神様と異世界旅行

ダグドガ星 危険な調査・・・だったはず

次の日の朝、俺達はカセ村の門の前に居た。
時間にしたら8時頃。ちなみにセレンさんが教えてくれました。
俺達の前にはタートさん、ゴードンさんあとフウさんが居る。
フウさんは背丈はタートさんと同じぐらいでスカートではなくズボンを履き、長い髪を後ろで三つ編みにしている。話した所、性格はタートさんに似たものを感じた。
俺はここで一緒に行く、もう一人と落ち合う予定なのだが。
俺は首を傾げて、タートさんに尋ねる。

「タートさん、着いてきて頂ける方は何処ですか?」

タートさんは頬に片手を当てて、優しく微笑み言う。もう、それは普通の様に。

「私です」
「・・・は?」
「ですから、私が案内致します」
「・・・村長ですよね?」
「はい、そうですね」

はい、そうですね・・・じゃ、なくてさ。いやいや、なに考えてんだ。調査行ってる間に村に何かあったらどうするんだ。
タートさんは俺の表情から気持ち読んだのか、真剣な表情になり言う。

「私が行く事にはちゃんと理由はあります。まず、簡単に道案内が出来る事。次に襲われている馬車があった場合、ルイシェンの物か判別出来ます。そして、これが一番重要なのですけど。もし結果が最悪の場合近くのルイシェンに行く事になります。そこで私が居た方が話しが迅速に動くはずです」
「・・・よそ者の言葉より、という事ですね?」
「しかも、私は村長ですからね」

そんな楽しそうに微笑まれても。
よく見るとタートさんはスカートではなく、ズボンを履いており腰に革製だろうかポーチを付けている。タートさんは「それに・・・」と言うとフウさんを見る。フウさんは困った様に微笑んだ。

「私と村長は、実は同格なんです」
「え?」
「私に何かあった場合、フウが村長なんですよ。フウは人望もありますし、戦いの腕も確かですから。それにゴードンの奥様ですしね」
「・・・うむ」

俺はゴードンさんに目を向ける。フウさんに逆らう所か、従順な雰囲気が見える。
完全に尻に敷かれてるな。でも、仲は良さそうだ。

「なので、少しの間なら大丈夫です。いえ、今動かなければ村長ではありませんよ」

そう言うとタートさんは真剣な表情で俺を見据えた。
断れないな、タートさんの言い分はごもっともだ。俺は微笑すると言う。

「分かりました、宜しくお願いしますタートさん」

俺の返答にタートさんは嬉しそうに微笑み言う。

「お任せくださいな」

俺は不意に気になり後ろを見て、茜さんセレンさん、ミリスにデミルの4人に尋ねる。

「って、勝手に決めちゃったけど良いかな?」

俺の言葉に4人はそれぞれ顔を見合わせると、楽しそうに微笑む。

「したい様に、するが良いでのう?」
「盾様の思った様に動いて下さい」
「お、夫に妻は着いて行くものです」
「・・・支えるのが、妻だし」

4人の言葉は嬉しい。茜さんとセレンさんの言葉は予想通りだが。ミリスやデミルも、顔を真っ赤にして照れるなら言わなきゃ良いのに。まぁ、眼福だが。
俺は、軽く溜め息を吐くと、微笑みタートさんに言う。

「では、行きましょうか」
「えぇ」

タートさんが歩き出そうと足を一歩踏み出す。

「ティー」

フウさんが言うと、タートさんは振り向いてフウさんを見る。
フウさんは真剣な表情で、尚且つ心配そうに言う。

「無茶はしないでね?」
「えぇ、分かっていますよ。フウ・・・姉さんも、村をお願いしますね」

タートさんは優しく微笑むと「行きましょう」と俺の前を歩き始めた。
うん、今の言葉からも感じるが役目以外でも仲が良いだろうな。猶更、タートさんに危険にさらせないな。
俺はタートさんの後ろ歩きながら気を引き締めた。


気を引き締めたはずなんです。
えぇ、何せ危険な調査だし?命の危険もあるしさ。一応、メンバーの中で男性は俺一人だし。

「そうそう、そうなんじゃ。盾はのう、自分の事を実力の無いものだと思っておってなぁ」
「だけど、蓋を開けてみれば大抵の事はしていますしね」
「他の星から来たというのに、順応早いですし」
「自慢する訳でもないし」
「まぁ、そうなのですね」

