神様と異世界旅行

ダグドガ星 色々、覚悟が必要な様です

俺は空気の冷たさで目を覚ました。
欠伸を一つして寝袋から出て、テントの外に出る。
周りは白い霧にに覆われていた。

「森の中だからか」

俺は呟くと肌寒さで軽く身震いする。
空気は美味しい、だけどやはり森の中だ。朝は長袖を着ていても肌寒いと感じてしまう。
深呼吸を一つして、背伸びをする。慣れたもので、それで軽く目が覚めるのだから自分ながら都合の良い身体だと思う。
正直に言えば昨日の、茜さんの言葉の事を寝袋に入ってからも考えていた為、寝不足だ。
寝不足の報酬という訳ではないが、答えは出た。
嫁さん、欲しいです。はい。
いや、葛藤は勿論してみたが。良く考えてみたら一人は神属だし、二人は文化が違うだろうと。
結局はタートさんが言う様に、俺がどうしたいか、なのだろう。
・・・セレンさんは、少しづつ気付いていこうと思う。
信頼なのか、それとも好意なのか。
俺は溜め息を一つすると、テントに戻る為に振り向こうとする、が。

「はっ?」

不意に後ろから身体を抱き締められた。
突然だったので驚いたが、こんな事するのは一人しかいない。いや、それよりも着物の端が腕ごと見えているんだ。これで、分からなかったら嫁とか以前の問題だ。

「早起きなんだな、茜さん」
「基本的にワシ達、神属は睡眠はあまりいらないからのう」
「流石、神属だな」
「まぁ・・・のう」
「ん?」

後ろで軽く笑ったのか、困った様な声で茜さんは続ける。

「寝れたとしても盾と一緒で、あまり寝れなかったと思うがのう?」
「・・・そうか」

俺は胸の辺りにある茜さんの腕を、両手で抱える。
茜さんは俺の手が自分の腕に触れると、ピクッと反応はしたが嫌がる事はなかった。
覚悟を決めたからか、俺に不思議と恥ずかしさはなかった。人の温もりが肌寒い気温に丁度いい。
それと、安心感。

「答えを、急かしてしまったかのう?」

茜さんは、心配そうな声で俺に聞いてきた。
そういえば、茜さんは俺の記憶を見たんだったな。俺は簡単な問題なら直ぐ答えを出すが、人生を左右する問題があると、大抵は一日悩み答えを出す。早すぎる気がするが、別に適当に出してる訳でもない。問題に悩んで歩みを止めるのが嫌なんだ。
そして、その出した答えに後悔はしない。

「そんな事はないよ」

俺は出来るだけ安心させる様に、微笑みながら言う。

「なぁ、茜さん。記憶を見たなら知ってると思うけど、俺は普通の育ち方をしていない」
「・・・うむ」
「両親は共働きで家に居なくてさ。二人共、仕事人間だったから。金はあったけど、愛情はなかった」
「・・・」

祝い事、何かの行事を両親と過ごした事もない。

「だけど育てて貰った感謝がある、だから最後まで看取った。自分なりの筋は通した」
「うむ」
「だから、そこの所・・・かなり鈍感でさ。信頼なのか好意なのか、気付きにくいんだ」
「知ってるだのう」

茜さんは後ろで楽しそうに笑う。
つられて、俺も笑顔になる。

「これから色々勉強するし、知っていこうと思ってる。だから・・・」

茜さんは僅かに抱き締めていた腕に力を入れた。俺の続ける言葉に緊張しているかの様に。
だから俺は覚悟を決めた様に、真剣に言う。

「俺の嫁になって、もらえませんか?」

俺が言葉を発すると、静寂が包み込んだ。
聞こえるのは自分の心臓の音。ヤバイぐらい音が鳴っている。変な汗までかいている。
告白・・・いや、プロポーズってのはこんなに緊張するものなのか。

