【完結】女装男子のインビジブルな恋愛事情。
二百七十七時限目 佐竹ゾーンが生まれるまで
部屋でホットミルクを啜りながら、柴犬の相談内容を思い出していた。
『自分の彼女が被害を受けないようにしたい』
明日からは無視だけでなく、物理的にも精神的にも攻撃をしかけてくるだろうと予想される。これはもう決定事項に等しい。そのとき、柴犬がどういった行動を取るのか予測を立てなければならない。
だけど、中学時代の柴犬と、いまの柴犬は大分違う。
なんなら、別人と言っても過言じゃない。
子犬は子犬らしくしてくれていれば、まだ対策も立てられたのに、中途半端に大人になったから余計に頭を悩まされる。
時計の短針が、九の数字から一つ進んだのを目の端で見届けてから、幕の張ったホットミルクをもう一口啜った。
問題を解くときには珈琲が合うけれど、今日はダンデライオンで美味しい珈琲を飲んだので、わざわざ不味いインスタントを飲もうとは思えなかった。それゆえにホットミルク。たまには悪くない。ココアの粉があれば文句無しだったけど──欲を言えばミロがいい──鶴賀家はココア的な粉をストックする習慣が無い。無くなったら最後で、次に自宅でココアを飲める日は数ヶ月後か、半年後か……一年後という可能性もあり得る。
父さんも母さんも、リビングにいるときは珈琲かお茶、それかビールだもんなあ。大人は毎日のようにビールを飲むのに対して、僕ら子どもに炭酸飲料を毎日飲ませないというのは不公平ではないか? 大人はよくて子どもは駄目……未成年だから? コーラは未成年が飲んでも問題は無いはずだぞ。大人は働いているからいい、という主張をするのであれば、子どもは勉強が仕事だ。つまり、子どもだって大人同様に働いていることになる。ならないか。
よくよく考えたら、僕はそこまで炭酸飲料に執着していないし、無ければ無いで問題は無かった。
いつもの悪い癖だ……。
いま考えるべきは『毎日炭酸飲料を飲むにはどういう主張をすればいいのか』ではなく、ハラカーさんをどうやって危機から回避させるかだ。
両手で頬を叩いて気を引き締める。
これから先、数日は苦難に堪えてもらう他にない。
相手がどういう行動を見せるか、それが重要だ。
高校生がどういういじめを行うのか、それを手っ取り早く知るのは、SNSで調べるのが手っ取り早い。
いじめを行うヤツらは、大抵脳が足りていないので、さも誇らしげに動画を自身のアカウントにアップする。それが拡散されて炎上するまでがお決まりのルート。それなのにいじめを行なっている動画が晒され続けるのは、過去からなにも学んでいない証拠だ。バイトテロ動画も同様。自分がヒーローになった気分なのだろうけれど、その行い自体ヴィラン・オブ・ザ・ヴィラン。
まあ、調べなくても予想はできるけれど、資料は集めておこうか。
世界最大級と言ってもいい呟き型SNS。そこで『いじめ 動画』と検索すると、阿呆の愚行が出るわ出るわ……コイツら、本当に僕と同年代? チンパンジーじゃないよね?
やはり、一番晒されているのは暴力行為だ。笑いながら相手に暴行を加えている様はサイコパスのそれにも匹敵するけれど、加害者の彼らは『ネタ』なんだろう。他人を殴りたいのなら正式な場でやるべきだ。格闘技なんて打って付けじゃない? でも、いじめを行うヤツらの大半は度胸も無いのに粋がりたいだけの快楽主義者だ。相手はよくて自分は駄目、そんな理屈が通るはずないのに。
丁度胸糞が悪くなったところで、一息入れようとホットミルクの入ったコップに手を伸ばす。
すっかり冷めたホットミルクは、なんと名称すればいいだろう? アイスミルク? 冷めた牛乳? 牛乳の概念が崩壊しそうになったので、僕は考えることをやめた。
冷めたアイスミルクをぐいっと呷り、『冷めたアイスミルクは草』なんてコメントが右から左へと頭の中で流れた頃、父さんと母さんが帰宅。「ただいまー」という声が玄関から訊こええた。
もうそんな時間か。
損な時間の費やし方をしたな……なんて、全く上手くもないことを思い浮かべながら、僕は部屋を出た。
* * *
新学期二日目の放課後。
新しい教室にも感動すら感じない僕だが、クラスメイトたちは未だに慣れる様子も無い。あと数日すれば慣れるだろうから、『なんだか上級生になったみたいだな、ガチで』という台詞を訊くことも無くなるだろう。
「佐竹、それもう一〇〇回くらい訊いたから」
「そんなに言ってねえよ!?」
今日も佐竹は平常通り運行しております。
