【完結】女装男子のインビジブルな恋愛事情。
二百六十六時限目 鶴賀優志は残された時間の中で答えを求める
幽霊なんて非科学的なものを証明するには、とんでも理論を地道に検証していくしかない。どこかの大学名誉教授は、この世の全ての超常現象は科学で証明できると豪語していたけど、本当にそんなことができるのであれば、僕もその実験に是非とも参加してみたいところだ。
実際に、霊界と交信を試みた学者はいる。
かの有名なトーマス・エジソンも、かつて、霊界と通信するための電信装置を開発した。その実験はオカルト的な要素ではなく、未知なる世界への探究心から来ていたようだ。
人の記憶と魂は宇宙と繋がっている──それを証明しようとしたエジソンは、宇宙図書館の存在を証明したかったのかも知れない。
だが、またたび屋で起きている騒動と宇宙図書館との関連性は無い。もう一つの世界、パラレルワールドもまた同様だ。考えかたは間違っていないけど、方向性を履き違えた──そんなところだろう。
「佐竹にしては及第点じゃないかな……けど、パラレルワールドは関係無いと思うよ」
ま、そうだよなーと、佐竹は苦笑いを浮かべてがくっと崩れるようにベンチに座った。ぎしりと木製のベンチが揺れる。
「お前はどう考えてんだよ」
「どうって?」
「俺の説が違うっつーなら、お前はもっと具体的な答えを持ってんだろ?」
具体的な答え……それもどうだろうか?
そもそも僕は、幽霊が存在してもいいとは思っているけれど、その実、幽霊なんて存在しないだろうとも思っている。
サンタクロース、みたいなものだ。
本当に存在すれば夢が広がるけれど、トナカイが引くソリで夜空を駆け巡るサンタなんていないと知っている。職業というか、ライセンス的な意味でサンタクロースは存在しているが、彼らは童謡や絵本に登場するサンタではない。
僕の中にある幽霊という存在は、そういう『非現実的な存在』に該当する。
ネッシーも、イエティも、ビッグフットもチュパカブラも、いたらいたでいいと思うけど、捜索隊は絶対になんの成果を得られないのだ。
そんな超常現象に対して、『具体的な答え』を所望されてもなぁ……。
霊能力者を連れてきて、「嫌な感じがします」と言わせれば、おわかりいただけるだろうか? リプレイでもう一度すれば、満足の一つや二つもしてくれるだろうけれど、そんな皮肉を吐いたところで不毛な議論になるだけだ。
僕は霊能力者じゃないし、霊媒師でもない普通の高校生だから、自分の丈にあった知識しか持ち合わせていない。でも、それらを工夫して解を導くことは可能だと思う。辻褄は合わないかも知れないし、盛大に間違うかも知れない。
けど。
望まれているならば、出せる限りの答えは用意しておかなければならない──仁義とはそういうものだろう。
「今は答えられないけど、それなりの答えは用意する……つもりではある」
「そんじゃ、楽しみに待ってるぜ。ガチで」
ガチられてもなあ……と僕は笑った。
* * *
部屋で朝食を済ませてから、僕は一人で部屋を出た。
佐竹が一緒に行動したそうにしていたが、単独行動が板についている僕に、突拍子もない言動をする佐竹がいたら正直に言うと邪魔でしかない。だから、オブラートとを更にオブラートに包むくらい体よく断って、佐竹を部屋に残した。
答えを用意する……と簡単に言ったものの、その答えを導き出す時間はあまり無い。腕時計で時刻を確認する。タイムリミットまで三時間くらいか。一八〇分で全ての謎を解き明かすのは不可能だから、無難に、彼、彼女たちが妥協できるラインを目指す。
僕はトイレ横にある喫煙スペースに立ち寄って、ブラックコーヒーを購入した。
缶のブラックコーヒーほど水っぽくて飲めたものじゃないのに、どうしていつも買ってしまうのかな……と思いながら、それを喉に流し込んだ。ひんやりとした液体が胃に伝わり、体中を冷やしていくのがわかる。ホットにしておけばよかったと後悔。
さて、始めますか──。
ジーンズのポケットから携帯端末を取り出して、朝食後に『またたび屋の謎』と題して箇条書きしたメモを開いた。
昨夜、ここで月ノ宮さんに披露した推察は省き、残っている疑問に焦点を合わせる──非現実的過ぎる謎だな、と思う。これならまだ、隠された上履きの行方を探すほうが簡単だろう。上履きは物体だ。燃やされていない限りは実在する。