「・・・自慢しても良いでのう?」

茜さんの声に、緊張のせいであまり回ってない頭を働かせて聞き返す。

「・・・え?」

茜さんは、優しい声で続ける。

「自分の嫁は神属だと、のう」
「それは、最高の自慢だな」

茜さんの答えに嬉しくて笑う。茜さんも俺に釣られてか、後ろで楽しそうに笑った。
ひとしきり笑うと、俺は微笑みながら言う。

「これから宜しくな、茜さん」
「任せるがよいだのう・・・旦那様」

恥ずかしそうな声で続けた茜さんの言葉で、俺は気恥ずかしくなった。
俺は茜さんに抱き着かれたまま、朝霧をしばらく眺めていた。


昼食を済ませた俺達はタートさんの案内のもと、村の中を案内してもらっていた。
案内してもらって気付いた事は、この村は狩りで生活しているというより作物を主体としているらしい。
割合的には作物7の狩りが3という所か。
狩りにしても、着る物を作成する時や襲ってきた時のみだけ。
だが、今年は作物がうまく育たず、困っているらしい。そう言い説明してくれたタートさんは苦笑していた。
そこで口を開いたのは茜さんだった。

「そりゃ、そうだろうのう」

その言葉にタートさんを含む全員は茜さんを見る。茜さんはしゃがむと片手を地面に置き言う。

「龍脈の流れがのう、かなり細くなっているからのう」
「茜さん、細くなっていると駄目なのか」
「栄養を貰えなければ、大地とて死ぬでのう?」

茜さんは軽く思案すると、言う。

「盾よ、門の所で見せた龍脈は覚えておるかのう?」
「あぁ、覚えてるよ」
「なら・・・そら、どうだのう?」

すると大地がほんのり光始め、門の森で見た蜘蛛の巣の様な龍脈が現れた。

「こ、これはっ」
「う、嘘っ!?」
「そんな・・・まさか」

ミリスさんは足元を見て目を見開き、デミルさんはミリスさんの腕に抱き着き驚いていた。
タートさんは驚きのあまり地面を見ながら茫然としている様だった。
そうか、ミリスさんとデミルさんに初めて会った時に茜さんが同じ事をしていたが、ミリスさんは気失っていたしデミルさんは意識が朦朧としていたっけ。
俺は三人を見た後に地面に視線を移すと、気付く。

「茜さん、光が細くないか?」

そう、あの森で見た時はもう少し太かった。だが、今地面で光っている筋は細く糸の様に儚げだった。
茜さんは俺を見て、頷くと地面から手を放す。放すと同時に光は消える。立ち上がり顎に片手を当てて考える様に話し出す。

「そうなんだのう。基本的にあの森の近くでこの弱さは、普通はないんだのう」
「という事は異常なんだな・・・弱まってる理由とか分かる?」
「先程から考えてはおるのだがのう。弱まる理由は限られておってのう」
「そうなのか?」

茜さんは頷くと腰に手を当てて、もう一つの手で一指し指をフリフリさせ続ける。

「星が弱まっているか、何かに吸われているかだのう」
「星が弱まってるか、何かが吸収しているか・・・」

茜さんの言葉を確認する様に繰り返す俺に、茜さんは頷き微笑み続ける。

「だがのう、星が弱まる場合は全体的に細くなっていくのだのう」
「という事は、何かが龍脈を吸収している?」
「それしか考えれないのう?」
「ふむ・・・」

何かか、この広大な森でそれを探すのは困難だな。時間をかければ出来ない事はないだろうが、時間がなぁ。
すると、今まで口を閉ざしていたセレンさんがタートさんを見ると言う。

「タート様、テルウルフがこの村を見つける事は出来るのですか?」
「あ、はい。いえ、最近ですね。ご存じだと思いますけど、このカセ村には空間阻害の魔法が掛かっています。ですが近年、たまに襲ってくる様になったんですよ」

セレンさんはタートさんの言葉に頷き俺と茜さんを見ると、言う。

「テルウルフが関係していると思います」
「え~と、何でですか?」

セレンさんは無表情のまま、俺の問い掛けに答える。

「あのテルウルフは本来、空間阻害を見破る程の魔力を持っていないからです」
「ぇ、でも、昨日この村に襲って来ましたよね?」
「はい、だからおかしいのです」
「・・・鼻が利いたから、ではなくて?」
「空間阻害は匂いも阻害します。魔力の壁ですから」
「まぁ、強度はないがのう」

ふむ、という事はセレンさんが言った様に魔力を感じるしか、この村を見つける方法は無い訳だ。
俺は腕を組み、茜さんを見て尋ねる。

「茜さん、吸われてる場所って分かったりするか?」

茜さんは顎を片手でさすりながら、少し思案して答える。

「出来なくはないがのう。ただ、今みたいに力を使うとのう、村の中ならまだ良いがのう。
周りに住む生き物を刺激してしまうだのう。それに、セレンの考えが当たっていた場合はこの村の位置が完全に知られてしまうだのう」
「それは、よろしくないな」
「だろうのう」

