【完結】女装男子のインビジブルな恋愛事情。

瀬野 或

■□一十九章 He looked envious at the sky,□■


 夏休みといえば、自室に籠って本を読むのが恒例だった。それに不満に感じたことは、一度もない。寧ろ、夏休みとはそうあるべきだ、とすら思っている。BBQやデイキャンプ、海水浴などのレジャーに心を踊らせて、「青春万歳!」と言いながら肌を焼くのは性分ではないし、友人の家を訪ねて泊まり、夜な夜な好きな人を言い合うというベタなイベントだって、そういうことがすきな人たちでやっていればいい……だいたい、だれがだれをすきだと知って、どうするのだろうか。他人の恋愛に口出しできるほど、自分は恋愛を極めているわけじゃああるまいし。

 くだらない、とまでは言うつもりはないけれど、他にやるべきことはなかったのか、と僕は、それを趣味としている学生連中に問い質してみたかった。まあどうせ、だれがだれをすきというのを把握して悦に浸りたいだけなのだろう。

 そんな捻くれ拗らせ高校二年生・鶴賀優志の夏休みは、残すところ一週間になっていた。

 宗玄膳譲の最新作、〈月光の森〉を読み終えた僕は、ふうと一息ついて本を閉じた。〈コーヒーカップと午後のカケラ〉から、着実に文章力が向上している。状況描写と心理描写が上手く掛け合い、読み手の涙を誘う。ここまでくると、もう無名作家の域を超えているのではないか、と岡目八目しつつ、手元にあるアイスコーヒーを手に取って一口飲んだ。

 時計を見る。午前中に読み終えたのはいいが、本日の予定がなくなってしまった。まだ読み終えていないハロルド本も何冊かあるとはいえ、急ぐ必要もない。それに、読みたいときに読むのが僕の読書スタイルだ。年間三〇〇冊読む、という目標を掲げているわけでもないのだし。

 ゲーム、とも思ったが、あまり乗り気ではなかった僕は、ベッドにごろんと横になった。目を閉じて、睡魔が訪れるのをひたすらに待つ。自分の体が重たくなってきたのを感じて、眠りにつくのもそろそろだなと思い始めた頃だった。








 お久しぶりです、瀬野 或です。(=ω=)ノ
 今日から最新章の連載がスタートします。
 最後までお楽しみ頂けたら幸いです。

 by 瀬野 或

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