捉え、その機動力を殺すことに成功した。しかし、俊敏に動くグラスラプトルを相手に、その攻撃が有効打となることはなかった。

「ギギィーーッ!」
「よしっ――」

 その場に倒れ込んだグラスラプトルにとどめを刺すべく、首を狙いすました一撃を放とうとしたトーヤだったが、その動きは突如横から飛来した暴風に制止された。

「オ、ラァッ!!」

 暴風と見紛うほどに強烈な、鋼色の軌跡を帯びた一撃。それはトーヤの繰り出した剣技とは比べ物にならないほどの速さと鋭さを以て、今まさにトーヤが討ち取ろうとしたグラスラプトルの体躯を、瞬きの間に切り裂いた。

「ハ、ざまぁねえな。グラスラプトル相手に何手こずってやがる」
「な……今のは明らかに横取りでしょう!」
「あぁん? ちんたらやってる方が悪いんだろうがよ」
「くっ……」

 横合いからグラスラプトルを討伐したのは、トーヤよりも二回りほど大きな背と、隆々とした体躯を革製の鎧に身を包む、大柄な男。横柄そうな雰囲気を隠そうともしないその顔を、侮蔑と嘲笑にゆがめて詰め寄ってくる男の言葉を受け、トーヤは憤慨した。

「ギャウァッ!」

 しかしその直後、今こそ好機と言わんばかりの雄叫びを上げたグラスラプトルが、猛烈な勢いでトーヤと男めがけて突っ込んでくる。鳥のくちばしによく似たあぎとが大きく開かれ、不揃いな鋭い牙をむき出しにするグラスラプトルの様相を見て、トーヤは慌てて剣を持っていない左側の手をかざした。

「っ――召炎魔法アータル!!」

 少年が叫ぶと同時に、かざされた左手の先で赤い燐光が集束する。渦を巻くように集まった燐光は、次の瞬間には小さな火種に変化。見る間に大きさを増し、拳ほどの大きさの炎の塊となったところで、ドシュウ! という音を立てて撃ち出された。

「ギギッ!?」

 飛翔する炎の弾丸は、回避を試みて身をひねったグラスラプトルの横っ腹に着弾。炸裂音を打ち鳴らして、グラスラプトルの身体を吹き飛ばす。
 黒煙を吹きあげながら草原を転がったグラスラプトルだったが、どうにか体勢を立て直して立ち上がったかと思うと、その瞳に憤怒を浮かべ、トーヤめがけて猛ダッシュを敢行してきた。

「くそっ――!」
氷槍魔法メル・フェリル!!」

 迫る攻撃を捌くため、トーヤが剣を構え直したその直後、背後から声が響く。同時に、地を走るように飛来した煌びやかな水晶体――陽光を反射する氷が、突撃してくるグラスラプトルを真下から貫き、串刺しにして絶命させた。

「ダメよ、トーヤくん。魔法を使う時は一撃必殺。出なければ大きな隙をさらすことになるって、何度言ったらわかるのかしら」
「そ……そんなこと言われたって、俺の魔法は牽制用なんです。一撃必殺なんて、そんなこと――」
「あら、先輩の言うことが聞けないのかしら。そんな小手先の攻撃にしか使えないなら、魔法を使うの、やめた方が良いわよ」
「っ……」

 ふぅとため息をつき、あきれた様子を見せるのは、魔術師の証である法衣を身に纏い、魔術行使の補助を担う杖を携える、女性。穏やかそうな外見やその語勢とは裏腹に、吐いた言葉は侮蔑に研ぎ澄まされており、トーヤの反論もまるで聞き入れられることは無かった。

「こら、二人とも。トーヤは弱いんだから、もっと優しく接しないと」

 そんなトーヤを囲う男と女性に向けて、もう一つの声がかかる。三人が振り返ると、そこには身の丈を凌駕する大きさの槍を――三匹ほどのグラスラプトルを纏めて串刺しにしたままの槍を担いだ、青年が立っていた。

「ゼルトさん……」
「でも、トーヤももうちょっと頑張ってほしいな。今はまだ構わないけど、君ももう冒険者になって一年は立つんだろう? そのうち僕らはもっと上を目指すことになるんだ。その時までに、もっと腕を磨いてほしいな」
「……わかり、ました」

 トーヤにゼルトと呼ばれた青年は、さわやかな笑みを浮かべながらやんわりとトーヤを叱責する。その、強くとがめるでもなく、フォローするでもない微妙な言葉に対して、トーヤは複雑な思いを抱く。だが、これ以上の諍いを避けるためには、当たり障りのない返事だけしかできなかった。

「よし、じゃあグラスラプトル駆除のノルマは終わったし、魔石の回収と素材の剥ぎ取りをしようか」

 その場でぱんと手を打ったゼルトの言葉に頷いて、トーヤを含む三人はその場に転がしておいたグラスラプトルへと向かっていった。


***


「……はい、確認が終わりました。依頼達成お疲れ様です。こちらが報酬になります、お受け取りください」
「ありがとうございます」

 トーヤ達のような「冒険者」を生業とする者たちが集まる、冒険者組合の拠点であるギルド。その受付で、トーヤは小さく礼をしながら差し出された袋を受け取る。中に詰められた貨幣の少なくない重みを手で感じながら、トーヤは足早に集会所の一角に陣取るパーティメンバーたちのところへと戻っていった。