茜さんは苦笑して頷く。
さて、どうしたものか。龍脈の力が戻らないと作物が、育たない。畑関連の知識は曖昧だが、そのまま放置したら茜さんが言う様にいずれ土地が死んでしまう。

「私が位置を調べましょう」

セレンさんは悩んでいた俺たちを見て、無表情のままそう言った。
そして、空に片手をかざすと皆に聞こえる様に言う。

「少し不快感に襲われますが、お許しください」

すると、かざした片手から何か風に押される様な感覚が一瞬した。
実際には風は吹いていないのだが。たまに良くある身体が押された様な変な感覚。
皆を見渡すと似たような現象が起きていたのだろう、自分の身体を見て不思議そうな表情をしていた。平然としていたのは茜さん位だ。
時間にしてみたら1分も経っていないだろう、セレンさんはかざしていた手を下すとタートさんを見て話し出す。

「タート様このカセ村から南に行った所に湖がありますよね?」

タートさんは驚いた様な反応をするが、何とか頷き答える。

「え、えぇ。舗装された道を一日程度でしょうか、歩くと湖があります」
「その湖の周辺に、魔力が高い何かが居ますね・・・すみません」

そこまで話したセレンさんは急に謝る。
俺は首を傾げて、セレンさんに聞く。

「突然、どうしたんです?」
「いえ、もう少し力を込められれば姿、形まで把握出来たのですが。気付かれない様にするにはこれが限界でしたので」
「ん?十分だと思いますけど、セレンさんが謝る事はないですよ?むしろ、感謝しかないですけど。ですよね、タートさん?」

俺は微笑んでタートさんを見ると真剣な表情で頷いてくれた。
セレンさんに顔を戻すと、微笑んだまま言う。

「だから、ありがとうございますセレンさん」
「ですが・・・」
「たまには・・・」
「はい?」

セレンさんは俺の言葉に首を傾げる。

「気を抜く事も大事ですよ。俺が言うのも何ですけどね」
「・・・はい」

微笑み言う俺の言葉に、セレンさんは頷いてくれた。
俺はタートさんを見ると、以前真剣な表情で腕を組み何かを思案していた。
多分だが、これは事を要することだろう。道の途中にあるという湖周辺が原因ならば、その道を使う者が近い内に被害にあってしまう。むしろ、現在まで被害が出ていないのならば幸運だろう。もし、被害に遇うのが交友関係にある村ならば最悪だ。
タートさんは俺を見ると苦笑して、言う。

「タテさんが思っている通りです。非常にまずいです」
「でしょうね・・・」
「調べる為に人員を割きたいのですが、数日ともなると・・・。ですが、どうにか対処しなければ被害が出てしまいますし・・・」

ふむ・・・。
俺は茜さんを見る。茜さんは俺の表情から考えている事が大体分かったのか、優しく微笑み言う。

「盾の思う様にすれば良いでのう?何処にでも付いて行くからのう」
「ありがとう」
「私もですよ?」

セレンさんも俺を見て答えてくれる。
俺は微笑んだまま、礼を言う。

「ありがとうございます」
「敬語」
「え?」
「私にも、ありがとう・・・だけがいいです」

俺は軽く驚き茜さんをチラ見すると、楽しそうに微笑み頷いてきた。
セレンさんに視線を戻し、お礼を言い直す。

「ありがとう、セレンさん」
「はい」

最後にミリスさんとデミルさんを見ると。
何故か不安そうに俺を見ていた。
俺は首を傾げて、不思議そうに尋ねる。

「どうしたんだ、二人共?」

デミルさんはミリスさんと顔を見合わせると、不安そうにしたまま言う。

「私達だけ、居残りはないよね?」
「邪魔は致しませんので・・・」

あぁ、置いて行かれると思ったのか。なんだよ、急にネガティブ志向だな。はぁ、クソ。馬鹿な俺でも分かる。言葉にしなきゃいけない時というのは、こういう時だな。
俺は頭の後ろを軽く搔くと、二人見て微笑み言う。

