【完結】女装男子のインビジブルな恋愛事情。

瀬野 或

■【一十二章 Wonder for get,】■


 バレンタイン騒動は、宇治原君の〈ケジメ〉により終止符が打たれた。

 彼の所業は、『自意識過剰な利己主義の暴走だった』、と言わざる得ない。

 革命を掲げた彼は、英雄と謳われたナポレオンにはなれず、振り翳した刃も粗末な物であり、自体の収拾を図るのであれば、もっと効率よく早急に終わらせられたかもしれない。

 そう、今になって思う。

 それができなかったのは僕の至らなさゆえ──だとするならばそれも否めないが、巻き込まれただけの僕が自体の収拾に『これいっかなどうしたものか』と思案に暮れるのもおかしな話だ。だから僕は悪くない。全面的に悪いのは宇治原君であり、こうして事件を振り返ると呑み下した溜飲も上がってきて、吐き気を催すくらい苛々してくるのだが、誠意ケジメを持って潔しとした彼も、彼と共に革命に参加した彼らも、今ではいつも通り、佐竹と肩を並べて雑談に興じている。

 これ以上終わった事を蒸し返すつもりはないし、一番の被害者である佐竹があの調子だからなぁ……。

 然りとて、爪痕は残った──。

 あの日を境に、月ノ宮さんとは碌に話をしていない。

 一時はそういう場を設けようともしたけれど、顧みて他を言うかのように、言葉巧みに躱されてしまった。

 三組全体を視れば友情が深まり、より強固な絆で結ばれたようだ──昨日の敵は今日の友、なんて釈然としないが──けれど、僕らの状況は芳しくない。

 佐竹は事態の収拾に当たり、学校に来て直ぐに彼らの元へ向かう。なので、教室で顔を合わせても簡単な挨拶しか交わさずなのだが、宇治原君の事を思えば納得もできる。

 そして宇治原君本人は? と言うと、あの日から僕を積極的に避けるようになった。

 僕としては別に普段と何も変わらないのだけれど、必要以上に僕の机に近づこうとしない。

 以前なら佐竹に用事がある際、佐竹の机までやって来たけれど、今は遠くから佐竹を呼んで、佐竹が来るのを待つスタンスに変わった。

 その変化を佐竹自身を理解しているようで、もう少し、熱が冷めるまでは僕と距離を置く事にしたらしい。概ね正しい判断だろう、変に彼を刺激すれば何をするかわからない。

 問題は別にある──。

 月ノ宮さんと天野さんの関係性が微妙になり、互いにぎこちなさが目立つようになった。

 教室で挨拶は交わすけれど、それ以上踏み込むような事はせず、自分達の輪の中へ隠れるような日々が続いている。仲のいい者同士で集まるのは当然であり、それは三組だけの話ではない。一つのクラスに四つ、五つグループが形成されるのは必然で、何もおかしい事は無いのだが。とどのつまり、僕らの関係性は〈普通〉に回帰したのだろう。

 『今までが特殊だった』──ただそれだけで、これこそが本来あるべき姿なのだ。

「めでたしめでたし……っと」 

 それにしても、今回のハロルド・アンダーソンの作品は酷かった。

 自己犠牲で救った世界のその後があまりにも無秩序で、彼が救った世界は、本当に救うに値する世界だったんだろうかと、なかなかに後味が悪い……いやはや本当に、どっかの誰かさんと重なって嫌になるよ──そんな感想を抱きながら本を閉じて鞄の中にしまう。相変わらずぐちゃぐちゃに絡まったイヤホンのコードにうんざりしたが、直すのは後回し。そろそろ、昼休みの終わりを告げる予鈴が校内に響くだろう。

 ──世界は変わった。

 何事も無かったかのように。









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