【完結】女装男子のインビジブルな恋愛事情。
二十二時限目 月ノ宮楓は燃えている[後]
「皆様、財布をおしまい下さい。お代は結構ですので」
「そういうわけにもいかないわ」
「いえいえ。交遊費は多めに頂いているので」
「さすがは月ノ宮家……、ガチだわ」
「がち……?」
なんだか貶されたような気もしないでもないのですが、佐竹さん程度に貶されたところで月ノ宮の品質が下がるはずもないので問題無し。
それに、チケット代だって、天野さんと二人きりというシチュエーションを購入したと考えれば安いものですし、こんなチャンスはそう訪れませんからね。
告白とまではいかないですが、せめて、下の名前で呼び合うくらい、天野さんとの関係を向上させないと優梨さんには勝てませんので、これは、そのための投資でもある。
優梨さんには、絶対に負けられない。
女装男子と現役女子高生、どちらが天野さんに相応しいか勝負です!
「楓ちゃん」
「は、はい? なんでしょうか……」
鳴りをひそめていた優梨さんに呼ばれて、体がビクッと跳ねた。
「いつも負担ばかりかけて本当にごめんね?」
「いえ、お構いなく……」
「いつか、お礼するから。ありがと」
まるで頑是無い無邪気な子どものように、にっこりと微笑んだ優梨さんは、心から謝意を表しているように目を細くしている。
な、なんなんですか急に……。
あんなに可愛らしい笑顔を向けられたら、天野さん一筋の私でも、少しだけクラっと……って、いけません!
優梨さんは好敵手であり、このイベントで少しでも差を縮めなければ、私の気持ち届かずに終わってしまう!
ここで私の首を狙ってくるとは、油断も隙もない方ですね……。
コホンと咳払い。
「では、早速参りましょう!」
「善は急げだよな、行こうぜ!」
「言わなくてもわかってると思うけど、善は急げの善は、配膳の膳じゃなくて、善行の善だからね?」
「アイノウ!?」
I know……どうして英語なのでしょう?
 I think ……佐竹さんは梅ノ原高等学園高校の入試を、どうやって突破したのか。
進学校ではないにしろ、学力はそれなりに求められる高校であるはずなのに、彼の学力……いいえ、言語能力と知識量の浅さは余りに粗末過ぎる。
私には、佐竹さんが『わざと馬鹿を演じている』ようにすら見える。
そんなことは有り得ないということを、佐竹さんの生活態度を見ていれば歴然ですし、私の思い過ごしでしょう。
けれども──。
仮にそうじゃなければ、とんでもない狸ですね……。
* * *
サンシャイニング水族館は、東京の観光スポットの一つで、ビルの中に作られた水族館として一躍有名になった。
その水族館に隣接されたプラネタリウムもこれまた壮大なスケールで、私の部屋の片隅で小さく眠っている家庭用プラネタリウムとは比較にもならない光量を放つ。
水族館、そして、プラネタリウム。
二つでも充分なレジャー施設ですが、更にこのビルには『ナンナンジャタウン』という施設があり、日本の美味しい食べ物が集まっているので、丸一日このビルで遊び倒せる仕様になっている。
……のですが、今日は時間の都合上、水族館とプラネタリウムのみになった。
「残念だったね、佐竹君。膳を急げなくて」
「まだ言うかよ!?」
思うに、いまの冗談は『ナンナンジャタウンで膳にありつく』と『善は急げ』を掛け合わせた駄洒落ですね、と説明したら、優梨さんは顔を真っ赤にして「説明されると恥ずかしいよう」って両手で顔を覆った。
「つか、どっかのベンチで休まねえ?」
日曜の電車移動、特に、都心部に近づくにつれて人が増加する。
東梅ノ原から新・梅ノ原へ徒歩、そこから池袋まで電車一本で行けるにせよ、新・梅ノ原からずっと立ちっぱなしでとなれば、佐竹さんの提案に賛成したい気持ちは山々ではあるのですが……。
「なにを年寄りめいたことを。それでも高校生なの?」
「ワンチャン年寄りかもなあ」
「どんなワンチャンスよ、それ……」
以前の私なら『ワンチャン……犬?』となりましたが、佐竹さんと会話を重ねて、ワンチャンスの略ということを理解した。
「もう少し頑張ろ? ね?」
──あとでジュース買ってあげるから。
──俺はガキか!?
