「神に選ばれ、神になる」そんな俺のものがたり

竹華 彗美

第十話 デスフラワー戦

 
 ダンジョンから少し離れると、モンスターの数は激増する。それは壁を作ったあたりからである。
 サポタに聞いたところダンジョンがある場所から直径三キロメートル圏内には魔物は少ないどころか全くいないらしい。
 これはダンジョンから発せられるオーラのようなものの影響で、ダンジョンで生まれたモンスター以外のモンスターを退ける働きがあるらしい。
 それが及ぼす範囲が丁度三キロ圏で、冒険者にとってはとてもいい休憩場所となっている。
 またモンスターがいないということは、それなりに木の実や可食植物も多いということで、それを知る人間の元で働くモンスター達はダンジョン近くで食料採取をしている。
 
「じゃあ、お前達は食料調達の時は毎回ここに来ているのか?」
「イイエ……ソレハ、ココヘハハジメテ。ムラノ、チカク、ダンジョンハアリマス。シカシ、モリノヌシ、ソノダンジョンチカクニ、アタラシクスミハジメタ。ダカラココヘタドリツイタ、デス。」

 ゴブリン達が働く村の近くにはダンジョンがあるみたいで、最近発見された場所らしく冒険者達も多く来ているようだ。
 しかし森の主が気立ってきたと同時に森のモンスターまでもが活発になり、ダンジョンに来る前に森で襲われ、死亡した人が相次いだため、今は周辺は立ち入り禁止となっているようだ。
 村には魔物避けの結界が張られているため、モンスターからの襲撃はまずないとのことだったが、その影響で孤立し物資も届かなくなってしまったみたいだ。
 そしてゴブリン達は村から次に近いここのダンジョンに遠回りをして来た。
 ここのダンジョンは五十年前に既に踏破されており、街道も消えてしまって森の中を進むしかない。

 ゴブリンの曖昧な記憶が頼りの綱である。モンスターはダンジョンを離れるにつれ多くなっていく。
 強さ的にはダンジョン内とらあまり変わらないが、数がなにせ多い。
 ほとんどは俺が火属性魔法で焼き尽くしていくが、時々弱い奴は永本にやってもらっている。
 永本はかなり頑張っている。そんなに頑張る理由は?と聞くと教えてはくれなかった。
 ゴブリンは俺の予想以上の力にか、少々怯え気味だ。しかし戦闘の合間には情報を聞き出すことが出来た。
 一番気になるのはここの位置だがこの世界の中心の大陸である"サンフゥールプレート"。その中でも東側に位置する場所で、ここは"ピンステーナ王国"に区分されるという。
 その中でも"トゥクグル"という町の離れに位置していている。
 この国は、一般的に国は国王が治め、その次に王から派遣された貴族が町を治め、その中で村というのは町の一部となるのでその町を治める貴族に許可をもらい、平民が長として認められているものを村と呼ぶ。
 そして村は金ではなく、特産品を町に治め、町は国に税金を治めるという仕組みになっているようだ。
 ゴブリン達が働く村は特産品としてウルフの皮が高く評価されており、それを納品している。
 そして村には町から納品の量や質などによって物資が届くみたいだ。なので村は基本的に金は無くとも生活できるようである。

 壁の外に出てから二時間弱。かなり進んできてはいるが、まだ村を捉えることはできない。
 またダンジョンのオーラとやらも探してみているが、俺たちが来たダンジョン以外に引っかかるものは未だ見つかっていなかった。
 
「反対の方だったのかな〜?」
「……スミマセン……アイマイナ…キオク、デシテ……」
「まぁ俺には謝んなくていいよ。疲れてないし。謝るなら永本の方向かって謝りな。」
「スミマセン……ナガ…トサマ。」
「ハァハァ……いいよいいよ。ハァ…いい運動になってるから……」
「永本?あともう少しで開けた場所に出るからそこで一回休憩しよう。」
「ありがとな。たかし。」
「それはこっちのセリフだよ、」 

 それから三、四分歩けば、開けた場所へと出る。そこは木が開け色とりどりの花が咲いていた。

「これは、きれいだ!」
「ハァ……確かに!きれいだね……」
「ココハ……アンゼン……マモノチカズカナイ。」
「魔物が近づかない?」
「ハイ……ハナ…タクサンサクトコロ、ダンジョンガデキル、ジュンビ。ダカラ、マモノチカズカナイデス……」

