【完結】女装男子のインビジブルな恋愛事情。
三十三時限目 他者の気持ちを推し量ること[後]
デート、か。
いやいや、まだデートと決まったわけじゃない。
ただ単純に、興味本位で僕と話したいって理由もある。
二人きりじゃなきゃ話せない内容なのかも知れないし、タピオカミルクティーを飲みたい可能性だってあるわけだ。
うん、タピオカミルクティーって一人じゃ買えないもんね! ベビタッピ♪ とか言われたら、どうしていいかわからず愛想笑いしかできないまである。
タピオカと書いて『パール』と読む店まであるし、注文の難解さはスタバを超えるんじゃなかろうか? 家系ラーメン屋のほうがまだ親切設計だろ……。
タピオカでも、家系ラーメンでもいいけど、どっちにしたって二人きりって状況は些か誤解を招くんじゃないか? もし、二人でラーメンを啜ってるところをクラスメイトのだれかに見られでもしたら大ごとに発展する。休み明けに学校へいったら、『天野さんと……アレが一緒に、ラーメン食べてたぞ』とか噂されてしまうじゃないか。
妄想の中でもクラスメイトに認知されてないとか、どんだけ卑屈なんだよ……。
であるからして、今回はご縁が無かったことでと諦めてもらうことにした。
「今日は用事があるんだ、ごめん」
そうなの……と、殊更に残念を強調する天野さんの声に罪悪感を感じないわけではない。でも、これも天野さんのためなのだ。家系ラーメン屋でクラスメイトに遭遇する確率は低いとしても、ゼロじゃないなら可能性は充分足り得る。
……タピオカはどこにいった?
『用事ってなにか訊いてもいい?』
「あ。ええっとお……」
うそーん。
普通、『用事がある』って言われたら素直に引き下がるのが礼儀じゃないのー? そうだとばかり思ってたから、理由までは用意してなかったんですけどーみたいなー。
「ほ、本を……」
買いにいくの? って、天野さんは僕の言を待たずに答えた。
「家で読む……、的な」
『それならいつでもできるじゃない! なんだったら私が朗読するわよ!』
ハロルド作品を朗読されてもなあ……。
『日差しが強いハイウェイを愛車で走る。法定速度をいくらか超えた風が、緩やかな曲線を描く車体を撫でた。我が子を撫でるような手つきとまではいかずとも、愛人の肌を愛しむように愛撫するような印象を私は受けた』
とか、感情を込めて読まれても、色んな意味で困ってしまう。
『それとも、私じゃ嫌……?』
「え、音読の話?」
それは譬え話だから! と、怒られてしまった。
『鶴賀君には迷惑かけてるし、そう考えたら会いたくないのも頷けるけど』
天野さんらしからぬしょんぼりとした声で言われたら、とっても悪いことをしてる気がしてくるじゃないか。
してるのか……多分、普通にガチで。(佐竹感)
「……どこに行けばいいの?」
『え、会ってくれるの?』
ぱあっと明るい声音が訊こえて、内心ほっとした。そんな反応をされたら断るに断れないってもので、『迷惑をかけている』と言われたら、その先はデートではないだろう。
これは、天野さんなりの誠意だ。
誠意を示されたら、誠意で応えなければ筋が通らない。
「そこまで言われたらね」
『ありがと!』
えへっと笑う声が漏れて、迂闊にもドキッとしてしまった。
『いつも待ち合わせしてるファミレス前に、一十二時待ち合わせ……で、どうかしら?』
「わかった」
と、二つ返事で了承したはいいいが、ご指名はどちらだろうか?
「どっちでいけばいい?」
──どっちって?