俺の前を歩いてる5人は先程から俺の話題で話しを楽しんでいる。
まだ、歩き始めて3時間ぐらいだが数匹のテルウルフに襲われた位だ。そこまでは良い。俺の戦い方を見たタートさんが茜さんに話し掛けたのが始まり。
そこから、途切れる事もなく俺の話題。茜さんとセレンさんならまだしも、まだ3日位しか一緒に居ないミリスとデミルまで混ざっている。
・・・良く考えたら、出会って3日でミリスとデミルにプロポーズしたのか俺は。中々の女たらしだよ、自分で言うのもなんだが。
不意に先頭を歩いているタートさんの横に並んでいた茜さんが、顔を振り向かせ俺を見て悪戯っ子の様にクックッ笑う。

「居心地が悪そうだのう?」
「・・・他の話題にしてくれたら、嬉しいんだけどな」
「無理だのう」
「無理なのかい」

俺は片手を額に当てると、小さく溜め息を吐く。
すると、セレンさんが歩く速度を落とすと俺の隣に並んで歩き始めた。

「では、私が話し相手になりますよ?」
「えっと、ありがとうございます」
「敬語」
「ありがとう、セレンさん」

セレンさんは無表情のまま頷くと前を向く。
何だろう、なんか満足気に見えたんだが。そういえばタートさんが表情が薄いだけって言ってたな。という事は無表情の中にも、うっすらと感情がある訳で。ぁ、もしかして俺、セレンさんの無表情に良い意味で慣れてきたか?

「今、私は楽しいのです」
「え?」

前を向いたセレンさんは少し空を見上げると話し出した。
俺は、セレンさんの横顔を見る。

「私は知識は豊富ですが、経験が不足していたんです」
「・・・」
「大地の匂い、草木の匂い、星の壮観さ、感触。今、私は色々な事が知れて嬉しいし楽しいのです」
「まだ、旅は始まったばかりだけど?」
「それも、楽しみの一つです。これから何が起こるのか、予測できない未来を思う。そんな事、今まで考えた事なかったのですから。それも、盾様のお陰ですよ」

セレンさんは、そう言うと空に向けていた顔を俺の方に向けた。
セレンさん、大袈裟過ぎる。そんな大した事は、俺はしてないぞ?
俺は困った様に微笑むと、言う。

「俺は何もしていないよ」
「いえ、あの時にあの空間に茜様と来て頂いたから私は救われたのです」
「救われたって、大袈裟だな」
「・・・盾様は今までもその様に、色々な人達に手を差し伸べてきたんでしょうね」
「へ?」

セレンさんは首を横に振ると、俺の目を見て言う。

「いえ、これからも盾様のしたい様に行動してください。茜様と同様、私も着いて行きますから」
「ありがとう」
「はい」

心無しかセレンさんの雰囲気が柔らかくなった様な気がした。
何故か俺も嬉しくなり微笑み、前を向こうとした時。

「ところで」

セレンさんが話し出したので、首を傾げながらセレンさんの顔を見る。

「茜様の頬は揉みしだいたんですか?」
「・・・へ?」

ぁ、すっかり忘れてたわ。なんだかんだ言いながら次々にイベントが発生してたからなぁ。
俺はそこまで意識してなかったのだが、これに反応したのは茜さんだった。

「セ、セレン、お主・・・何を突然言うのだのう?」

前を歩いていた茜さんは顔をこちらに向けて、少し照れた様な困り顔でセレンさんに言う。
そんな茜さんにセレンさんは、ほんの少し小首を傾げて答える。

「いえ、気になったので盾様に聞いたのですよ」
「いやな、そこはワシに聞くべきではないかのう?」
「いえ、そうでもありませんよ」
「・・・まさかだがのう?ワシの反応を聞こうとしたのかのう?」
「・・・いえいえ、違いますよ」

多分だが、俺はセレンさんが嘘を吐いたのを初めて見たかもしれない。
間違いなく俺が茜さんの頬を揉みしだいていたら、その時の状況を聞く気だったんだ。
そんな茜さんを見たタートさんは、片手を口に当てて楽しそうに微笑みながら言う。

