【完結】女装男子のインビジブルな恋愛事情。
三百二十八時限目 通例会議
「鶴賀くんがいるとオマケが付いてくるから」
だれを指しているのか考えずとも、ギロリと睨んだ先にいる人物を振り返る必要はない。七ヶ扇さんの言葉には、明らかな敵意を感じる。拒絶とも受け取れるような声色で、厄介者を退けようと言葉を続けた。
「八戸先輩がここにいたって、邪魔以外の何物でもないのよ」
そう言いながら、キャンパスノートを広げた。僕の位置からはなにが記載されているかまではわからないけれど、恐らく議事録に違いない。昨日行われた会議の内容と今後の課題が記されているのが議事録だが、出勤して、なによりも先に確認する連絡ノート、という意味合いが生徒会では強いらしい。組織としては当たり前ではあるけれども、ここまで組織らしくする必要は、果たしてあるのだろうか。社会に出る前から行っていれば力になるだろう。
でも、僕にはそれが会社ごっこしているようにしか思えない。
形式だけ揃えていれば安堵もできるし、形から入るのは悪いことじゃない。だけどもそれは、自分たちだけの世界を肯定するためだけに揃えた材料にも思える。僕はまだ生徒会の会議に参加していないから、とやかく言う資格なんて無いかも知れない。もしかしたら、会議らしい会議を行なっている可能性だってある。そうだとしても、感覚的な気持ち悪さは拭えなかった。
「八戸先輩、どうしましょうか」
言われっぱなしでは、先輩としての威厳とか、年上としてのプライドやらが収まらないのではないか? という意味を込めて話を振ってみた。
「それなら、自分がここから退室すれば文句はない……ってことでいいかな?」
「そうですねー……」
「じゃあ、後のことは鶴賀君に頼むよ」
はい?
「後を頼むと言われても、僕は右も左もわからないのですけど……」
「七ヶ扇君が手取り足取り教えてくれるさ」
呼び方に統一感が無い人だなあ。きっと、本人を目の前にして『朝海』とは呼べないんだろう。それとも、以前はそう呼んでいたが、七ヶ扇さんに拒絶されたとか? そっちのほうがしっくりくるけど、差し当たって考えるほどの問題ではないな。
それよりも、だ。
八戸先輩はそれでいいんだろうか? 先輩としての矜恃は無いのか。僕だったら、嫌味たっぷりの皮肉を混じえて論破してやろう、と息巻いている場面だ。最悪、泣かせるまであるけど、それは本当に最悪なケースだなあ。
八戸先輩は千葉先輩に軽く挨拶をして、振り返ることもせずに退室した。嫌な沈黙がずしりと肩に乗っかって、解す程度に肩を回した。これからどうすればいいものか。辺りを窺っていると、七ヶ扇さんが「座ればー?」って、気の抜けた声で会議スペースにあるパイプ椅子を持ってきた。だが、ここに椅子を置いて座るには通行の邪魔になる。
「なんで私の隣にくるのよ」
「手頃だったから?」
「あっそ」
たったこれだけの会話を訊いて、千葉先輩は生きた心地がしないとばかりに溜め息を吐いた。龍であり、鬼でもあるのに気が小さい人だなって印象を受ける。
こういうやり取りに慣れてない人には刺激が強かったりするんだろうか。ほら、ネット掲示板なんかいい例だ。匿名掲示板では相手の顔が見えないから誹謗中傷も当然で、スレを建てたら『スレタイだけで無能とわかる』とレスされる始末だ。
中学生や高校生がレスしているならば、世間知らずの馬鹿だって納得もできよう。然し、それが大学生や社会人だったら目も当てられない。ストレスの捌け口に使ってるなら、もっと生産的な趣味でそれをできないものだろうか。できないんだろうなあ。だからこそ、非生産的な場所で傍若無人に振舞っているんだから。もうアレだ、南無阿弥陀仏とだけ唱えておこう。
僕が小さく合唱しているのを隣で見ていた七ヶ扇さんが、若干ドン引き──若干なのか、ドン引きなのか、そこは重要じゃない──しているのが心を抉り始めた頃、島津先輩が爽やかに登場した。
「おはよう。最近、みんな早くて申し訳なくなるわね。……あ、キミは昨日の」
「二年の鶴賀優志です。八戸先輩の紹介で来ました」
「紹介じゃなくてお節介の間違いじゃなーい?」
七ヶ扇さんの野次に苦笑いしながら、僕の元へとやってきた島津先輩は、僕の肩を叩いて「よろしくね」と微笑んだ。
