【完結】女装男子のインビジブルな恋愛事情。

瀬野 或

■□■【一十六章 I will not go back today,】■□■


 学生の癒し、それは休日である。

 勉強に明け暮れた日々の疲れを癒すには、二日でも事足りないとは思うけれど、休みを二日も設けてくれるのだから文句は言えない。ただ、金曜日の朝は気怠く、今日をなんとか持ち堪えれば休みだ、と自分を鼓舞しなければ起きるのもままならないのは怠け癖が付いているからだろうか? いいや、僕は怠けていないぞ。どこぞのウェーイの民と一緒にしないでくれ。しかしいっかなこれまたどうして、休みの日になると急用ができる。

 土曜日は、いつも鬱々した気分で朝を迎えるのだ。




 桜の木は青々とした葉をつけた。

 僅かに残っていた冬の寒さも何処へやら、厚手のパーカーを着ると汗ばむくらい気温も安定している。然し、この時期になると雨の日が重なるのが鬱陶しい。梅雨前線がどうのこうのって、お天気アナウンサーが楽しそうに話していたのはついさっき。昔は『バイオ前線』と訊き間違えて、ゾンビウイルスが発生したのかと恐怖のドン底に叩き落とされたがパンデミックは起こらず、どこかの国では戦争やテロが頻発しているけれども、我が国日本は高齢者問題や年金事情、隣国とのいざこざは絶えないが平和だと言える。

「平和、ねえ……」

 リビングで一人のんびり寛ぎながら珈琲を飲むのは平和そのものの風景だが、どうせ今日も僕の平和を脅かそうとする者が現れるんだろう……そう感じてならない。偶の休みくらいは自由自得な生活を送りたいものだ……あれ? いつもはこのタイミングで携帯端末が鳴って、面倒ごとに巻き込まれるんだけど、本当に休みでいいの? べ、別に期待なんてしてないんだからね!?

「連絡は、無しか」

 懐に置いた携帯端末は、うんともすんとも言わない。

 ──妙だな。

 某・頭脳は大人の名探偵の真似をしてみたが、妙なことはさして起こっていない。

「それならそれで、まあいいや」

 飲み終えたカップを台所のシンクに入れて、自分の部屋に戻った。


 

コメント

コメントを書く

「恋愛」の人気作品

書籍化作品