「こうやって見ると神属も人と変わらないのですね」

この言葉に茜さんは呆れた様に、タートさんに言う。

「それは当たり前じゃろう。神属というだけで、後は人と何ら変わらんよ」
「たまに勘違いした神属もいますが」

茜さんの言葉を補足する様に、セレンさんは続けた。
・・・何だろう、セレンさん何となく言葉にも柔らかさが出てきた様な気がする。
茜さんの少し後ろを歩いていたミリスとデミルは顔を見合わせながら、楽しそうに笑い言う。

「でも、誰も神属が二人も森の中を歩いているとは思いませんよ」
「そうそう、しかも散歩するみたいにね」

しかも、その神属に求婚した奴までな。自分で笑えてくる。
二人の言葉に皆で笑い合っていると、隣に居るセレンさんが横の木々を見て言う。

「6匹ですね、テルウルフです」

セレンさんは視線をデミルに向けると、デミルは答える様に頷く。
ミリスは緊張感がある表情をしてデミルの前に立つと、腰から長剣を抜く。

「どれ、たまにはワシも戦ってみようかのう」
「え、茜さんが戦うのか?」
「茜様が戦うのでしたら、私も御一緒しましょう」
「・・・セレンさんまで?」

茜さんとセレンさんの言葉に戦う気でいた、ミリス、デミルとタートさんは驚いた表情で二人を見る。
茜さんはテルウルフが出て来るであろう木々に皆より前に出て、皆の顔を見渡すと苦笑しながら言う。

「たまには、働かぬとのう?」
「後は盾様に良い所を見せたいのでしょう」
「セ・レ・ン?」
「・・・すみません」

茜さんはセレンさんをジト目で見た後、俺をチラ見して木々の方を向く。
茜さん、耳が赤いですよ?という事はセレンさんの言った事は、当たりかな?
茜さんは着物の裾から何かを取り出す。綺麗な緋色をした、扇子だろうか。
ここからでも、分かるが紅葉を模してあるかの様な。俺の視線に気付いたのか顔を木々に向けたまま、扇子を開いて俺に良く見える様にしてくれた。

「綺麗じゃろう?」

のう?と、俺を横目で嬉しそうに見る。
確かに綺麗だ、見ただけで安物じゃない事が分かる。
・・・だけど、嬉しそうな笑顔をしている茜さんの方が綺麗なんて、口に出したら臭いんだろうなぁ。

「タートは問題ないがの。ミリス、デミルは参考にはならんだろうが、良く見ておくんじゃぞ?」

ミリスとデミルは真剣な表情で頷く。タートさんは茜さんの言葉に、頬に片手を当てて困った様に微笑している。
茜さんが言う様にタートさんは強かった。武器を使わない素手での格闘術なのか、打撃、投げ、決め。たった数度の戦闘で身体能力の高さを俺達に示していた。

「来ます」

セレンさんがそう言うと、茂みの中から一斉に6匹が飛び出して来た。
茜さんは慌てる事もなく扇子を下から上に艶やかに仰ぐ。
キャンッとテルウルフが鳴いたと思ったら6匹は宙を舞っていた。

「セレン、頼んだでのう?」
「お安い御用です」

茜さんの言葉にセレンさんは答えるとテルウルフに向かって、片手を翳す。
そう翳しただけだった。俺には、そう見えた。
茜さんはテルウルフが地面に落ちる前に、笑顔でこちらを振り向いた。

「さぁ、タート。処理は任せたからの?」
「いや、茜さん処理って・・・」

宙を舞って、落下に入ったテルウルフ達を見ても無傷のままだ。
俺の言葉に茜さんは楽しそうにクックッ笑うと、俺の隣に早足で来る。

「地面に衝突したら分かりますよ」

セレンさんは俺の隣で言う。
俺はセレンさんの言葉にテルウルフ達を見上げる。
他の三人も不思議そうに首を傾げている。気持ちは良く分かる。
・・・いや、本当か?数匹は着地体勢に入ってるぞ?
だが、テルウルフが着地したと思ったらズルッと半分に割れる。他のテルウルフ達も着地した順番から切断されていった。胴体を分かれされたり頭から半分とか様々だが、全てのテルウルフは死に絶えていた。

「どうして・・・」

俺の呟きに茜さんは右腕に抱き着きながら、楽しそうに微笑み言う。

「セレンの結界だのう」
「ぇ、結界?」

俺は驚き、茜さんからセレンさんに視線を移す。
他の皆もそうだ。茜さんの言葉に驚きセレンさんを見ている。
セレンさんは俺を含めた皆の視線に気付くと、無表情のまま「あぁ、成程」と呟き頷く。

