夜と朝のあいだに。

自他

1-②


 夜と朝のあいだ…?

 僕は、その言葉が理解できなかった。
 ポカンとした顔で2人を見つめていると、文さんが口を開いた。
 「ああ、急に言われてもよくわからないよね。"夜と朝のあいだ"って、聞いたことない?」
 「…ああ、ニュースで何回か…」
 僕ら10代がよく使うメッセージアプリのニュース欄や朝流れるテレビでその言葉を見たことがあるような気がする。たしか、不眠を引き起こすとかナントカするらしい。あまり詳しくは知らないけれど、日本中で深刻な問題になっている。

 文さんが、
 「さすがに知っているみたいね、そんなに有名になってしまったとは…。」
 と言い悲しげな表情を浮かべた。
 そして、文さんのうしろに立っていた男性、明(あきら)さんがこう言った。
 「君は今、ここ、"夜と朝のあいだ"に紛れ込んでいるんだ。なんらかの悩みを抱えた君のような若い子たちが集い、夜明けまでこの空間に迷い込んでいる。」
 「でも、僕は今晩ちゃんと眠ったのに、なぜこんな所に来ているんですか?」
 「それは現時点ではわかっていない。だから、"ここ"を研究している科学者も困っているのさ」
 そこまで話したところで、空が明るくなっていった。そして、文さんがまた口を開いた。
 「どうしてここにいるのかはわからないし、もう夜明けだからここで一旦さよならね…。」
 そして、その場から去ろうとした文さんがこっちを振り向いてこう言った。
 「くれぐれも、日中は、気をつけてね。」

 ニュースのテロップ、【昨今の不眠の原因か】【"夜と朝のあいだ"の若者への悪影響  対策は】という言葉がよぎったまま、僕はその場で目を閉じ、倒れ込んだ。

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