ある天界喫茶店の店員さん

土土産 暁丸

ある高校生のプロローグII

「え?」

「え?」

聞いたことの無い単価に、悠斗は思わず財布を片手に立ち尽くす。

「え、円じゃ?」

「ラズリです。」

「ドルじゃなくて?」 

「ラズリです。」

「ユーロじゃなくt」

「ラズリです。」

ふざけてるのかと思うが店員の顔がマジの顔だった。

「も、持ってないのですが…」

「はぁ、お金もないのにカフェオレ頼んだのですかー。」

「え、あ…はい。」

「てんちょー呼びますね。」

「…はい…。」




あぁ、これは警察沙汰だな、と悠斗は覚悟する。
雰囲気も雰囲気で円なら持ってるなんて言えなかった。
しばらく待っていると奥から

「どういうことだ」

奥からすごくダンディなイケボが聞こえる。

悠斗は若干恐怖を感じながらも、店員を待つ。 
やがてその声の正体がわかる。

「…ひよ…こ…?」

明らかに姿がひよこである。
いや、もうひよこだ。

「君がただ飲み犯かね、あとひよこ言うな。」

声とギャップが全然違うことに悠斗は唖然とする。

「…何故、ただ飲みしたか聞こうか。」

「え、あの…、てっきり円かと…、ラズリなんて聞いたことがなくて…。」

「…円…」 

ひよこは少し悩む。

「君、もしかして下界の人かね。」

「げ、下界?」

いかにもラノベのような事を言うひよこである。

「ここは天界だ、君ら人間は死ぬとここに来るのだよ。」

「…つまり、僕は死んだと…?」

「まぁ、そういう事になるな。」

ひよこに死亡宣言されるのは悠斗が人類初めてであろう。

「は、はぁ…」

「…もしかして信じていなかったりするのかね?」

「そりゃ…まぁ、もちろん。」

「…ひよこが喋ってるのにか?あとひよこ言うな。」

「まぁ、それは異常ですが…、あと言ってません。」

「…まぁ、こっちに来たまえ。」

ひよこは店の窓へ向かう。

「これを見ても疑うのかね?」

悠斗は窓を覗く

「なんだよ、これ…」

広がっていたのは雲。
辺り一面に雲が広がっていて、その上に人や得体の知れない生き物が歩いていた。

「というかよく見て見てごらん、君や私、みんなの頭に例のリングがついているだろう。」

よくみると光る半透明のリングがぷかぷかと浮かんでいた。

「ほ、本当だ…」

ありえない事の連続で頭がパンクしそうな悠斗は頭を抱えため息をつく。

(まだやりたいことがあったのに、彼女だっていた事ないのに、まだ家族に…さよならさえ…言ってないのに…)

いつの間にかこぼれ落ちた涙。
それもそうだろう、わけも分からず気がついたら死んでいましたなんて、誰しも信じられないし信じたくない。

「あー、うん、えーと、水を差すようで悪いのだが、泣かないでもらえないか?…あー、うん、気持ちはわかる、気持ちはわかるのだが…お客様が見ていらっしゃる…。」

「え?」

当たりをキョロキョロすると周りにいた人が全員こちらを見ている。
それを見る店長らしきひよこは呆れた顔でため息をつく。

「それにしても、転送先がこことは珍しいものだな。」

「て、転送先?」

どうやら下界の人は死ぬとどこかしらにランダムでここ天界に現れる。その現れる場所を転送先というらしい。

「えーと、店長?は僕達人間と違うのですか?」

「あぁ、一様ここでは天使ということになっている。」

「天使…?名前とかあるんですか?」

「…今は話す必要は無いだろう。」

「そ、そうですか…、え?今は?」

「うむ。」

「次回とかあるのでしょうか…?」

「何を言っているのだ?」

ひよこは首をかしげる。

「え?」

悠斗も同じく首をかしげる。

「君は今日からここで働くのだぞ?」

「あ、そうなんですね…、えっ!?」  

悠斗は驚いて思わずひよこを見る。

「まぁなんだ、飲み逃げを許すわけにもいかないし、君はここに来たばかりだ、何をしたらいいかもわからないだろ?だから君を雇ってあげるのだよ。」

「いや、でも、まだ僕何も知らないですし…」

「1から叩き込むつもりだが。」

「でも…」

「死んだ悲しさはわかる。大いにわかる。だが、いつまでもメソメソしてちゃダメなのだよ。」

「いや、そこじゃなくて…」

「ん?」

「僕、不器用ですよ?」

「大歓迎だ。」

こうして、悠斗は天界のひよこ店長のいる喫茶店で雇われたのである。

コメント

コメントを書く

「コメディー」の人気作品

書籍化作品