「皆様は結界は何かを守るだけ、と思ってるのですね」
「違うのか?」
「半分、当たりです」
「言っただのう、セレンの結界は全てを遮断してしまうとのう?」
「・・・結界で切ったって事か?」
「そういう事です」

恐ろしいな、おい。というか、セレンさんの規格外も茜さんに似たり寄ったりじゃないか。
タートさんはテルウルフ達の死体に近づき毛皮を剥ぎ取り始める。剥ぎ取りながら苦笑すると言う。

「恐ろしいですけど、処理が楽ですわ」

ミリスとデミルもタートさんに近づき手伝いを始める。

「綺麗な断面です。剣で切っても、こんなに綺麗には切れませんよ・・・」
「本人達も気付かない内に切られているなんて、思わないしね・・・」
「えぇ、本当に。デミル見てください。このテルウルフなんか、心臓がまだ動いてますよ?」
「本当だ・・・。逆に心臓が動いている所、初めて見たかも」
「そういえば、そうですね」

お二人さん、話しの内容がグロイですよ?
ミリスとデミルはタートさんに時々質問をしながらテルウルフを解体していった。
俺も参加したいんだが。腕に抱き着いている茜さんをチラ見する。茜さんは俺の視線に気付くとクックッと楽しそうに笑う。

「働いた者には労わんとのう?」
「・・・はい?」
「私も労って頂けるのですか?」

セレンさんも振り向き、俺を見てくる。
・・・どう、労えと?
茜さんは悪戯っ子の様な笑顔で微笑み、セレンさんは無表情のまま俺との距離を一歩詰める。
いや、怖い怖い、何だっ?

「ほらのう、昔から良い事した者には頭を撫でただのう?」
「今日は良い行いをしたはずです」
「・・・頭を撫でろと?」
「盾にも得する事が起きるでのう?」
「得?」

俺は嫌な予感をさせながら、聞き返してしまう。
茜さんは目を細めながら俺を見て言う。

「盾から、ワシらに触れれる」
「それで、喜んだら危なくないか?」
「・・・盾様ですね」
「だのう」

いや、なんで二人共呆れてるんだ。解体作業をしているミリスとデミルも俺を見て、溜め息を吐いているし。

「まぁ、取り敢えずのう、撫でるだのう」
「どうぞ」
「あの、さ・・・」
「おヌシは・・・早うせい」
「・・・はい」

その後、タートさん達の解体作業が終わるまで茜さんとセレンさんの頭を交互にナデナデした。
タートさんには、ニヤニヤされながら「御馳走様です」と、言われるし。
ミリスとデミルには。

「あの、私達にも御褒美を・・・」
「勿論、あるよね?」

って、少し怖い眼をした二人に迫られるし。
散々だったが、なんだなんか言いながら進行状況は良好だった。
再び歩き始め、途中何度かテルウルフの襲撃にあったが。
ただ、気になるのは進むに連れて襲撃の頻度が少なくなっていった事だろうか。
日も暮れ始めた位でタートさんが、俺達を振り返り言う。

「今日はそこの道の脇で野営を致しましょうか」
「分かりました」
「では、ミリスさんデミルさんは焚火をする為の木を私と探しに行きましょう」
「タートさん、俺は何をしたらいいですか?」
「・・・頼んでも宜しいでしょうか?」
「任せるがいいだのう」
「お任せ下さい」

タートさんは困った微笑みをしながら片手を頬に当てている。
それもそうだろう。茜さんとセレンさんが俺の両腕に抱き着いているのだから。
そりゃ、言い淀むはずだ。

「でしたら、野営する場所を整えておいて頂きますか?」
「分かりました」
「分かっただのう」
「すぐ済ませます」

タートさんは困った微笑みを俺を見ながらしてきた。
気持ちは凄く分かります。でも、無理です。神様達は止まりません。
こっちの気遣いとかは完全無視だからなぁ。
・・・片方は、俺の嫁さんだけれども。

そして、戻ってきたタートさんを茜さんとセレンさんが力を使い木々がない芝生の様な、野営をするには最高の状態にして驚かせたのは言うまでもないのだが。
勿論、ミリスとデミルの頭も撫でました。
一つ言わせて貰えるなら、言いたい。

頼むから、身体を密着させて来るのは止めてください。














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