──優梨でいったほうがいいのかなって。
『鶴賀君と話したいから、鶴賀君のまま来て欲しいわ』
「了解。それじゃまた後で」
電話を切った後、僕は形容し難い違和感を覚えた。
天野さんが好意を寄せているのは優梨で、僕はオマケに過ぎないはずだ。
あの日、天野さんは僕を〈友だち〉と言ってくれたけど、僕と天野さんはまだ知り合ったばかりで取り分け深い仲ではない。
無理してまで僕と話すのであれば、それはお互いにとっていい結果をもたらさないんじゃないだろうかと思う反面、心のどこかで『異性と二人きり』というシチュエーションに少なからず期待を抱いていたりしている自分もいる。
僕は、自分が気持ち悪い人間になった気がして吐きそうになった。
身分を弁えろ、僕。
天野さんと対等なはずないだろ……。
友だちにという関係性には、優劣が必ず存在する。
『アイツは親友だ』
だれしもが、一度は耳にしたフレーズだろう。
少なからず、僕も昔はそういう風に思っていた相手がいた。
けど、親友は一人だけではない。
アイツの親友には親友がいて、その親友には別の親友がいるのである。
じゃあ、僕の親友ってだれだろうと考えれば、親友という言葉が増殖し過ぎて思考が堂々巡りする。
だから、親友の信頼を勝ち得るために、親友のペースに合わせたり、趣味を合わせてみたりと、涙ぐましい努力をして、その結果、ようやく『アイツの親友』を勝ち取れるのだ。
信頼というのは、歯抜け状になったジェンガのようなものだ。崩れるときは一瞬にして、跡形もなく崩れてしまう。
だからこそではないが、日本語には『忖度』という、素晴らしい言葉が存在する。
本来の意味は『相手の気持ちを推察する』って意味であり、決して悪い言葉ではない。然し、近年ではこの言葉が悪い意味として用いられる。それも、日本人という人種が『他者の気持ちを理解すること』にステータスを全振りしているからに他ならない。
その弊害として、『忖度する』という言葉は悪い意味で使われるのだろう。
さっきの会話を思い出してみると、忖度をわかり易く表現できる。
『鶴賀君と話したいから』
この言葉の裏側に隠れている真の意味は、『だけど、ユウちゃんに会えたほうが嬉しい』だ。
ここは、天野さんの気持ちを忖度しておけば問題無い。
「女装も慣れだよね」
溜め息の代わりに吐き出した言葉は、諦めというよりも自己暗示に近かった。
他者の気持ちを推し量るなんて芸当ができるほど、僕は器用な人間じゃない。
空気を読むことに関してはプロであり、気配を殺してミスディレクションを起こせるまでの技はないけれど、集合写真撮影で忘れられるくらいには、存在感の無さを極めている。
だとしても、だ。
人間には必ず、得手不得手がある。
できないことを強要された場合、できないなりに頑張るのが普通だろう。
でも、僕はそうしない。
頑張ったところで業績を上げられないのならば、それなりに『頑張った風』を装い、相手が妥協してくれる案を提示する。
今回の件だってそうだ。
優梨の姿で天野さんに会えば、それなりにはなるだろうって魂胆である。
人間には必ず、得手不得手があるのだ。
僕にはソレができなくとも、彼女になればソレができる。
つまり、業務委託ってやつ。
効率化を図るなら、役割分担したほうがいい。
和気藹々とした時間を過ごすなら、それができる方法を選ぶだけの話だ。
【感謝】
この度は『女装男子のインビジブルな恋愛事情。』にお目通し頂きまして、誠にありがとうございます。皆様がいつも読んで下さるおかげで最新話をお届けできています。まだまだ未熟な私ですが、これからもご贔屓にして頂けたら幸いです。
【お願い】
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【話数について】
当作品は『小説家になろう』と同時進行で投稿しておりますが、『小説家になろう』と『ノベルバ』では、話数が異なっています。その理由は、ノベルバに『章』という概念が無く、無理矢理作品に反映させているため、その分、余計に話数が増えているのです。なので、『小説家になろう』でも、『ノベルバ』でも、進行状況は変わりません。読みやすい方、使いやすい方をお選び下さい♪
【作品の投稿について】
当作品は『毎日投稿』では御座いません。毎日投稿を心掛けてはいますが、作業が煮詰まってしまったり、リアルが現実的に、本当に多忙な場合、投稿を見送らせて頂くことも御座います。その際は、次の投稿までお待ち下さると嬉しい限りです。予め、ご了承ください。
これからも──
女装男子のインビジブルな恋愛事情。
を、よろしくお願い申し上げます。(=ω=)ノ
by 瀬野 或
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