佐竹さんのツッコミに対してふふと笑い、明るい声で「冗談だよ」と彼の頬を突く姿は、どこからどう見てもカップルらしい。
「時間が勿体ないから早くいこ?」
「だな。いこうぜ!」
さあ、ここから計画の始まりです。
お二人とも、作戦通りにお願いしますね……と、アイコンタクトを送る。
優梨さんと佐竹さんはそれに気づいて小さく頷くと、私は段取り通りに、天野さんに提案を持ちかけた。
「私は海月が見たいのですが、皆様はどうでしょうか?」
「うーん、佐竹君、なに見たい?」
しっかりと手を繋いで、『私たちは別行動をする』と意思表示をしている。
今更ではあるのですが、優梨さん……いえ、優志さんは同性と過度なスキンシップを取ることに抵抗はないのでしょうか? と、考えてしまう。
「やっぱ鮫だろ、鮫。アレだ、プテラノドンみたいな名前のやつ」
「メガロドン……かな? ごめんね。もうはるか昔に絶滅してるし、未だに生息していたら大問題だよ……」
──他の鮫でもいいなら付き合うよ?
──よし、決まりだな!
「レンちゃんはどっちが見たい?」
「そうね……」
と、考える人のように指先を顎に添えながら一考して数秒後、「海月かな」と顔を上げた。
素晴らしい誘導です、優梨さん。
鮫と海月、どちらが魅力的と考えるなら、女性ならキラキラしてフワフワした生物の方が興味があり、鮫は殿方に人気がある生物。
両極端の生物を出されて、『どちらかを選べ』と言われたら、『鮫』と答える女子は少ないでしょう。
可能性としてはなくはない話ですが、天野さんの趣味、思考を私なりに計算して生み出したこの二択で、鮫を選ぶ確率は0%と言ってもいいくらいの低確率。
「では、効率的に回りましょう!」
ここぞとばかりに、声を大にした。
「私と天野さんは海月を、佐竹さんと優梨さんは鮫を見つつ館内を散策。途中から合流で如何でしょうか?」
「それでいいんじゃないかしら。……本来なら、二人だけのデートだったんだし」
それって、私と天野さんのデートってこと……ではありませんよね。
「ユウちゃんも佐竹と一緒に回りたいでしょう?」
天野さんが一考していたのは、二人のデートを邪魔しない方法だったんですね、と頷いた。
「気を遣わせちゃってごめんね?」
「ううん。こちらこそよ」
──気にせず、楽しんで?
──うん♪
「よし、それじゃまた後でな!」
二人は入場ゲートを通過して、「鮫ってどこだ?」と言いながら、私たちから離れていく。
フフフ……、計画通り!
ようやく、念願のときがやってきた──。
最もオーソドックスなデートスポットで、天野さんと二人きり! まさに、夢のような時間! ここまで漕ぎ着けるのに、幾ら出費したでしょうか……いえ、それこそプライスレスですね。
お金では買えないモノを手に入れたんですから、このチャンス、絶対にモノにしてみせます!
【感謝】
この度は『女装男子のインビジブルな恋愛事情。』にお目通し頂きまして、誠にありがとうございます。皆様がいつも読んで下さるおかげで最新話をお届けできています。まだまだ未熟な私ですが、これからもご贔屓にして頂けたら幸いです。
【お願い】
作品を読んで、少しでも『面白い!』と思って頂けましたら、お手数では御座いますが『♡』を押して頂けますと嬉しい限りです。また、『続きが読みたい!』と思って頂けたましたら、『☆』を押して下さいますとモチベーションにも繋がりますので、重ねてお願い申し上げます。感想は一言でも構いません。『面白かったよ!』だけでもお聞かせ下さい! お願いします!(=人=)ヘコヘコ
【話数について】
当作品は『小説家になろう』と同時進行で投稿しておりますが、『小説家になろう』と『ノベルバ』では、話数が異なっています。その理由は、ノベルバに『章』という概念が無く、無理矢理作品に反映させているため、その分、余計に話数が増えているのです。なので、『小説家になろう』でも、『ノベルバ』でも、進行状況は変わりません。読みやすい方、使いやすい方をお選び下さい♪
【作品の投稿について】
当作品は『毎日投稿』では御座いません。毎日投稿を心掛けてはいますが、作業が煮詰まってしまったり、リアルが現実的に、本当に多忙な場合、投稿を見送らせて頂くことも御座います。その際は、次の投稿までお待ち下さると嬉しい限りです。予め、ご了承ください。
これからも──
女装男子のインビジブルな恋愛事情。
を、よろしくお願い申し上げます。(=ω=)ノ
by 瀬野 或
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