【完結】女装男子のインビジブルな恋愛事情。

瀬野 或

二百九十九時限目 春方のデートは突然に


 勉強卓の上には読みかけの本が置いてある。

 昨晩に読み終えた〈Do not dependent,〉。

 日本語に直訳すると『依存しない』となるが、どうしてハロルド氏はこの本に脈絡も無いタイトルを付けたのか最後までわからず、読み終えたあとも考えてみたけれど、いつの間にか寝てしまった。

「依存、か」

 あまり響きのいい言葉じゃない。

 どちらかと言えば、忌み嫌われる単語だろう。

 依存の全てが悪いことだとは言わないけれど、日常生活における『依存』は否定的な意見が多い。

 アルコール依存、薬物依存、恋愛依存──。

 最近では『過剰同調性』という言葉もちらほらと耳にするけれど、これも依存と似たカテゴリに属する言葉だと僕は思っている。

 本来の意味を簡単に表すと『空気を読み過ぎる』とか、『自己犠牲的』とか、『自己主張が苦手』などなど……。

 依存となにが同じなの? って訊かれたら上手く説明できないけれど、『そういう自分に依存している』ような気がする。まあ、僕にも当てはまる項目があるだけで『過剰同調性と依存行為は同じだ!』とするのは大間違い。これは単純に私見で、声を大にするような考えかたでもないのだから。

 勉強卓に放置しっぱなしだった本を棚に収める。随分と読み進めたものだ。照史さんから譲って貰った本と自分で買った本を合わせて一十六冊。これはもう『ハロルダー』と名乗っていいよね? ハロキストだとハルキスト──村上春樹作品を愛読する者の総称──と被るし……ああ、そう言えば本棚に眠ってるんだよなあ。そろそろ読み始めようかとも思うんだけど、気合いを入れないと読めないから順番が後回しになってしまう。

 独特な言い回しが嫌いなわけじゃないし、なんなら好きでもあるんだけどね。

 大衆娯楽に目が向いてしまうのは、僕の趣向がそうさせるからだろう。

「暇だ」

 梅高に入学してからこれまで、こういう日が無かったわけじゃない。いや、寧ろ多いほうかも知れない。ただ、忙しい日と忙しくない日の差が激し過ぎるんだ。

 問題が発生すると一週間くらい頭をフル回転させるもんで非常に疲れるけど、どこか楽しんでいる自分もいて、予定が無いと手持ち無沙汰になってしまう。

 だけど。

「僕から誘うのも難だしなあ」

 皆、休みってなにをして過ごしてるんだろう。

 佐竹は大体予想できる。

 佐竹軍団の連中とカラオケやボーリングとか、或いは、琴美さんのアシスタントをしてるかのどちらかだろう。夏の同人誌即売会まで期日が迫ってきたから、琴美さんからの揶揄いメッセージも来なくなった。忙しいのか暇なのかの判断がわかり易い人だ。

 琴美さんが暇なときは『いま、どんなパンツ履いてるのー?』や『裸の写真を送ってよー』みたいな、犯罪もいいところなメッセージを送りつけてくる。でも、その目的が『作品の資料として』だから怒るに怒れないのもあり、大概は既読スルーしているが、長らく返信をしないと『ねえどうしてへんしんしてくれないの』ってヤンデレな文章を延々と送りつけてくるから怖いんだよ、ガチで。

 そういうのは恋人の弓野さんにしてよって返したら『紗子は喜んで送ってくるから詰まらないんだもん』ですって。やあね奥さん。

 月ノ宮さんは勉強してるんだろうな。

 本来、会社を継ぐことになっていた兄が勘当されて、代わりに月ノ宮さんが会社を継ぐことになったっていうのも酷い話しだと思う。

 自分の将来が決まってしまっている人生なんて、楽しいわけがない──と思いきや、ご本人はやる気満々なんだよなあ。僕のやる気スイッチがどこにあるのか教えて欲しいくらいだけど、それを言ったらどうせ『向上心の無い方に、そんなスイッチがあると思いますか?』って返されそうだから、月ノ宮さんと会話するときはいまでも緊張したりする。肩の力を抜けばいいのに……いや、彼女の場合は上手くサボることに関しても一流だ。他人を上手く使って成果を上げるから、ある意味、女帝って言えなくもない。

 天野さんはなにをしているだろう。

「天野さん、か」

 そう言えば、と振り返る。

 天野さんとはこれまでに色々と約束をしていた気がするけれど、毎回あやふやになってしまっている気がする。

 言い出し難いんだろうか?

 それとも遠慮してる?

 ──なんてはずは無いだろう。

 いくら僕でも、その理由がわからないほど鈍感なラノベ主人公よろしくしているわけじゃない。

 柴犬の件で真っ先に協力してくれたのも天野さんだったし──ハラカーさんも当事者だったからってこともあるだろうけど──一番迷惑を掛けたのは天野さんだ。

 ふっと思う。

 佐竹の過去って参考になっただろうか、と。

「あれは別にいらなかったな」

 大して役にも立ってないからお礼は後々でってことで、天野さんにメッセージを送ろうとアプリを開いた。

「……なんて、送ればいいんだ」

 いまを春方と咲いた桜も散り、ほがらかな日差しが眠りを誘う今日この頃、如何お過ごしでしょうか──なんて書き出したら、改まり過ぎて気持ち悪いよなあ。

 かと言って──。

『やあ、天野さん。今日は絶好のお散歩日和だね。突然だけど僕とランデブーしないかい?』

 なんて書いたら、頭がおかしくなったと疑われてしまう。てか、ランデブーなんて今日日訊かないぞ……。

 散々悩んだ挙句、在り来りな挨拶を送って様子を見ること数分後、『おはよう』とだけ返信がきた。「おはよう」に対して『おはよう』と返すのは当たり前。

 問題は、このあとどう返すかだが……。

「これしかないな」

 積もりに積もった約束を、今回のお礼も兼ねてさせて欲しい──という旨を書いて送信した。








【感謝】

 この度は『女装男子のインビジブルな恋愛事情。』にお目通し頂きまして、誠にありがとうございます。皆様がいつも読んで下さるおかげで最新話をお届けできています。まだまだ未熟な私ですが、これからもご贔屓にして頂けたら幸いです。

【お願い】

 作品を読んで、少しでも『面白い!』と思って頂けましたら、お手数では御座いますが『♡』を押して頂けますと嬉しい限りです。また、『続きが読みたい!』と思って頂けたましたら、『☆』を押して下さいますとモチベーションにも繋がりますので、重ねてお願い申し上げます。感想は一言でも構いません。『面白かったよ!』だけでもお聞かせ下さい! お願いします!(=人=)ヘコヘコ

【話数について】

 当作品は『小説家になろう』と同時進行で投稿しておりますが、『小説家になろう』と『ノベルバ』では、話数が異なっています。その理由は、ノベルバに『章』という概念が無く、無理矢理作品に反映させているため、その分、余計に話数が増えているのです。なので、『小説家になろう』でも、『ノベルバ』でも、進行状況は変わりません。読みやすい方、使いやすい方をお選び下さい♪

【作品の投稿について】

 当作品は『毎日投稿』では御座いません。毎日投稿を心掛けてはいますが、作業が煮詰まってしまったり、リアルが現実的に、本当に多忙な場合、投稿を見送らせて頂くことも御座います。その際は、次の投稿までお待ち下さると嬉しい限りです。予め、ご了承ください。

 これからも──

 女装男子のインビジブルな恋愛事情。

 を、よろしくお願い申し上げます。(=ω=)ノ

 by 瀬野 或

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