【完結】女装男子のインビジブルな恋愛事情。

瀬野 或

三百一十五時限目 前途多難な生徒会活動


 八戸先輩がドアを開いた先は、白いタイル張りの床が広がる、職員室を縮小したような部屋だった。

 六畳の部屋を四つ、正方形にくっ付けたくらいの広さで、そのうちの左奥一角が白い壁に遮られていた。

 職員室と似た作りとするならば、あの位置にある部屋は応接室とか、そんな感じだろう。

 壁に遮られた部屋の手前側には、主に会議室で使用される長テーブルが六つ、囲むようにして設置してある。一〇人分の椅子が用意されているけれど、生徒会役員は『生徒会長たちを含めて八人だ』と、八戸先輩から訊かされているので、二人分の椅子が余る。そのうちの一つに僕が座るとなれば、残りの一つは予備の席だろう。

 横長に作られた会議スペースの右側の壁には、上下に分離された黒板があった。これは、美術研究室だった頃の名残りだろうな。左側の壁にはホワイトボードが二つ、並べて置かれているけれど、あまり使用された形跡がない。立派な黒板があるから、ホワイトボードの需要がないみたいだ。

 出入口の横の壁には、様々な掲示物がセロテープで貼り付けてある。主に、部活動の告知ポスター承認書で、そのどれにも付箋が貼り付けられていた。その付箋になにが書いてあるのかと近づいてみると、承認日、掲示場所、撤去日が赤のボールペンで記されてある。なんというか……、細かい。承認表にもそれらを記入する欄があるのに、わざわざ付箋で注釈するとは。生徒会の堅苦しさを垣間見た瞬間だった。

 僕が壁に貼り付けてある掲示承認書に目を通している間に、八戸先輩は携帯端末でやり取りしていた相手と合流したようで、「鶴賀君、ちょっといいかな」と、右奥にあるスペースに呼びつけた。

 そこには、職員用のデスクが窓の手前に一つ、残りの四つは向かい合わせで置かれている。おい、どんだけ机があるんだよってツッコミを入れたくなる衝動を堪えながら、右奥のデスクの前に立つ人物に向かい合った。

 八戸先輩の隣にいる男は、どうにもこうにも頼りない印象を受けた。僕と似てヒョロガリで、身長は僕よりあるけど、それが、より痩せ型を強調させる。ヘアースタイルにも興味が無いのか無造作に伸ばしたままで、前髪が両目を隠してしまっていた。僕も影が薄いけれど、この人は僕よりも気配を殺すのが上手そうだ。

「彼は、三年の千葉龍之介だ」

 あ、神奈川じゃなくて千葉だったか! 関東圏内の名前だって覚えてたのに、惜しかった。

 然し、名前負け感が否めない。

 強風で吹き飛びそうなほどガリガリなのに、名前に『龍』が付くとは、千葉先輩も色々と苦労していそうだと、勝手に想像して気の毒に思ってしまった。

「ちば……の……けです……」

 声、ちっさ!?

 僕の耳には『ちばのけ』としか訊こえなかったけど、この人、本当に生徒会でやっていけてるのか?

「龍之介は、ちょっとした有名人でね」

 声が小さいで有名というなら、なるほどたしかにと頷いてしまいそうだ。

「それ、やめ……れよ」

「数学に関して、龍之介の右に出る者はいない」

 嘘だろ……?

 龍之介って名前で、数学だと……?

 芥川龍之介の名前を拝所したわけじゃないのか……?

「付いた異名が〝数学の鬼〟だ」

 龍要素どこいった!?

 そこは『鬼』じゃなくて『数学の龍』って呼んであげて!

「極度の人見知りで、最初は声が小さ過ぎて苛々するかも知れないが、よろしく頼むよ」

「は、はあ……。鶴賀優志、二年です。よろしくお願いします」

 僕が自己紹介すると、千葉先輩はなにか引っかかったのか、「あの」と、おどろおどろしく僕に声をかけた。

「二年生の、つ……くんって、去年の一年の期末……、一〇位の人、だよね……?」

「そうなのかい? 凄いじゃないか!」

「いや、別に誇れるようなものではないですよ」

 家でやることが、本を読むか、漫画、アニメを見るか、ソシャゲをぶん回すくらいなもので、周りにいる同級生よりも勉強する時間が多いだけだ。

 だって、僕は友だちが少ないからね! はがない!

