「神に選ばれ、神になる」そんな俺のものがたり
第十三話 化け物
長谷川先生は今は二段ベットの下でぐっすりと寝かせている。周りには俺と永本、ゴブリンの他に、先程の喧嘩元となった男子生徒たち、山寺先生、二組担任の速水先生がいた。
みな最初は二段ベットがあるということに驚いていたが、そこまで不審がられず男子生徒たちと俺たちからの事情聴取となった。
「じゃあ次に清水君と永本君。さっき宮下君たち(その男子生徒のリーダーで五組である。)の言ってたことに間違いはないのかな?」
「はい。僕が見たこととすれば、宮下君たちのチームが女子生徒の人達に食料のことで口論していたこと、それを聞いた俺たちと先生はその場に向かい、長谷川先生が怒ると逆上されたこと、そして最後に先生たちも見たとおりの状況となっていました。」
「そうか。……やはりそのようなことになるのだとしたら、明日からは自由行動を禁止して取った食べ物は先生たちが管理して平等に分け与えるしかないということか?」
まぁそれが一番いいのかもしれない。だけどみんなはそれを『はいそうですか』とは受け入れてはくれまい。
『なぜそうするのか』という声は上がるだろう。
既に我慢の限界が頂点に達しようとしている生徒達をまとめて管理してしまって良いものだろうか。
もし『宮下のせいでこんな風に』などという声が上がったらそれこそ宮下君たちはここでは生きられなくなる。
『自業自得だ』と言ってしまえばそれまでだが、果たしてこれが最善なのか。まとめてしまえば、長谷川先生が言ってた通り、『みんなの関係を悪くさせる』につながってしまうのではないのか。
俺はそう考えこの場である提案をした。
「ちょっといいですか!?」
俺の言葉に全員の目がこちらに向く。永本だけは俺の考えが分かっているかのように、ずっと見ていたが。
「なんだい?清水君?」
「はい。……先生たちはここにずっと留まっているというおつもりでしょうか?」
その言葉に先生たちは一気に顔が曇り出す。逆にその質問に生徒たちは一気に先生たちに視線が向く。
しばらく先生たちで顔を見合わせ、三組担任の山寺先生が口を開く。
「いや。……ここにずっと留まるつもりはない。早く人がいる場所を探して、そこで一旦情報を集めるつもりだ。遅くても一ヶ月……で行きたいところだが。」
その答えが返ってきたとき、男子生徒たちはいい表情もせず悪い表情もしなかった。ただなんとなく『俺たちなら』という表情が見えた。
それは無視する。
「山寺先生。本当に一ヶ月で村や町に行くことができると思いますか?」
その言葉に先生たちはビクッとなり、また視線を落とす。そして最後に俺は言い放った。
「絶対に無理です。」
その言葉に先生たちはいきなり顔を上げて、怒鳴ってくる。
「俺は!安心させてあげられるように言ってやってんだろ!?そのぐらい察しろよ!!お前行ったことあんのか?壁の外出たことあんのかよ!!外は狼やら獣が多くてな!!とてもじゃねぇけど出られねぇよ!!!こっちだって頑張ってるんだよ!!これ以上どうしろと?外に行って死んでこいとでもいうのか!?それに!……」
「知ってますよ。」
「はぁ?お前なめてんのか!?何にもしらねぇガキが!!知ったような口聞くなよ!!!」
そのときだった。ベッドの方から声がする。
「知ってるよ。俺たちなんかよりも、清水君たちは色々な情報を持ってるし、どうせ知ってたんだろ?俺が今日一人で、狼と戦って清水に負けないようにとか言って、頑張ってたこと。」
その言葉に先生たちは怒鳴るのをやめ、ベッドの方を見る。
「長谷川先生?それはどういう?」
「はい。知ってましたよ。先生がウルフたちと戦って体中傷だらけなことも、取ってきた食べ物を腹の減ってる生徒に分け与えてたことも。」
「そうだよなぁ。バレてたよな。……俺、なんか、かっこ悪いな。なんもできねぇのに、清水よりもとか言って、一匹しか倒せないし。生徒の前でろくに謝ることもできなくて……俺、なんか。かっこ悪いな。」
俺はその言葉を聞きながら、長谷川先生の元に歩き、長谷川先生を抱きしめた。暖かく、血と汗の匂いがする。
「長谷川先生は……カッコいいですよ!俺の中では!決してかっこ悪くなんかありません!」
「冗談だろ……そんな冗談、こんな三十五超えたおっさんに言っても……」
「いえ!冗談などではなく本当に俺の中では、かっこいいですよ!!長谷川先生のことここに来て、ほんと好きになれました!だからそんなこと言わないでください!!!」
その二人のやり取りはみんなには全く理解できていなかっただろう。唯一、永本だけは分かっていたかもしれないが。
そして落ち着くと長谷川先生は普段のトーンになって言う。
「冗談じゃないのは分かったから。もう離してくれ。病み上がりの体には苦しいよ。」