そんな佐竹を見て、そうだ、と思い立った。
佐竹義信という男は、このクラスの実質的なリーダーである。僕が考えるに、彼がクラスを一つに纏めようとしているのは、予め問題が発生しないように行動していると推測するが、この考えに至る前──中学時代はどうだったんだろうか? 中学でもいまと同じように行動していたら、それこそ病気なんじゃないかと疑いたくなるけれども、そうせざるを得ないようなできごとがあったのかも知れない。
「佐竹って、中学時代もそんな感じだったの?」
「進級のことか?」
これは僕の言葉が足りてなかったと反省。
「佐竹はいつもクラスの人間関係を意識しているけど、中学時代もそうだったのかなって」
僕の質問に、佐竹は目を丸くした。
「いきなりどうした? 普通に」
……もう、ツッコむまい。
「佐竹って、クラスを纏めようと必死じゃない? そういう考えに至った理由が知りたくて」
「面白そうな話だ、混ぜろ」
そう言って横から首を突っ込んできたのは、このクラスで唯一、佐竹ゾーンから逃れる術を持っている雨地流星だった。
──アマっちもかよ。
──そのあだ名で呼ぶな殺すぞ。
流星の伝家の宝刀が披露されたところで、僕は咳払いをした。
「話たくないなら強要はしないし、場所を変えたいなら場所を変えるよ?」
「またダンデライオンか? お前ら好きだな」
流星は僕らを嘲笑するけれど、僕は知っている。僕らが行かないような時間、曜日を選出して、流星がダンデライオンに通っていることを。
照史さんに訊いたので、間違いない。
あまり常連客を舐めないほうがいいよ、流星。
「そんじゃ、らぶら」
「殺す」
食い気味に発せられた言葉は、さっきよりも迫力があった。そりゃそうだよね。誰が好んで自分が働いている店にお茶しに行くのか……いや、そういう人もいるにはいるか。私服で入口から入って優越感に浸りたい系バイトの先輩。噂でそういう趣味があるバイト先の先輩の話を見訊きしたけど、アレはいけない。だって結局『やっぱりオレがいないと駄目なんだよなー』って、裏方に入り込んで作業をし出すのだ。こっちはアンタがいないから伸び伸びと仕事をしていたのに──という悲痛な叫びがそこには記入してあった。
「ダンデが駄目なら、どこならいいんだよ。ガチで」
その略し方はどうなんだ?
ドラゴボくらい違和感があるんだけど?
「なら、オレの行き着けの店にするか」
「流星の行き着けって……うどん屋でしょ」
「ああ。春の新作をまだ食ってないんだ」
うどん屋でお茶をする高校生がいてたまるか!
そうして辿り着いた答えは、ダンデライオンから少し離れた場所にあるマックだった。
便利過ぎるでしょ、マクダーナルズ。
いつでもそこに、というキャッチフレーズは伊達じゃなかったようだ。
【感謝】
この度は『女装男子のインビジブルな恋愛事情。』にお目通し頂きまして、誠にありがとうございます。皆様がいつも読んで下さるおかげで最新話をお届けできています。まだまだ未熟な私ですが、これからもご贔屓にして頂けたら幸いです。
【お願い】
作品を読んで、少しでも『面白い!』と思って頂けましたら、お手数では御座いますが『♡』を押して頂けますと嬉しい限りです。また、『続きが読みたい!』と思って頂けたましたら、『☆』を押して下さいますとモチベーションにも繋がりますので、重ねてお願い申し上げます。感想は一言でも構いません。『面白かったよ!』だけでもお聞かせ下さい! お願いします!(=人=)ヘコヘコ
【話数について】
当作品は『小説家になろう』と同時進行で投稿しておりますが、『小説家になろう』と『ノベルバ』では、話数が異なっています。その理由は、ノベルバに『章』という概念が無く、無理矢理作品に反映させているため、その分、余計に話数が増えているのです。なので、『小説家になろう』でも、『ノベルバ』でも、進行状況は変わりません。読みやすい方、使いやすい方をお選び下さい♪
【作品の投稿について】
当作品は『毎日投稿』では御座いません。毎日投稿を心掛けてはいますが、作業が煮詰まってしまったり、リアルが現実的に、本当に多忙な場合、投稿を見送らせて頂くことも御座います。その際は、次の投稿までお待ち下さると嬉しい限りです。予め、ご了承ください。
これからも──
女装男子のインビジブルな恋愛事情。
を、よろしくお願い申し上げます。(=ω=)ノ
by 瀬野 或
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