「親睦を深めたいのは山々だが、あまり時間が無い。二人とも、協力してくれ」

 そう言って、八戸先輩は本題を切り出した。

「鶴賀君、あの部屋が気にならないか?」

 八戸先輩は、右手の親指でクイクイっと指す。

「実は、あの部屋の鍵がだれかに盗まれたんだ」

「……はい?」

 それ、かなり大変なことじゃないのか?

「あの部屋は、来客用の応接室になっているんだが、その他にも、梅高に関する重要な書類などが保管してある」

「梅高の……、歴史文献や……、過去数十年の……、生徒会活動記録など……、です」

 補足ありがとうって八戸先輩が言うと、千葉先輩は後頭部辺りを掻いた。照れているんんだろうか……? 前髪で表情が見えないので、いまいちどうリアクションしているのかわからない。

「でも、それだけじゃない」

「他に……、なにかあった……?」

「あの部屋には、自分が隠していた宝が眠っているんだ」

 それって、もしかして……。

「八戸先輩。そういう物を学校に持ち込むのは、生徒会的にアウトではないんですか?」

「木を隠すには森、と言うだろう?」

 言うけど、言わねえよ……。

「だから、鶴賀君こそ、このミッションに相応しいんだ」

 ああ、だから八戸先輩は、あんなにひた隠しにしていたのか。もし、僕がこの話を先に知っていたら、絶対に手を貸すことはなかったと断言できる。

「八戸……、会長たちを……、どうにかするって……、訊いたんだけど……?」

「それも同時進行するつもりだ」

「いやいや、無理ですよ」

 どう考えても無茶苦茶だ。

 八戸先輩のお宝はどうでもいいけど、鍵は早急に見つけなければならないし、副会長にも復帰してもらわなければならない。それを同時進行させるなんて、時限爆弾を解体しながらわんこそばを食べるくらい意味不明で、急を要する件を両立させなければならないにも関わらず、それを僕一人に丸投げとかブラックにも限度ってもんがある。

「時間が足りないし、人員も不足してる。生徒会の面々は普段業務もこなさなきゃならないし、はっきり言って無謀ですよ」

 僕が苦言を呈しても、八戸先輩はかぶりを振った。

「どうしてできないか、を追求するより、どうすればできるか、を追求するんだ」

「出た……、八戸節……」

 やとぶし? いまのはブラック企業が掲げる経営理念じゃないの? って疑問に思っていると、やれやれって具合に大きな溜め息を吐いた千葉先輩が諦めムードで口を開いた。

「こうなると……、八戸は……、梃子でも……、考え方を……、曲げない……、から」 

が強過ぎる……」

 ただの変態だと思っていたけど、生徒会のブラック体制を築いたのは八戸先輩なんじゃないか? と、感じ始めていた。

「鶴賀君が優先して行うことは、わかっているかな」 

「馬車馬の如く働けってやつですか」

「まあ、それは当然ではあるけど」

 皮肉を吐いたつもりだったのに、それを『当然』とか言い出したよ。

「生徒会役員たちと、打ち解けることさ」

「え」

 待って? そんなことある?

 開始早々から詰んだんだけど……?








【感謝】

 この度は『女装男子のインビジブルな恋愛事情。』にお目通し頂きまして、誠にありがとうございます。皆様がいつも読んで下さるおかげで最新話をお届けできています。まだまだ未熟な私ですが、これからもご贔屓にして頂けたら幸いです。

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 作品を読んで、少しでも『面白い!』と思って頂けましたら、お手数では御座いますが『♡』を押して頂けますと嬉しい限りです。また、『続きが読みたい!』と思って頂けたましたら、『☆』を押して下さいますとモチベーションにも繋がりますので、重ねてお願い申し上げます。感想は一言でも構いません。『面白かったよ!』だけでもお聞かせ下さい! お願いします!(=人=)ヘコヘコ

【話数について】

 当作品は『小説家になろう』と同時進行で投稿しておりますが、『小説家になろう』と『ノベルバ』では、話数が異なっています。その理由は、ノベルバに『章』という概念が無く、無理矢理作品に反映させているため、その分、余計に話数が増えているのです。なので、『小説家になろう』でも、『ノベルバ』でも、進行状況は変わりません。読みやすい方、使いやすい方をお選び下さい♪

【作品の投稿について】

 当作品は『毎日投稿』では御座いません。毎日投稿を心掛けてはいますが、作業が煮詰まってしまったり、リアルが現実的に、本当に多忙な場合、投稿を見送らせて頂くことも御座います。その際は、次の投稿までお待ち下さると嬉しい限りです。予め、ご了承ください。

 これからも──

 女装男子のインビジブルな恋愛事情。

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