「よし。それじゃ、ささっと分けちゃおう」

 そう言って、ゼルトがてきぱきと中に入っていた貨幣を数え始める。しばらくすると、四人の目前にはそれぞれの硬貨の山が出来ていた。

「今回、二人は頑張ってくれたからね。僕の分を少し上乗せしておくよ」
「あら、ありがとう。それを言うなら、ゼルトもヴェルグも頑張ってたじゃない」
「あのぐらい当然だろうが。……それに比べて、お前のあの不甲斐ない戦いは何だ?」

 和やかな雰囲気の中でやり取りする三人だったが、ふとヴェルグと呼ばれた男に射竦められて、トーヤは思わず気まずそうに目をそらす。

「剣も魔法も使えるって聞いたから、私たちに出来ない遊撃をしてもらおうと思っていたのに……今の貴方じゃ、とても任せられないわね」
「どっちも二流、しかも本人はクソ生意気なガキと来た。今すぐつまみ出したいぐらいだぜ」
「ぐ……」

 レナと呼ばれた女性と、それに追従したヴェルグの口撃に、しかしトーヤは反論できない。

 ――実際、彼らの言っていることは紛れもない事実なのだ。トーヤには剣と魔法を同時に扱える才覚があるが、その伸びしろは低い。加えて、実戦経験の少ないトーヤにはそれらを十全に扱える力もないため、現状トーヤは彼らのパーティにおける「お荷物」状態なのだ。

「そのくせ、将来の夢はいっちょ前に「最高ランクの冒険者」だぁ? はっ、寝言は寝てから言いやがれってんだ」
「こんな馬鹿な発想をするようになってしまうなんて……親御さんたちが見たらどう思うか」

 そのことを理解し、事実として受け止めようと唇を噛むトーヤだったが、二人が続けて放った言葉に、ピクリと肩を震わせる。

「……どう思う? そんなの決まってるだろ」
「あ?」
「「頑張れ」って、笑って背中を押してくれるさ。だって俺の夢は、父さんや母さんから受け継いだものなんだからな!」

 がたりと椅子を蹴飛ばしながら、トーヤは猛烈な勢いで二人に食って掛かる。その瞳には、両親から受け継いだ夢を侮辱されたことに対する、溢れんばかりの怒りが燃えていた。

「確かに俺は弱いさ、自分でもわかってる! だけど、それで夢を見るななんて言われたくないし、俺の父さんと母さんを馬鹿にする資格なんて誰にもない! 俺の夢を、父さんたちが託してくれた夢を、アンタたちに否定される筋合いはない!!」

 悔しさと怒りが綯い交ぜになった複雑な面持ちのままで、トーヤは怒りに吼える。しかし、詳しい事情を知らない他の3人には、怒るトーヤの姿が「癇癪を起こした子供」にしか見えていないのが実状だった。

「……はいはい、そこまで。トーヤ、悪いけどこれ以上面倒ごとを起こさないでくれるかな」
「けど、ゼルトさんッ!」

 非常に居心地の悪い雰囲気が漂う中で、ゼルトが手を叩いて場を仕切り直そうとする。その言葉が、まるで嘲る二人のことをかばい立てるような発言だったように感じて、トーヤはゼルトに食って掛かった。

「君の事情は知らないけど、大切な人をけなされて怒る気持ちは分かるよ。後で二人に軽率なことを言わないように言い含めておくから、今はそれで納得してくれ。……それでも騒ぐのなら、僕も相応の手段を取らせてもらうよ」
「ッ…………は、い。すみませんでした」

 至極静かな調子のゼルトにそう言い含められたことで、トーヤもまた幾分か冷静さを取り戻す。ばつの悪そうな顔で椅子に沈むトーヤを見て、ゼルトは満足げな表情を浮かべた。

「……ごほん。取り合えず、今日の依頼はここまでだけど、実はもう次の依頼に関しても見繕ってあるんだ」

 咳ばらいを一つ挟んだゼルトが、懐から丸めた紙を一枚取り出し、テーブルの上に広げる。依頼内容を綴ったその紙には、大きな文字で「護衛依頼」と書かれていた。

「依頼者は商業組合の商人さん。この町から北にあるアゼットの街に行きたいらしくて、腕のある冒険者を護衛に着けたいんだってさ」
「ほぉ。ってことは、俺たちはそのお眼鏡にかなってるってことか」
「そう考えて間違いないと思うよ。ギルドから斡旋されている正式な依頼であることも考えれば、僕らのことを評価してくれているのかもね」
「有り難いわね。なら、その期待に応えてしっかりこなさないと」
「もちろん。僕らの実力なら、達成するのは難しくないはずだ。気合入れて行こう!」

 おう! と掛け声を合わせて、ゼルトたち3人が威勢よく意気込む。
 先ほどのこととこれまでのこともあり、輪に混ざりにくいトーヤは、その様子を少し遠巻きに見つめていた。

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