【完結】女装男子のインビジブルな恋愛事情。

瀬野 或

二百七十八時限目 佐竹ゾーンが生まれるまで ②


 放課後のマックは、帰宅帰りに寄り道をする学生が店内の三割ほどを占めていた。

 この近所にはライバル店も存在するけれど、安価な値段で小腹を満たすにはマックがいい。それでも、あれやこれやと注文すればそこそこに値段は張る。

 常に金欠状態である学生が、効率よくマックを利用するとなれば、クーポンの重要性は無視できないだろう。僕らはポテトのLサイズをクーポンで購入して、僕はチーズバーガーとファンタ──どうしてこういう店に来ると炭酸を選びたくなるのか不思議だ──佐竹はハンバーガー二つとコーラ、流星はハンバーガーを注文せず、ホットコーヒーのみをオーダーした。

 手頃なテーブル席を選んで腰を下ろし、僕らはポテトを摘み始めた。さて、ふにゃふにゃポテトはどこかな? 出ておいでーっと探していたら、「なにしてんだ」と流星にツッコまれてしまった。まさか流星はカリカリ派!? よろしい、ならば戦争だ。

「優志はふにゃポテが好きなんだよな、ガチで」

 おお、今回だけは後付けされた『ガチで』に賛同できる。そう、僕はガチでふにゃポテが好きなのだ。

「どう考えてもカリカリのほうが美味いだろ」

「訊き捨てならないね──まるで世間様の総意みたいに言ってるけど、カリカリのほうが美味しいというソースはあるの?」

「俺はやっぱりマスタードソースだな! 普通に」

 佐竹、そのソースじゃないよ……いや、たしかにマスタードソースは美味しいけどさ。

「きのこたけのこ戦争くらいどうでもいい」

 なん、だと……?

「オレはガルボ派だからな──って、ここに来た理由はポテトがどうのって話し合うタメじゃないだろ」

「ああそうだった。忘れてた」

 ここにきた理由は、佐竹の過去になにがあったか……だった。でも、どうして佐竹の過去なんて知りたいと思ったんだっけ?

「俺のばなを訊きたいって話だったな……別に大したことないぞ」

「そうだろうな」

 辛辣かよ!? と佐竹が流星にツッコむ。

「でも興味はある」

「ツンデレかよ……」

「クーデレだね……」

「お前ら殺すぞ。いや、二回くらい死ね」

 今日のエリスちゃんは毒舌がマキシマムですね。『そんなエリスちゃんもまた可愛いよ!』とか冗談でも言ったらINT5だろう。息の根止める五秒前ね。MK5の派生形として流行るかもしれないな。……数一〇年前だったらの話だけど。

「つか、そこまで俺の過去が知りたい理由ってなんだ?」

「えっと……」

 他人に話すにはプライベート過ぎる内容だけに、どうしようかと言葉を探していると、流星が鼻で笑った。

「どうせお前のことだから、また厄介ごとに巻き込まれたんだろ。そして、その件で参考にしたいから義信の過去が知りたい──違うか」

「そんなところだね」

 そんなところの騒ぎではなく、ほぼほぼ正解なんですけどね。妙に感が鋭いのは、流星の中にある『女の勘』が働いているのだろうか? もうこの際だから、『メイド探偵エリスの事件簿〜男装女子が毒舌を駆使して犯人を追い詰めるそうです〜』でいいんじゃないかな? ちょっと読みたいかも知れない……これが終わったらなろうで検索してみよう。

「まあなんだ。よくわかんねえけど、そういうことなら協力するぜ! アレだ……三人寄れば文殊の知恵!」

「別に知恵は必要としてないんだ。佐竹、なんかごめん」

「俺の親切心を返せ!?」

 茶番はいいから早く話せ、と流星はポテトをもぐもぐしながら切り出した。

「話す気失せるわぁ、マジで……まあいいけど。俺が中学の頃の話な?」

 佐竹はコーラの二口三口飲んでから、中有学時代を思い出すかのように眼を閉じて、ゆっくりと瞼を開いた。




 * * *




 優志が知りたかったのは、どうして俺がクラスを纏めようと躍起になってるのかって理由だよな? よくある中学生日記だけど……まあ、これが参考になるんならいいか。

 俺が中学に入学してから、数ヶ月の間は特に問題も無い、ごく普通のクラスだったんだ。状況はいまと似てるかもな。慣れない教室、真新しい環境、見知らぬクラスメイト──中には同じ小学校だったヤツもいたけど。入学式から数ヶ月が過ぎると、気の合うヤツ同士がグループを形成するようになる。

 俺はこの風習があまり好きじゃないんだが……あ? 主観を入れるなって? 主観ってなんだよ。うるせえ、馬鹿で悪かったな。

 コホンコホン。

 気が合うヤツが集まるってことは、そのグループの色みたいもんが生まれるだろ? カテゴリって言うのか? まあ、そこは中学、高校と変わらずだよな。アニメや漫画、ゲームが好きなヤツ、音楽が好きなヤツ、スポーツだ好きなヤツ。

 そして──ちょっと悪ぶりたいヤツらな。

 悪ぶりたいって言っても、純粋なヤンキー体質のヤツってこの頃はいなかったんだよ。ただ、眼つきが悪いとか、見た目の威圧感で遠ざけられているヤツもいた。

 そういうヤツらはそういうヤツらで集まるもんで、自分たちがどうしてハブられてるのか気にくわなかったんだろうな。フラストレーションも溜まってたんだろう、どんどんとエスカレートしていって、素行の荒さが目立ち始めたんだ。

 そうなると、ソイツらがクラスを掌握し始めるだろ? 逆らえばなにをされるかわからないもんで、夏休み前にはもう、ソイツらがクラスを牛耳るようになった。

 ここからだ。

 俺がいたクラスの歯車が狂い始めたのは──。

 夏休みが明けたら、ソイツらがヤンキーと呼ばれるようになってな。不良なんて呼びかたをするのは時代遅れ? そんなもんか? まあそれでよ、とあるグループのヤツらがそのヤンキーグループを陰で『DQNドキュン』と呼んでいたのをヤンキーグループの一人が訊いちまって、それからそのグループに対する嫌がらせが始まった。

 え、どのグループが言ったって?

