【完結】女装男子のインビジブルな恋愛事情。
■【六章 Act as one likes,】■
夏の名残がまだ端々に垣間見える秋、新学期──。
学生銘々が誇らしげに焼けた肌を露出させて、夏休み何していたかという質問が飛び交うのは、縄張り意識が高い我がクラスだ。
朝から己が所属している事務所のリーダーを囲んで、わいわいがやがやと楽しげに、夏の思い出、手を繋いで、歩いた海岸線に想いを馳せている。なんでケツメイシ? しかも割と古い曲だが、これはきっと昨夜、何気無くかけたFMラジオのせいだろう。
そんな雑然としたクラスの中で一際目立つが、佐竹義信率いるウェーイ勢、月ノ宮楓をアイドル視している勢、そして、天野恋莉率いるマリ見てよろしく勢である。
僕はそれら軍団を視て、彼、彼女達のコミュニケーション能力の高さに脱帽するも、そんな事は言うも愚かだと太平楽を並べるが、一抹の寂しさも覚えてしまう。
僕と彼、彼女らの住処は違う。
それが露骨に現れている状況は、この夏、一緒に過ごしたはずの記憶に影を落とし、実は、あの出来事の数々は泡沫の夢だったんじゃないか? とすら思えてしまうが、本来あるべき姿はこれなんだと、現実を知るには事足り過ぎた。
これは嫉妬なんだろうか? それとも、憧れなんだろうか?
どちらにせよ、愉快な感情ではない。
僕はそれらの邪な感情を払い除けようと、久し振りに『馬鹿野郎!』と叫ぶボーカルの曲を耳に当てた。しかし、最近、ジャズやボサノバを聴いていた僕には耳が痛くて直ぐに停止する。──好きなジャンルだったのに、今ではそれが耳障りになってしまったのはどうしてだろうか? ……心当たりが無いわけじゃない。
それにしてもこのクラスは派閥があり過ぎやしないだろうか? 傍目から視ても四、五グループは存在している。まるで某・アイドルグループだな。フライングゲットがへービーローテーションしてフォーチュンクッキーが食べたくなるまである。余りにも、虚勢を貼り過ぎて、馬鹿馬鹿しい。エー、ケー、ビィー! ヒィーヤッ! ……あれ、これってBKBじゃなかったけ? まあ、どっちでもいいか。彼、彼女らが所属事務所に帰すのは喜ばしい事だろう。僕みたいな甲斐性無しに付き合っていては青春を謳歌出来ないし、昇華も出来ないし、栄華にもならない。それに、夏休みを過ぎて人間関係が変化するのは当然に視て来た事だし、僕だってそれを経験して来たので、そう思えば納得も出来るだろう。
『──本当に? アナタはそれでいいの? 触れてしまった憧憬に、少しの未練も無いの?』
……この自問自答も何だか懐かしいな。
以前は何度もこの声に悩まされてきたけど、あの夏を経て変わる事が出来なかった僕には、この現状がお似合いだろう。
『嘘が下手になったね』
全くもって本当に、下手になったもんだよ──。
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