【完結】女装男子のインビジブルな恋愛事情。
一十二時限目 ダンデライオン[前]
天野さんとの一件から、一週間が過ぎた。
あの日の翌日、僕は佐竹と月ノ宮さんを呼び出して『ある提案』をした。それは、以前から不満に思っていたこと『僕の呼び方について』である。
天野さんは優梨に扮した僕のことを〈ユウちゃん〉と呼ぶ。それに対して、佐竹と月ノ宮さんは優志である僕を〈ユウ・ユウさん〉と呼ぶなんて危険極まりないだろう──と、提案したのだ。もし、そのことを指摘されて『あだ名が同じなのはただの偶然』で済むはずがない。致命傷に他ならず、首の皮一枚繋がればまだいいって話。
──たしかに、リスクは高いですね。
──バレたら人生終わるもんな、ガチで。
精査の結果、僕のことは〈優志・優志さん〉と呼ぶことに決定して、見事、僕の目論見通り、違和感を感じるあだ名を撤回することに成功した。だが、呼び方なんて、彼らにとっては些細な変化でしかないのだろう。あだ名とは、常に変化するものだからだ。
例えば、クラスに『山崎』という人間がいたとする。
山崎君が最初に与えられるあだ名の第一位は〈ヤマちゃん〉だ。〈ヤマさん〉も僅差ではあるが、その場合は性別で左右するだろう。女子だったら〈ヤマさん〉の確率がちょこっとだけ上がるけれど、そんなのは気分次第であり、匙加減だ。
変わり種として〈学級王〉があるけれど、あの漫画の存在を知らない限り絶対に呼ばれない──てか、僕しか知らないだろうな。
しっかし、なあ……。
父さんもよくあんな古い漫画を取っておいたものだ。父さんの書斎にはいろんな本があるけど、懐かしい漫画もごろごろ有って、日がな一日を過ごすには最適とも言えるけど、残念ながらほとんどの漫画は読み終えてしまっている。今度は母さんの部屋にある本棚を漁ろうかと企てているが、それはまた置いておくとして──僕の年代でその漫画を知っている者はごく僅かだし、ほぼ無いと言っていいくらいの珍種である。
ヤマちゃんから始まって、季節が変わるごとに新しい呼び名を与えられ、最終的にはあだ名ではなく〈ヤマザキ〉や苗字で呼ばれるのが終点。
僕は、その工程を全て突破しただけのこと。
それでも〈優志〉と呼ばれるのは抵抗がなかったわけじゃない。
本来ならば〈鶴賀・鶴賀さん〉呼びが妥当だろう。月ノ宮さんはだれに対しても『さん』と敬称で呼ぶからいいとしても、これまで同年代の男に〈優志〉と呼ばれたことはなかった。だから『鶴賀でいい』と言明したんだけど『そんなの他人行儀過ぎるだろ』って許してはくれなかった。いやいや、僕と佐竹は須く他人だからね。親戚同士でもないんだから鶴賀でいいだろ──とは思ったんだけど、彼なりの拘りみたいなものがあるらしく、『友だちなら下の名前で呼び合うのが常識だろ』と豪語していた。嘘つけ、僕は知ってるぞ。佐竹の仲間内に『なんちゃらっち』ってあだ名を持っている人物がいることを。
ところでの話ではあるけれど、僕はいつの間に佐竹と友だちになったんだろうか?
うーん、記憶に無い。
なにかの拍子で別の世界線に移動したならばこういうこともあり得るのだろうけれども、最近、トラックに轢かれた経験は無いしなあ……って、それは異世界に行く方法だった。
異世界というと、昨今はファンタジーのイメージが強く出ている。それは、某・ライトノベルの影響が大きいけれど、僕はもう一つ──いや、本来の意味での異世界も想像してしまうのだ。
エレベータを使って異世界に行く方法があるって中学校の頃に噂が立ち、実際に異世界を見たっていうヤツもいたけど、じゃあ、その異世界がこっちの世界と瓜二つだったらどう見分けをつけるんだとか……話しているのを小耳に挟んだ。異形の者がいたら話は別だけど、価値観も、政治も、世界的ルールが全て同じだった場合、無意識に足を踏み込んでそちら側に渡ってしまったら──ああ、自分は夢でも見たんだろうってそのまま異世界で暮らすことになったら怖いよね。
どちらにしても、だ。
彼に対しては、これからも〈佐竹・佐竹君〉呼びで通すだろう。それよりも問題なのは、目の前にいる大和撫子こと月ノ宮楓だ。
彼女の策略で女装を継続しなければならなくなったのだが、問題はそれだけでは収まらない。その問題とは、月ノ宮さんが僕に対してフレンドリーに接していることで起きる弊害である。
空気でエアーマックスな存在のはずであろう僕が、月ノ宮さんのせいで悪目立ちしているのだ。
これは、誠に由々しき事態である。
ああ痛い──非モテ男子からの妬みの視線が痛々しいが、そんな彼らは彼女の本性なんて知らないのだ。頻りに話題に出す『大和撫子』なる人物の本性、どす黒過ぎる裏の顔を。
僕だって月ノ宮さんの全てを知っているわけじゃないし、全てを知りたいなんて思わないが、彼らには『月ノ宮楓の容姿』しか見ていないように思える。
『日本人形みたいだ』
『高嶺の花だ』
『腹黒妖怪』
とか……最後のはだれの感想だろうね?