 そこはほら、想像に任せる。

 最初はパシリから始まって、カツアゲ、少しでも反抗したら暴力にまで発展した。でも、誰もソイツらを教師にチクるヤツはいなかったんだ。

 バレたら今度は自分が標的になる──誰だって嫌な思いはしたくないだろ。酷い話だと思うが、これが現実なんだよ。ガチで。

 その後も色々と問題が続いたんだけどな、クラスの誰かがソイツらが暴行している姿を携帯端末で動画撮影して校長に直訴した。

 どうにもできないなら、この動画をSNSにアップし拡散するって脅してな。

 そんなことになれば学校の評判はガタ落ちだ。

 教師たちはついに重い腰をあげた。

 動画に映っていたヤツらは停学処分になったけど、ソイツらが学校に戻って来ることはなかった。……これは推測でしかないが、噂になっていたのは、学校側とソイツらの親との話し合いがあって、ヤンキーグループのヤツらは退学処分になったんじゃねえかって。

 これにて一件落着──と思いきや、そうは問屋がなんとやらだ。

 ヤンキーグループが残していった爪痕がクラス連中の心に突き刺さったまま日常に戻れるはずも無く、起こるべくして、新たな問題が発生したわけだ。

 DQN呼びした連中の一人が学校に来なくなり、それが連鎖するかの如く、どんどんと学校を休むクラスメイトが増えていった──。




 * * *




「──ここまでで、なにか質問はあるか?」

 想像を絶するような重苦しい内容に、僕と流星は言葉がでなかった。

 佐竹はさらりと説明したけど、どう考えても酷い話だ。こんな過去を背負っているのに佐竹が笑顔を作れるのは、それだけの経験をしている証拠だったのだ。僕らが佐竹を弄っても、佐竹は冗談半分で笑い飛ばす。それこそが佐竹の強さだったのかも知れない……そうだ。宇治原君が佐竹を貶めようとしても許したのは、過去のいじめを投影したからだとも言えるんじゃないか? 二度と同じてつを踏むわけにはいかないと割り切った。そう考えれば色々と辻褄が合ってくる。

「校長に直訴したのはお前だろ、義信」

「マジかよ、当たりだ。どうしてわかったんだ? 普通にガチで。俺が密告したなんて一言も出してねえのに」

「話を訊いてて、お前以外に出来そうなヤツがいなかった。それだけだ」

 僕もそれに頷く。

「──で、まだ話途中でしょ? 佐竹、続き」

「おう。……でも、その前に便所な」

 佐竹は「やっべやっべ」と口走りながら、足早にトイレへと駆け込んでいった。

「いじめか」

 流星が呟く。

 これは多分、僕に向けられた言葉だろう。

「うん」

「曰く言い難しって顔に書いてあったから、オレは直ぐにわかった」

 そして。

 あまり首を突っ込み過ぎるな、と言葉を続けて険しい表情で釘をさす。

「そのつもりだよ」

 他校の事情に干渉するのはマナー違反だ。

 けれど──。

 もう既に、頭半分くらい突っ込んでるんだよなあ……。

「お節介が更にことを荒立てる場合もある。覚えておけ」

「うん。ありがと」

 僕が感謝の言葉を述べたのがそんなに珍しかったのか、流星はくすりと笑った。








【感謝】

 この度は『女装男子のインビジブルな恋愛事情。』にお目通し頂きまして、誠にありがとうございます。皆様がいつも読んで下さるおかげで最新話をお届けできています。まだまだ未熟な私ですが、これからもご贔屓にして頂けたら幸いです。

【お願い】

 作品を読んで、少しでも『面白い!』と思って頂けましたら、お手数では御座いますが『♡』を押して頂けますと嬉しい限りです。また、『続きが読みたい!』と思って頂けたましたら、『☆』を押して下さいますとモチベーションにも繋がりますので、重ねてお願い申し上げます。感想は一言でも構いません。『面白かったよ!』だけでもお聞かせ下さい! お願いします!(=人=)ヘコヘコ

【話数について】

 当作品は『小説家になろう』と同時進行で投稿しておりますが、『小説家になろう』と『ノベルバ』では、話数が異なっています。その理由は、ノベルバに『章』という概念が無く、無理矢理作品に反映させているため、その分、余計に話数が増えているのです。なので、『小説家になろう』でも、『ノベルバ』でも、進行状況は変わりません。読みやすい方、使いやすい方をお選び下さい♪

【作品の投稿について】

 当作品は『毎日投稿』では御座いません。毎日投稿を心掛けてはいますが、作業が煮詰まってしまったり、リアルが現実的に、本当に多忙な場合、投稿を見送らせて頂くことも御座います。その際は、次の投稿までお待ち下さると嬉しい限りです。予め、ご了承ください。

 これからも──

 女装男子のインビジブルな恋愛事情。

 を、よろしくお願い申し上げます。(=ω=)ノ

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