 ゴブリンはなぜか体を震わせている。

「サポタ、どういうこと?」
『はい。ここは"フラワースポット"。別名"ダンジョン始動準備地帯"です。この色とりどりの花は一見とても綺麗に見えますが、実は肉食花で近くに通りかかった生物を食べ、その生物の生命力を利用してダンジョンを作り、持続させていくためのエネルギーを蓄えます。またこの肉食花は……』

 サポタの説明がまだ終わっていないという時、突然地面が揺れ始める。
 辺りを見渡すとさっきまで綺麗に咲いていたはずの花は一輪もなく、その代わりに体長八メートルはあるだろうか。花の顔を持ち体は巨木というイメージが強い生物が俺たちの前に立ちはだかる。
 顔である花の部分には大きな口が開いており、胴体である巨木の部分にはいくつもの蔓が手足のように動いていた。
 サポタの説明が頭の中では続いていたが、驚きすぎて聞ける状況ではない。しかし最後の一文だけは聞き逃すことはなかった。

『……に認定させており、過去には百五十人の騎士団が全滅させられた等の被害の報告もあり、冒険者にとっては"デスフラワー"とも呼ばれています。』
「……!!!!」

 俺はそのサポタの言葉に。永本はあまりの大きさに。ゴブリンは自分の運が悪すぎたことに。それぞれ絶句していた。
 そして"デスフラワー"は準備が整った途端、蔓でこちらに攻撃してくる。
 俺は瞬時に永本とゴブリンを抱き抱え、回避する。

「あっぶねーー!!!!」

 蔓で叩きつけられた地面は、ひび割れが生じていた。

『今の攻撃。直撃していた場合永本様、ゴブリン死亡。たかし様、物理ダメージ八割軽減にてHP4減少。』
「あっ、そういうこと言ってくれるのね。」
『相手のレベルが高い場合のみです。』

 まぁ言ってくれるのはいいんだけど不謹慎じゃないですか?……いや、今そんなこと言っている場合じゃないか!
 
 デスフラワーは一撃目を外したことに気づくと、俺たちを探し始め少しキョロキョロしていると見つかった。
 そしてまたしても俺たちに蔓を俺たちの方に振り落としてくる。永本はまだ驚いて硬直し、ゴブリンは腰を抜かしている。
 そんな二人を抱き抱え、また攻撃を避ける。

『前と同じ蔓攻撃。』
「そうだな。」

 砂煙が晴れた後その場を見てみると、さっきと同様地割れが生じている。

「サポタ!レベルとか分からないか?」
『はい。既にレベルなどはスキル"調査"を発動させることによって見ることができますが、読み上げますか?』
「あ、そっか。ありがとう。大丈夫だ。……スキル"調査"」

 すると目の前にデスフラワーの情報が表示される。

 
 ダンジョン準備時の肉食花
 [レベル] 180
 [体力] 50000/50000
 [魔力] 6000/6000
 
 [備考]食用には向かない。蔓は何度でも再生する。火・氷・雷魔法に弱い。


 あれ?……なんか弱くね?
 確かに永本のに比べちゃえば、敵わないけど、俺よりも全然弱くねぇ?

「サポタ……。火属性魔法一発ぶち込めば俺勝てるくない?」
『はい。たかし様の現在の火属性初級魔法を四割の力でやりますと"デスフラワー"に与えるダメージ、50000以上。即死となります。たかし様の魔力は20のみの消費となります。』
「……!!!???」

 あ、あれ〜?なんかサポタさんがおかしいこと言い始めたんですけど!初級魔法一発ぶち込めば倒せるって聞いたのは俺だけど、四割で50000ダメージとか、いくらあいつが火に弱いからっておかしくない?