いやはや、僕にはさっぱりわからないなあ。
この腹黒妖怪が僕に近づいてくるのは、なにか企んでいる証拠だ。
正直な話、あまり相手をしたくない、と言うのが感想。だからと言って邪険に扱えば、月ノ宮さんをアイドル視している軍勢に『アイツ調子に乗ってる』なんて陰口を叩かれるだろうし、親しく接してみても、やはり『アイツ調子に乗ってる』と睨まれる。
なにこれ、既に詰んでるじゃん。
とどのつまり、だ。
僕は月ノ宮さんに対して『好意』も『敵意』も第三者に悟られてはならない。
はあ?
なんで僕だけが自分のクラスで、メタルギアをソリッドしながらスネークする羽目になってるんだ。
【感謝】
この度は『女装男子のインビジブルな恋愛事情。』にお目通し頂きまして、誠にありがとうございます。皆様がいつも読んで下さるおかげで最新話をお届けできています。まだまだ未熟な私ですが、これからもご贔屓にして頂けたら幸いです。
【お願い】
作品を読んで、少しでも『面白い!』と思って頂けましたら、お手数では御座いますが『♡』を押して頂けますと嬉しい限りです。また、『続きが読みたい!』と思って頂けたましたら、『☆』を押して下さいますとモチベーションにも繋がりますので、重ねてお願い申し上げます。感想は一言でも構いません。『面白かったよ!』だけでもお聞かせ下さい! お願いします!(=人=)ヘコヘコ
【話数について】
当作品は『小説家になろう』と同時進行で投稿しておりますが、『小説家になろう』と『ノベルバ』では、話数が異なっています。その理由は、ノベルバに『章』という概念が無く、無理矢理作品に反映させているため、その分、余計に話数が増えているのです。なので、『小説家になろう』でも、『ノベルバ』でも、進行状況は変わりません。読みやすい方、使いやすい方をお選び下さい♪
【作品の投稿について】
当作品は『毎日投稿』では御座いません。毎日投稿を心掛けてはいますが、作業が煮詰まってしまったり、リアルが現実的に、本当に多忙な場合、投稿を見送らせて頂くことも御座います。その際は、次の投稿までお待ち下さると嬉しい限りです。予め、ご了承ください。
これからも──
女装男子のインビジブルな恋愛事情。
を、よろしくお願い申し上げます。(=ω=)ノ
by 瀬野 或
あの日の翌日、僕は佐竹と月ノ宮さんを呼び出して『ある提案』をした。それは、以前から不満に思っていたこと『僕の呼び方について』である。
天野さんは優梨に扮した僕のことを〈ユウちゃん〉と呼ぶ。それに対して、佐竹と月ノ宮さんは優志である僕を〈ユウ・ユウさん〉と呼ぶなんて危険極まりないだろう──と、提案したのだ。もし、そのことを指摘されて『あだ名が同じなのはただの偶然』で済むはずがない。致命傷に他ならず、首の皮一枚繋がればまだいいって話。
──たしかに、リスクは高いですね。
──バレたら人生終わるもんな、ガチで。
精査の結果、僕のことは〈優志・優志さん〉と呼ぶことに決定して、見事、僕の目論見通り、違和感を感じるあだ名を撤回することに成功した。だが、呼び方なんて、彼らにとっては些細な変化でしかないのだろう。あだ名とは、常に変化するものだからだ。
例えば、クラスに『山崎』という人間がいたとする。
山崎君が最初に与えられるあだ名の第一位は〈ヤマちゃん〉だ。〈ヤマさん〉も僅差ではあるが、その場合は性別で左右するだろう。女子だったら〈ヤマさん〉の確率がちょこっとだけ上がるけれど、そんなのは気分次第であり、匙加減だ。
変わり種として〈学級王〉があるけれど、あの漫画の存在を知らない限り絶対に呼ばれない──てか、僕しか知らないだろうな。
しっかし、なあ……。
父さんもよくあんな古い漫画を取っておいたものだ。父さんの書斎にはいろんな本があるけど、懐かしい漫画もごろごろ有って、日がな一日を過ごすには最適とも言えるけど、残念ながらほとんどの漫画は読み終えてしまっている。今度は母さんの部屋にある本棚を漁ろうかと企てているが、それはまた置いておくとして──僕の年代でその漫画を知っている者はごく僅かだし、ほぼ無いと言っていいくらいの珍種である。
ヤマちゃんから始まって、季節が変わるごとに新しい呼び名を与えられ、最終的にはあだ名ではなく〈ヤマザキ〉や苗字で呼ばれるのが終点。
僕は、その工程を全て突破しただけのこと。
それでも〈優志〉と呼ばれるのは抵抗がなかったわけじゃない。
本来ならば〈鶴賀・鶴賀さん〉呼びが妥当だろう。月ノ宮さんはだれに対しても『さん』と敬称で呼ぶからいいとしても、これまで同年代の男に〈優志〉と呼ばれたことはなかった。だから『鶴賀でいい』と言明したんだけど『そんなの他人行儀過ぎるだろ』って許してはくれなかった。いやいや、僕と佐竹は須く他人だからね。親戚同士でもないんだから鶴賀でいいだろ──とは思ったんだけど、彼なりの拘りみたいなものがあるらしく、『友だちなら下の名前で呼び合うのが常識だろ』と豪語していた。嘘つけ、僕は知ってるぞ。佐竹の仲間内に『なんちゃらっち』ってあだ名を持っている人物がいることを。
ところでの話ではあるけれど、僕はいつの間に佐竹と友だちになったんだろうか?