「あ、すみません!えっと、俺の回復魔法かけたんで大丈夫だとは思いましたが、死んでも蘇生魔法かけてあげるので安心してくださいね!」
「それは勘弁してくれ……。」
手を離した後の長谷川先生はいつもの長谷川先生に戻っていた。
そしてそのほんわか空気を横から入ってぶち壊してきたのは機嫌の悪い山寺先生じゃない先生……速水先生だ。
「どういうことでしょうか?知っているは?何を知っているのか、説明してくださると助かるのですが。」
「全部話すのか?」
「いえ。少しですよ。夜なので騒ぎ立てたら大変ですしね!」
「そうだなぁ、はははは。」
そういうと長谷川先生は微妙な顔で笑った。
「はい。では言葉で説明しても信じてもらえない可能性があるので……出しますか。その前に……永本〜?ゴブリンさん?俺たち今日どのくらい倒したっけ?」
「多分百五十くらい?そのうち八割は清水だけど……」
「タブン、ソノグライ。シミ…サマスゴ…タデス。」
永本は悔しそうな顔をし、ゴブリンは申し訳そうな顔をする。その二人の言葉に先生たちは顔を歪める。
「うん!やっぱ実物見せた方がいいな!永本とゴブリンさん!ちょっと手伝ってくれる?あと先生方、そこ邪魔なので少し後ろに下がってもらいたい。」
「はい?邪魔ってどういう……」
「富田先生。清水の言うこと聞いた方が身のためだと思いますよ。」
長谷川先生はため息をつきながらもこっちの味方である。
その言葉を聞き不満そうながらも後ろに下がってくれた。
「じゃあ出すか!」
そう言い、俺はアイテムボックスの中から次々とウルフやらオークやらを出していく。
アイテムボックスというものを知らない奴から見れば、何もないところから獣が出てくるので唖然とするだけであった。
全部出すのに三分ほどかかり、獣の死体が山のように積み上がった。
「今日俺たちこんなに倒したんだなぁ。」
「こうみるとすごいね〜。」
「コンナニ、イチニチ、フツウ、ムリデス。」
「やっぱ清水は化け物だった。なんかやっぱ恥ずかしいわ。」
「いやいや。長谷川先生もいい戦いぶりでしたよ!?」
「そう言ってもらえると冗談でも助かるな。」
「だから冗談じゃないって!」
四人で盛り上がっているとそこに突然、驚きのあまり倒れそうな速水先生が言ってくる。
「……なんですか!?こ、これは!!!」 
「だから!これは今日俺たちが狩ってきたモンスター達!俺のスキルに"無限アイテムボックス"があるからそれに入れてきたんです!これ、本当は皮を加工して毛布とかにしたかったんだけど、時間なくてまだやってないし、肉は加工してソーセージとか、ハンバーグになるかとか色々試そうと思ってたんです!その前に"無限アイテムボックス"を説明すると、なんでも入る便利なバックだと思ってください。重量制限なし、ただ生物は死んでないとダメですけど……そのまま保存されるので腐らないです。」
その場の全員(永本以外)が絶句している。長谷川先生はため息をつく。
その中僕はまた話し始める。
「多分俺は転生されてきた時点で、既にみんなの中で自分で言うのもなんですが、一番強いと思います。これを踏まえて俺から提案です。明日から三から五人パーティでウルフの大人を倒せるぐらいに訓練するというのはどうでしょうか?無理強いはしません。ですがこのまま先生達の力でなんとかしようとしても、生徒の人数の方が圧倒的に多いわけですから、ここから出るには危険を伴います。そしてまだ情報を掴めていないようなので一応言っときますが、ここから人がいる一番近い村まで速くても二日はかかります。これはゴブリンさんとも確認済み。その中、サバイバル生活をしなければならないわけで、確実に三分のニは脱落するでしょう。それにここに留まっていてはどんどんみんなの不満は募るばかりでしょうし……。これが僕からの提案です。まぁこれを採用するかは先生方次第ですが、おすすめはします。」
その提案を聞いた後、山寺先生と速水先生は考え込む。そして他の先生とも話し合うと言い、その場を一旦後にした。
長谷川先生は既に承諾した顔を示した。
そして男子生徒達はその場に残り、今からでも修行させてくれと懇願してきたが、先生達の許可が得られたらと説得した。
山積みになった魔物はこの後山寺先生に運ばれ(山寺先生は"転移"のスキル持ち。マーキングした場所ならある程度のものは運ぶことが出来る。サポタによるとかなりレアスキルらしい)、この日から約一週間分の食料となり、全員に分けられた。毛皮や牙は後で回収した。
俺と永本、長谷川先生はその場に残り、今後のことについて、話をしていた。
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