だが、幽霊はどうだ。
そういう霊的存在はファンタジーであり、屏風に描かれた虎を捕まえるレベルで立証は難しいだろう。それでも一休さんはその課題をクリアしたのだから、僕も頓智を働かせなければならない。
空になった空き缶をゴミ箱に入れてから、向かった先は一階にあるフロント。
新聞を広げていた恰幅のよい男性従業員は、退屈そうにパソコンの画面と睨めっこをしている。エゴサかな? まあ、それもあるだろうけれど、予約客の確認でもしているのかも知れない。
「こんにちは」
と、僕は彼に声をかけた。
本来ならば「おはようございます」が適切だ。然し、同じ人に二回も同じ挨拶をするのもどうか? と思い、こっちの挨拶を選んではみたけど、違和感だけが喉奥に残る。
「ああどうも、こんにちは」
彼はくるりと椅子を方向転換させて、僕のほうを向いた。相変わらず見事なビールっ腹だ。あの脂肪を燃やすには、ライザップも苦労するだろう。多分。知らないけど。
「ちょっとだけお時間いいですか?」
「ええ、構いませんよ。見た通り、時間を持て余しているので」
そう言って笑う彼の表情からは、疲労が見て取れた。
「随分とお疲れですね」
「ははは……。集客が見込めないこの時期でも、やれることはやっておかないといけませんから。貧乏暇無しってやつです。もっとも、今は休憩みたいなもんですけどねぇ」
暫し話を訊くと、今は部屋の掃除や薪作りなど、雑務をこなしている従業員がほとんどで、男性従業員は彼を残して外に出払っているらしい。
外回りだと、山の下にある店にチラシを置いて貰う交渉がメインで、薪集めは若い集に任せているようだ。
若い従業員なんていただろうか?
主に裏方の雑務をこなしているようで、温泉の掃除も若い従業員に任せていると彼は言った。
「そう言えばお客様、幽霊とはお会いしましたか?」
思い出したかのように、彼は僕に訊ねた。
「いいえ。僕も、連れも、それらしいものは見てなくて、どうしてそんな噂が流れてるのか不思議がってます」
それらの噂はお札のせいだ、という理由は伏せておく。
「そうでしょうそうでしょう? でも、見える人には見えるものなんですかねえ……」
「心当たりは? 例えば、この旅館で不慮の事故があったとか」
いえいえ、と彼は否定した。
「長年営んでいますが、そう言った話も無い平凡な旅館ですよ」
だとするならば、どうして……。
「おっと、そろそろ仕事に戻らなければ。それでは、残りの時間、どうぞごゆっくりお楽しみ下さいませ」
「ありがとうございます」
彼は再びパソコンと向き合って、カタカタとキーボードを打ち始めた。
【感謝】
この度は『女装男子のインビジブルな恋愛事情。』にお目通し頂きまして、誠にありがとうございます。皆様がいつも読んで下さるおかげで最新話をお届けできています。まだまだ未熟な私ですが、これからもご贔屓にして頂けたら幸いです。
【お願い】
作品を読んで、少しでも『面白い!』と思って頂けましたら、お手数では御座いますが『♡』を押して頂けますと嬉しい限りです。また、『続きが読みたい!』と思って頂けたましたら、『☆』を押して下さいますとモチベーションにも繋がりますので、重ねてお願い申し上げます。感想は一言でも構いません。『面白かったよ!』だけでもお聞かせ下さい! お願いします!(=人=)ヘコヘコ
【話数について】
当作品は『小説家になろう』と同時進行で投稿しておりますが、『小説家になろう』と『ノベルバ』では、話数が異なっています。その理由は、ノベルバに『章』という概念が無く、無理矢理作品に反映させているため、その分、余計に話数が増えているのです。なので、『小説家になろう』でも、『ノベルバ』でも、進行状況は変わりません。読みやすい方、使いやすい方をお選び下さい♪
【作品の投稿について】
当作品は『毎日投稿』では御座いません。毎日投稿を心掛けてはいますが、作業が煮詰まってしまったり、リアルが現実的に、本当に多忙な場合、投稿を見送らせて頂くことも御座います。その際は、次の投稿までお待ち下さると嬉しい限りです。予め、ご了承ください。
これからも──
女装男子のインビジブルな恋愛事情。
を、よろしくお願い申し上げます。(=ω=)ノ
by 瀬野 或
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