島津先輩が場を仕切り、朝の通例会議が行われる。会議スペースではなくて、個々のデスクがある場所でやるのが通例らしい。逆Uの字に蓋をするようにホワイトボードが置かれて、ボードの前には島津先輩が凛とした姿で立っていた。書記である七ヶ扇さんは、それまでの態度とは打って変わり、真剣な表情で生徒会役員たちの言葉をノートにメモしている。朝の通例会議には、会長である島津先輩、書記の七ヶ扇さん、経理担当の千葉先輩、そして、役職の後釜を狙っている野心家雑務数人が参加していた。因みに、僕も雑務に配属とのこと。
窓際にいる彼らとともに本日のスケジュールを訊いていると、島津先輩と目が合った。
「鶴賀君には中休みの見回りと、昼休みの見回りをお願いするわ。田中君、鶴賀君と一緒に中休みの見回りをよろしくね」
「うっす」
田中君は、僕の左隣にいる恰幅のいい男子生徒だった。普段からにやけ顔なのか、それとも意識して笑っているのかは定かじゃないにしろ、悪いヤツではない印象を受けた。
「それと、大場さんは昼休みの見回りを鶴賀君と一緒によろしく」
「はーい」
大葉さんは、田中君の席から二つ離れた位置に座っていた。セミロングの毛先が緩やかにカーブしている。どことなくギャルっぽい雰囲気がある女子だ。髪の毛の色はやや明るいブラウンで、左手首に緑と白のグラデーションが綺麗なシュシュを付けていた。あまり仲よくはなれない人種だと悟り、申し訳程度に頭を下げたら無視されてしまった。やっぱり、彼女とは相容れないようだ。
会議は一十五分くらいで終わり、各々は自分の仕事に取り掛かり始めた。
「鶴賀君、自己紹介しておこうよ」
僕がパイプ椅子を片付けようと立ち上がったら、隣にいた田中君が声をかけてきた。
「おれは田中裕彦っす。二年一組」
おれ、の発音に違和感を覚えたが、ああそうだ、少年革命家と同じ発音だと思い出して腑に落ちた。
「一応、雑務の責任者を任されてるから、わからないことがあれば訊いて欲しいっす」
「二年三組の鶴賀優志です。えっと、よろしく?」
なんで疑問形なんっすか、と少年革命家ヒロボンは笑う。
「そして、あそこで島津会長と話をしてるのが、昼回りを一緒にする大場蘭華。大場さんは二組っす」
──おばさんって呼ぶとめっちゃ怒るっす。
「はあ」とか「へえ」とか答えながら、田中君の説明を訊いていたら、トントンっと左から肩を叩かれた。
「鶴賀くん、ちょっと……い?」
千葉先輩が来たことにより、田中君は「それじゃ、中休みに向かえにいくんでよろしくっす」とその場を離れた。
「なんですか?」
あと、声が小さいっす。
【感謝】
この度は『女装男子のインビジブルな恋愛事情。』にお目通し頂きまして、誠にありがとうございます。皆様がいつも読んで下さるおかげで最新話をお届けできています。まだまだ未熟な私ですが、これからもご贔屓にして頂けたら幸いです。
【お願い】
作品を読んで、少しでも『面白い!』と思って頂けましたら、お手数では御座いますが『♡』を押して頂けますと嬉しい限りです。また、『続きが読みたい!』と思って頂けたましたら、『☆』を押して下さいますとモチベーションにも繋がりますので、重ねてお願い申し上げます。感想は一言でも構いません。『面白かったよ!』だけでもお聞かせ下さい! お願いします!(=人=)ヘコヘコ
【話数について】
当作品は『小説家になろう』と同時進行で投稿しておりますが、『小説家になろう』と『ノベルバ』では、話数が異なっています。その理由は、ノベルバに『章』という概念が無く、無理矢理作品に反映させているため、その分、余計に話数が増えているのです。なので、『小説家になろう』でも、『ノベルバ』でも、進行状況は変わりません。読みやすい方、使いやすい方をお選び下さい♪
【作品の投稿について】
当作品は『毎日投稿』では御座いません。毎日投稿を心掛けてはいますが、作業が煮詰まってしまったり、リアルが現実的に、本当に多忙な場合、投稿を見送らせて頂くことも御座います。その際は、次の投稿までお待ち下さると嬉しい限りです。予め、ご了承ください。
これからも──
女装男子のインビジブルな恋愛事情。
を、よろしくお願い申し上げます。(=ω=)ノ
by 瀬野 或
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