天才の天災

春夜

『味方』

ある日、公園のベンチで寝ていると誰かが
話しかけてきた。
目を開けると、知らない女の人。
俺はすぐに昨日のことを思い出し、
警察が連れ戻しに来たのかとも思ったが、
私服で、俺のことを知らなそうだった。
「ねぇ、君、いくつ?どこから来たの?
どうしてこんなところで寝てるの?
お父さんとお母さんは?」
無視しているにも関わらず質問の連続。
(はぁ、鬱陶しい...)
蓮はそのまま何も答えずに公園から出て
歩き出した。
女の人はただ呆然と後ろ姿を見ていた。
蓮はその日隣町の公園のドーム状の遊具の中で眠ることにした。
数十分経った時...
「ばぁ!!」
遊具の穴から朝の女が顔を出してきた。
「ふふっ。びっくりした?ごめんね。
君、朝早くに公園で寝てたからもしかしたらと思ってついてきちゃった。」
「別にいい。邪魔しないで。」
「ねぇ、なんでこんなところで寝るの?
お家は?迷子?」
「ない。」
「えっ?!お父さんとお母さんは?」
「もういない。」
「あ...ご、ごめん...」

「ねぇ、家に来ない?」
「行かない。」
「でもほら、ここ、もうすぐで夜寒くなっちゃうよ?」
「いい。」
前の同居人で理解した。
1人の方が楽だと。
俺にとってはあれでも気を使っていた方なのだ。
「んー...よしっ!じゃ、私も今日はここで寝る!」
そう言って女も入ってきた。
あくまで子供が遊ぶことを前提に作られた遊具の中だ。2人も足を伸ばせば狭くなるのは当然。
「なら、俺が出ていく。」
女の静止の声を振り切って場所を変えた。
公園からそんなに離れていない、空き地の
土管の裏。
その日、女が追いかけてくることは無かった。
次の日、前の公園に戻ると女の姿が無かったので、今日はここにしようと昨日と同じ遊具の中に入った。

グゥゥーーーー

そう言えば、約3日何も食べていない。
お金も持ってない。保険金がどうのとか言ってたがあれはあの人らのであって、俺のじゃない。お小遣いも同様。
だから全額置いてきたし、使う気もない。
寝てる間は空腹感は気にならなくなる。
まだ夕方だけど、寝ることに……
するはずだった。
昨日の女の人がまた来た。
それも肩で息をしながら。
「また来たの?今日もここで寝るの?」
俺はまた昨日のところで寝ようと遊具から出た瞬間、
抱きしめられた。
「何?」
色々な感情を情報として知ってはいたが、
今抱きしめられる理由、女の人が泣いてる理由を理解出来なかった。
「この前のニュース、見ちゃった...
君、氷上蓮くん、だよね...」
「そうだけど...警察に突き出す?」
「……うちに来ない?1人で抱えなくてもいいよ...警察が嫌なら、私が庇ってあげる...」
たしかに警察に見つかってしまっては
どうしようもない。
そのまま連れていかれるのがオチだろう。
「はぁ。いいよ。警察よりはマシだから。」
「ふふっ。ありがと。」
そのまま沙織の家に行き、住むことになった。

沙織はどこから稼いでいるのかよく分からないが、小学校~高校までの費用を払い、
毎日決して質素とは言えないものばかり
食卓に並んだ。
「何か欲しいものがあったら言ってね。」
口癖なのかと思うレベルで高校に入るまでも何回も言われた言葉。
毎回「ない。」と答えているにもかかわらず、「ゲームとか最近の子やってるみたいだから買ってきたよ!」
などと言って色んなものが増えていた。

高校の屋上で適当に時間を潰して帰ったある日、家に帰るといつものように沙織が夕飯の用意をしていた。
「おかえり!今日はお刺身が安かったの!あと2品ほど作るから、手洗ってきて。」
その日は何を思ったのか、なぜ、そういう行動をとったのか自分でも分からない。
その時俺は、沙織に本当の事を話した。
「俺は、2人を殺した。敵になったから、殺した。」周りの人には理解されないということも分かっていた。
でも、蓮の本心をそのまま伝えた。
沙織はコンロの火を止め、その場に正座
して、深く深呼吸をした。
「...うん。...知ってる。
...いや、知らなかったけど...なんか、
そうなのかな、とは...思ってた...」
少し俯いて、暗い表情をうかべた。
「……」
俺は何も言わない。
何かを言って欲しかった訳でもない。
ただ、沙織の言葉を待つ。
「...でも、その、なんて言うのかな...
怖くないわけじゃ、ない……でも、
私は蓮くんの事、好きなんだ...
変、なのかな...蓮くんが、私の事嫌いになっちゃって...もし、もしね。私の首を切って逃げちゃったとしたら...」

「私、蓮くんを庇って、痕跡とか、
全部消しちゃうんだろうなぁ...」
沙織は震えながらも、笑顔で答えた。
恐怖を感じながらも、引き攣った笑顔を浮かべる。

さすがにそれには驚いた。
殺されそうになれば恨みこそすれど、
庇うと言われるとは思ってもいなかった。

沙織は目尻の涙を拭い、
「さ、ご飯にしよ!手...洗ってきて。」
と、いつもの沙織に戻った。

その日のことは、よく覚えている。
沙織を心から信頼した日。
初めて、『同居人』でも『敵』でもない、
『味方』ができた日。
そして、
初めて、俺が泣いた日。

コメント

  • Kまる

    ストーリーがしっかりしててかなり好き

    1
  • akebono

    面白過ぎて禿げそう

    1
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