夜と朝のあいだに。
1-④
「だから私は、裕太くんを早くこの場から出してあげたいの」
そう文さんが言って、俯いた。
でも僕は、      僕、   は、
「僕は、"ここ"から去りたくなんかないんです」
と思ってしまっていた。そして、そう言ってしまった。
文さんは顔を上げ、静かに顔をこっちに向けて僕を見つめた。そして、ゆっくりと口を開いた。
「どうして?」
それだけ言って、また、僕を見つめた。
何て言ったらいいかわからない。でも、とにかく出たくない、から、…
「あの…、ここにいれば、部活で怒られることもないし、文さんや明さんは優しいし、た、楽しい、なぁ、と思って…」
僕は言葉を選びながら、慎重に言った。
文さんは僕が言葉を言い終わった空気を感じとって、また下を向いた。そしてなにかを考えてから、また顔を上げた。
文さんはゆっくりと口を開いた。
「確かに、裕太くんが受けている悪いことは、周りが原因よ。でも、どんなに周りが原因でも、それを伝えようとしても、自分が周りの為に変わらなきゃいけないときがあるの。…こんなにも、世界は理不尽なものなのよね…。」
そう言っていつも持っているトートバッグからブラックの缶コーヒーを取り出し、僕に差し出した。
「たとえどんなに小さな世界でも、理不尽はやって来る…。だから、」
と言って、僕の方を向いた。そして僕の両肩を強く掴んで揺すった。
「裕太くん、強くなるの。強くなるために、早くここから抜け出すの。それしかないの!」
いつものように優しい声のはずなのに強い言葉が、僕と、2人を取り巻く空気を切り裂いた。
「ふみ、さ  ん…」
「さあ、早く、」
両手をそっと離し、
とん、
と僕の肩を押した。
「行って」
僕は、文さんを見つめながら後ろへ足を進めていった。ゆっくり、ゆっくりと進んだ。僕は泣いていた。なぜかわからないけれど泣いていた。遠ざかる文さんを見つめ続けた。文さんは一歩も動かずに僕が"ここ"から出て行くのを見守ってくれていた。
「文さん、ありがとう」
こんなに小さい声だけれど。小さい声しか出せないけれど。
どうかこの声が、あなたに伝わりますように。
そう文さんが言って、俯いた。
でも僕は、      僕、   は、
「僕は、"ここ"から去りたくなんかないんです」
と思ってしまっていた。そして、そう言ってしまった。
文さんは顔を上げ、静かに顔をこっちに向けて僕を見つめた。そして、ゆっくりと口を開いた。
「どうして?」
それだけ言って、また、僕を見つめた。
何て言ったらいいかわからない。でも、とにかく出たくない、から、…
「あの…、ここにいれば、部活で怒られることもないし、文さんや明さんは優しいし、た、楽しい、なぁ、と思って…」
僕は言葉を選びながら、慎重に言った。
文さんは僕が言葉を言い終わった空気を感じとって、また下を向いた。そしてなにかを考えてから、また顔を上げた。
文さんはゆっくりと口を開いた。
「確かに、裕太くんが受けている悪いことは、周りが原因よ。でも、どんなに周りが原因でも、それを伝えようとしても、自分が周りの為に変わらなきゃいけないときがあるの。…こんなにも、世界は理不尽なものなのよね…。」
そう言っていつも持っているトートバッグからブラックの缶コーヒーを取り出し、僕に差し出した。
「たとえどんなに小さな世界でも、理不尽はやって来る…。だから、」
と言って、僕の方を向いた。そして僕の両肩を強く掴んで揺すった。
「裕太くん、強くなるの。強くなるために、早くここから抜け出すの。それしかないの!」
いつものように優しい声のはずなのに強い言葉が、僕と、2人を取り巻く空気を切り裂いた。
「ふみ、さ  ん…」
「さあ、早く、」
両手をそっと離し、
とん、
と僕の肩を押した。
「行って」
僕は、文さんを見つめながら後ろへ足を進めていった。ゆっくり、ゆっくりと進んだ。僕は泣いていた。なぜかわからないけれど泣いていた。遠ざかる文さんを見つめ続けた。文さんは一歩も動かずに僕が"ここ"から出て行くのを見守ってくれていた。
「文さん、ありがとう」
こんなに小さい声だけれど。小さい声しか出せないけれど。
どうかこの声が、あなたに伝わりますように。
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