紅心中

Mifa

Prologue

その腕は棒切れのように頼りなく、最後の一葉を残した枯れ木のように僕を惹き込む。
その脚は歩く以上の機能を備えていないように見え、座して折りたたんだ様こそ相応しい、と思わせる。



彼女はあまりに多くのものを持っていなかった。失っていったのか、手にすること無く今に至ったのか、それは定かではない。他の雑多な人間に比べ、満たされる事なく、萎れていくばかりの喉元に、僕は恋をした。



病的な顔色と、沈みきった目の形が特徴的で、恐らく健康的な日々を過ごしていたならば、きっと誰もが振り返るほどの美人に成り得ただろう。でも、それはただの想像、いや客観的な意見であって、僕個人の感性とは異なる。
僕は、とびきり渇いているからこそ、彼女は美しいのだと思う。



例えるなら、お笑い芸人だろうか。たまにいるだろう、「痩せたら美形だろうになあ」と思う芸人。
でも、同時にこうも考えるはずだ。「太っているから売れたんだし、痩せたら違う人に見えるだろうな」と。
飛び切り太って、本来持つはずだった相応の見た目を見捨てたから、名声を手に出来た。それと同じことだ。



彼女が、もしも普通の生活を過ごしていたら。
あの店に来ていなかったら。
僕はきっと、自殺していなかっただろうね。

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