「サポタさん、サポタさん……俺今何レベなの?」

 俺は自分のステータスを開くのが怖かったので、サポタに恐る恐る聞いてみた。すると恐ろしい答えが返ってくる。

『はい。たかし様現在のレベルは12600であります。』
「……」
「たかし様、大丈夫でしょうか?……あ!」

 そうサポタが言うと俺にデスフラワーの蔓が直撃する。ギリギリ永本とゴブリンには当たらなかったが、爆風によって吹き飛ばされてしまう。

「「グハッ!!!」」

 そして吹き飛ばされたことによって二人は木に叩きつけられてしまっていることは全く知らず、俺は叩きつけてきた蔓を簡単に躱し、その蔓を片手に持ち、森中に響き渡る大声で叫んだ。

「な!ん!!だ!!!と〜〜!!!!」

 そしてそれと同時に蔓を握りつぶし、肘を曲げて上にやる。するとデスフラワー本体もその力によって持ち上がり、その後地面に叩きつける。

「ドドドドドドガガガァァァンンン!!!!!!!!!」


 その衝撃は山全体に響き渡るだけではなく、周辺の山にも地震のように響き渡る。
 これはその後この地域で住む人々や魔物の間で"神の怒り"として言い伝えられることとなる。
 
 そんなことは知らず、たかしは未だ絶句状態ではあったが、その衝撃の後しばらくして我に返る。

「あっ!!!……ちょっと、これ、俺、力の制御出来ないかも……」
『たかし様の只今の攻撃により、周囲一・五キロ陥没。デスフラワーの残り体力3258。体の大部分が破損し、顔部分も二割破損しています。』

 サポタの解説を聞き、また呆れる。そして砂埃が晴れ、周りに広がっていた景色は俺のいる場所を中心として隕石でも落ちたかのように凹み、先ほどまでの森林は消え失せていた。
 いや実際落ちたと言っても過言ではない。この状況を見れば誰でもそう思うだろう。まさか人間が作ったとは思わない。

 俺はしばらく其の状況を作り出した本人にも関わらず、自分がやったとは認められない。そして辺りを見回すとあることに気づく。

「あれ?……永本達は?」

 この衝撃波で飛ばされない方がおかしいのだ。俺はすぐさま"視野拡大"にて永本、ゴブリンを探す。
 
「いた!!!」

 俺はすぐに永本を探し終え、その場所に行く。ゴブリンも其の近くに倒れていた。
 スピードも上がってしまったようで、走っていくと多分音の速さより少し遅いぐらいの速さである。
 そうするとたったの十秒で二キロ進み、永本が倒れる場所にすぐに着いた。
 
 永本の息はギリギリでステータスを見ると、ほとんど体力が残っていない。あと少し衝撃によって飛ばされた場所が悪かったら死んでいた。
 俺永本を抱き抱え、ヒールをかける。すると体力はみるみる戻っていき、息も正常になる。

「永本!大丈夫か!!おいっ!!!」
「……ん?……たか、しなのか?」
「そうだ!ごめん!全然気づいてやれなくて!」
「大丈夫、大丈夫。……いまこうしてたかしと、逢えてる。……俺、一瞬三途の川みえたんだよ。……あ、これで死ぬんだって、思った。でも……誰かが川の向こうから言うんだよ。『こっちに来るな!まだ生きろよ!』って。顔は見えなかったけど、すごい懐かしい声で……そうしたら体があったかくなって、たかしがいたんだ。俺また助けられちゃったのかな?お前に。俺、やっぱり俺……足手まといだよな……。どんなにお前に追いつこうと思っても迷惑絶対かけちまう。……たかしは、なんで俺を選んだんだ?もっと他にいただろ?二百人で転移したんだから……。俺じゃなくても……」

 俺は永本の話を遮る。

「よくない!!お前じゃなきゃダメなんだよ!……俺の方こそお前にこの世界に来てから助けられてばっかりなんだよ!こんな力手に入れて、お前がいなかったらとうの昔に我を忘れて暴走しちゃってたよ!でもお前がいたから、お前がいつもと同じように接してくれるから、俺は自分を保つことができてるんだよ!だからお前は俺にとって必要なんだよ!俺に追いつこうって言う思いで戦う姿、倒れても起き上がる強さ、こんな意味わかんない状況でも明るく会話してくれる……だから!俺は!!そんなお前が一番必要なんだよ!!!!」

 俺はそう言い切る。そして永本はその言葉を聞いて、涙を流す。そしてニコッと笑い「ありがとう。」と言ったのであった。

「こちらこそ、ありがとう。これからもよろしくな。俺の親友よ。」

 俺はそう言い、永本の涙を手で拭った。
 

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