「置いてかないし、邪魔だと思った事は一度もないよ。二人共、力を貸してくれ。それと・・・」
「「・・・?」」
「俺は意外と独占欲が強いんだ」
「「・・・!?」」
「自分の身内を簡単に手放したりしないさ」
「ぁ、え・・・そういう事、なんですよね?」
「・・・わ、私達の方が強いよ」
「そうなのか?」
「い、いえ、その・・・」
「あぅ・・・」

二人は頬をほんのり赤くさせ戸惑いながら、俺を見る。
おいおい、いつも通りの元気さは何処に行ったんだ。
俺も心臓が変な音を出しているけどもっ。

「続きは、後でハッキリ言うよ」

俺の言葉に二人は顔を見合わせると、恥ずかしそうに頷いてくれた。
タートさんを見ると、ニヤニヤしている。
・・・止めてください、そんな優しい目で見ないでください。俺だって恥ずかしいんだ。
俺は頭の後ろを軽く搔きながら、タートさんに言う。

「その調査、俺達が行きますよ」
「会話と表情で、察しましたが宜しいのですか?」
「まぁ、気になる事もありますし」

タートさんは首を傾げて、怪訝そうに俺を見る。

「気になる事、ですか?」
「はい、それより場所を変えませんか?村の人に聞かれて不安にさせたくないので」

俺は辺りを見渡す。こちらの会話を気にしている様子はないが、ちらほらと農作業をしている人達がいる。
タートさんは頷き、言う。

「なら、私の家に帰りましょう。私の家ならば盗み聞きする者はいませんから」


タートさんの家に皆で戻り、俺は考えている事を話す。
まず、道の横にある泉。道を通る者ならば、もう遭遇して襲われているはず。
タートさんに聞いたが姉妹村 ルイシェンが泉を通り過ぎた場所にあると聞いた。最近も来たらしいが、襲われた形跡はなかったと聞いた。
いやいや、おかしいだろう。相手は自然の獣だ。そのはずだ。それが、ある一定の相手を襲わずにいるなんて、それじゃ躾けられたみたいだと。
タートさんは俺の考えを聞き、額を押さえながら困った様に言う。

「確かに、そうですね。その通りです」
「もし、ルイシェン村は関係がなかった場合。このカセ村の次に危ないのは・・・」
「・・・ルイシェン村という事ですね。どうしましょう、私が考えていたより深刻です」
「俺達は明日の朝にでも出発しようかと思っています」
「・・・そうですね」

タートさんも、俺の表情から読み取ったのか真剣な表情で頷く。
これが人為的な物だった場合、それは戦の前触れだ。ならば、時間が惜しい。
それに、俺自身がモヤモヤするとハッキリさせないと安心できない性格だ。
森の中で、今更だが。

「でしたら、こちらから一人案内に付けましょう」
「良いんですか?」
「一人なら大丈夫です。では早速、話しをしてきますね」

タートさんは微笑みそう言うと立ち上がり、扉に向かっていく。
が、立ち止まり振り返ると真剣な表情で俺を見る。
ん?どうかしたのか?

「タテさん、このカセ村にどうしてそこまで力を貸して頂けるのか、お聞きしても宜しいですか?」
「どうして、ですか?」
「はい。この調査は場合によっては命に関わります。正直な話しですが、タテさんがそこまでする理由が見つかりません」
「そうですね・・・」

俺は困った様に微笑むと、俺の真意を確かめる為なのか目をしっかり見てきているタートさんに言う。

「自分がどうしたいか」
「え?」
「今の自分の行動は、助言に従ってるまでですよ」

厄介な事に首を突っ込んでるのは、自分が良く分かっている。
もしこれを新聞やテレビで見たのなら、へぇ~位で終わっているだろう。
だけど手の届く所で起こっている問題だ。
何処かの勇者や英雄じゃないんだ、俺は自分の手の届く範囲しか見れない。
そもそも、それ以外を見る気がない。俺は俺の身内に全力で手を貸すだけだ。
そう、昨日タートさんに助言して貰った様に。
俺は、俺のしたい様にする。
タートさんは俺の答えに、優しく微笑むと言う。

「皆様が何故、タテさんの傍に居るか・・・分かった様な気がします」
「へ?」
「いえ、分かりました。タテさん改めて宜しくお願い致します。私は準備をしてきます」

タートさんは軽く頭を下げると扉から外に出て行った。
俺は首を傾げて、タートさんが出て行った扉を見つめた。

俺、何かしたのか?




















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