うーん、記憶に無い。
なにかの拍子で別の世界線に移動したならばこういうこともあり得るのだろうけれども、最近、トラックに轢かれた経験は無いしなあ……って、それは異世界に行く方法だった。
異世界というと、昨今はファンタジーのイメージが強く出ている。それは、某・ライトノベルの影響が大きいけれど、僕はもう一つ──いや、本来の意味での異世界も想像してしまうのだ。
エレベータを使って異世界に行く方法があるって中学校の頃に噂が立ち、実際に異世界を見たっていうヤツもいたけど、じゃあ、その異世界がこっちの世界と瓜二つだったらどう見分けをつけるんだとか……話しているのを小耳に挟んだ。異形の者がいたら話は別だけど、価値観も、政治も、世界的ルールが全て同じだった場合、無意識に足を踏み込んでそちら側に渡ってしまったら──ああ、自分は夢でも見たんだろうってそのまま異世界で暮らすことになったら怖いよね。
どちらにしても、だ。
彼に対しては、これからも〈佐竹・佐竹君〉呼びで通すだろう。それよりも問題なのは、目の前にいる大和撫子こと月ノ宮楓だ。
彼女の策略で女装を継続しなければならなくなったのだが、問題はそれだけでは収まらない。その問題とは、月ノ宮さんが僕に対してフレンドリーに接していることで起きる弊害である。
空気でエアーマックスな存在のはずであろう僕が、月ノ宮さんのせいで悪目立ちしているのだ。
これは、誠に由々しき事態である。
ああ痛い──非モテ男子からの妬みの視線が痛々しいが、そんな彼らは彼女の本性なんて知らないのだ。頻りに話題に出す『大和撫子』なる人物の本性、どす黒過ぎる裏の顔を。
僕だって月ノ宮さんの全てを知っているわけじゃないし、全てを知りたいなんて思わないが、彼らには『月ノ宮楓の容姿』しか見ていないように思える。
『日本人形みたいだ』
『高嶺の花だ』
『腹黒妖怪』
とか……最後のはだれの感想だろうね?
いやはや、僕にはさっぱりわからないなあ。
この腹黒妖怪が僕に近づいてくるのは、なにか企んでいる証拠だ。
正直な話、あまり相手をしたくない、と言うのが感想。だからと言って邪険に扱えば、月ノ宮さんをアイドル視している軍勢に『アイツ調子に乗ってる』なんて陰口を叩かれるだろうし、親しく接してみても、やはり『アイツ調子に乗ってる』と睨まれる。
なにこれ、既に詰んでるじゃん。
とどのつまり、だ。
僕は月ノ宮さんに対して『好意』も『敵意』も第三者に悟られてはならない。
はあ?
なんで僕だけが自分のクラスで、メタルギアをソリッドしながらスネークする羽目になってるんだ。
【感謝】
この度は『女装男子のインビジブルな恋愛事情。』にお目通し頂きまして、誠にありがとうございます。皆様がいつも読んで下さるおかげで最新話をお届けできています。まだまだ未熟な私ですが、これからもご贔屓にして頂けたら幸いです。
【お願い】
作品を読んで、少しでも『面白い!』と思って頂けましたら、お手数では御座いますが『♡』を押して頂けますと嬉しい限りです。また、『続きが読みたい!』と思って頂けたましたら、『☆』を押して下さいますとモチベーションにも繋がりますので、重ねてお願い申し上げます。感想は一言でも構いません。『面白かったよ!』だけでもお聞かせ下さい! お願いします!(=人=)ヘコヘコ
【話数について】
当作品は『小説家になろう』と同時進行で投稿しておりますが、『小説家になろう』と『ノベルバ』では、話数が異なっています。その理由は、ノベルバに『章』という概念が無く、無理矢理作品に反映させているため、その分、余計に話数が増えているのです。なので、『小説家になろう』でも、『ノベルバ』でも、進行状況は変わりません。読みやすい方、使いやすい方をお選び下さい♪
【作品の投稿について】
当作品は『毎日投稿』では御座いません。毎日投稿を心掛けてはいますが、作業が煮詰まってしまったり、リアルが現実的に、本当に多忙な場合、投稿を見送らせて頂くことも御座います。その際は、次の投稿までお待ち下さると嬉しい限りです。予め、ご了承ください。
これからも──
女装男子のインビジブルな恋愛事情。
を、よろしくお願い申し上げます。(=ω=)ノ
by 瀬野 或
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